転生悪役王女は平民希望です!

くしゃみ。

文字の大きさ
40 / 44

番外編1:バレンタインデーです!前編

しおりを挟む
とっても出遅れましたバレンタインデーネタです。どうしても季節ネタに乗っかりたかったので大遅刻ですがおおめに見てください!
※本編と関係あるようでありません。たぶん最新話までのネタバレはありません。
各登場人物の初登場を見返したい方は登場人物一覧をご覧ください。

普段に比べてかなり長めの文字数ですが、番外編なのでお許しを…!

***

 そろそろ、前世で言うところのバレンタインデー!この世界では、バレンタインデーではなくて愛の日と呼ばれている。
 お城のなかも、城下町も男女みんなソワソワしている。
 日本のバレンタインデーと違うのは、女性からではなくて男性から女性にプレゼントをすること。…海外では普通にこのスタイルなんだったかな?よく知らないし、覚えてないけど。
 ともかく、愛の日は男性から女性にプレゼントを贈る日なんだけど、恋人や好きな人にだけじゃなくて家族にも贈ることも普通だ。
 他にもいくつか暗黙のルールがあって…。

「フィアーナ、愛の日には何を贈ろうか」
「欲しいものがあれば言え」
「う、うーん…」

 上兄様と下兄様から聞かれて、困ってしまう。豪華なものなんてとても受け取れないし…だからといって要らないと言っていいものか…。

「仕方ないね。今回も適当に選ぶとしよう」
「ああ、贈り物は早い者勝ちですからね」

 困ったように二人が溜め息をついて行ってしまった。
 そう、この愛の日の最大の暗黙のルール…それは、贈り物は他の人と被ってはいけないこと!
 もし被ったとして、先に受け取ってしまったら後の人は泣くことになる。先の人が贈ったものを受け取らなければ、後の人のを貰ってもいいんだけど……なんでこんな面倒なルールになったのかは知らない。
 なので、この日が近付くとみんな好きな女性や家族に欲しいものを聞くのだ。女の子の方も別々に欲しいものを言っておけば被ったりしないしね。

 ……ちなみに、婚約者から絶対に贈らなくてはいけない、というルールはない…ので、レオからは貰ったことはない。
 レオから欲しいなんて烏滸がましいのでねだったこともない。

「でも……花の一本くらいは欲しいわ…」
「誰に?」
「わぁっ!?」

 ぽつりと呟いたら後ろから声を掛けられて驚いてしまった。
 慌てて振り向けば、そこにはしっかりメイクをして、可愛いドレスを着たアスフェリオスの姿。その後ろにはドーラが睨みを利かせて立っている。どうやらドーラがアスフェリオスを通したようだった。

「アスフェリオス!どうしたんですの?」
「そろそろ愛の日だろう?姉さんに贈り物と…フィアーナ王女にもと思って」

 ぱちんとウインクするアスフェリオス。うーん、可愛い。すっかり美少女が板についている。女装することは許されたみたいで、きっと淑女の勉強を一生懸命しているんだろう。
 もしもわたしが男だったら一目見ただけで惚れてただろうなあ…。

「王女様は花が欲しいの?」
「い、いえ、そういう訳では!」

 花が欲しい、といえば欲しいけど…それは、別の人から貰いたくて…。

「…ふーん。貰いたい人がいるのか。といっても僕が持ってきたのは花そのものじゃないんだけどね。はい!」

 複雑そうな顔をしてしまったわたしの心情を読み取って、わざとらしいくらい明るい声で笑って、目の前に差し出したものは…

「香水、ですか?」
「そう、花から採った香りだからきっと気に入るよ」
「わぁ…ありがとうございます、大切に使わせて貰いますわね」

 香水は大人の淑女がよく使っている。同年代で香水を使う令嬢は居ないので、少しだけ大人の階段を登った気分だ。

 にまーっと笑ったアスフェリオスが思い切り顔を近付けてくる。男の子だということを忘れてしまいそうなほどの美少女顔というのは、女でもドキッとしてしまう。

「どういたしまして。お礼は王女様のちゅーでい…いたっ!?」
「調子に乗るのもそこまでになさい。アスフェリオス。さ、渡すものが済んだのならさっさと帰りなさい」
「えー!折角ならこのままお茶会にさあ」
「か、え、り、な、さ、い!」

 あと少しで、くっついてしまいそうというところでドーラが思い切りアスフェリオスの頭を叩く。
 ハッ思わず見惚れてしまってたけど、あとちょっとでキスしてしまうところだった。あ、危ない…。美少女顔、恐るべし…。

 二人が言い合いながら、ドーラに引き摺られてアスフェリオスが部屋から出ていった……。


 庭に出れば、騎士団数人が訓練をしているのが見えた。木で作られた剣には重りがついていて、筋トレも兼ねた訓練みたいだ。
 …自主練なのかな?

「よっ王女様。散歩か?」
「シキ、ごきげんよう。はい、今日はいい天気でしたので」

 わたしに気付いたシキが駆け寄ってくる。その後ろからナイが泣きながらシキを追ってきて……

「王女様あぁあぁぁ…!?!」

 転んだ。
 顔からいったのでかなり痛そう…。

「ナイ、あの、大丈夫ですか…?」
「いてぇっス……うわぁ!鼻擦りむけたー!シキセンパぁイ!」
「うるさい。向こうで治療されてろ」

 鼻の頭が擦りむけたようで血が滲んでしまっている。シキに背中を蹴られてよろめくナイは「見捨てないでくださいよおぉぉ」とシキにしがみついて、シキがナイの頭を思い切り叩く。
 これが騎士団の日常なんだろうか。残りの騎士団の人たちはシキとナイのやり取りを見て笑っている。

 …痛そうだけど、賑やかで楽しそう。

「ふふ、ナイ、よろしければこちらをどうぞ。汚れても構わないものですから、気になさらないで」
「お、王女様!?いいんスか!?」

 わたしがハンカチを差し出せば、ぴたりと泣き止むナイ。鼻にあてるまでは良かったんだけど、に、匂いを嗅がれるのはちょっと引いた。

「王女様は優しいな。あんな馬鹿ほっときゃいいのによ…。ハンカチ、本当にいいのか?王族のものだろ?」
「ええ、いくらでもありますし」

 ハンカチくらいならいくらでもあるし、何よりわたしならぼろ布だって構わないからね。
 わたしがそういえば、シキは腕を組んで何か悩んでいるようだった。

「…じゃ、これ。代わりになんて全然なんねーだろうけど。愛の日も近いしな、受け取ってくれるか?」
「え、でも、シキが使うものではないのですか?それに新しいものですよね、これ」

 少しして差し出してきたのは、綺麗なハンカチ。どうやら一度も使われてない新品のようだ。
 訓練で汗をかくだろうし、受け取ってしまうわけには…。

「元々姫さんに渡そうとしてたモンだから受け取ってくれねーとちょっと寂しいんだが?」

 少し照れたように視線を逸らして、頬をかくシキ。

「…では、受け取らせて貰いますね。ありがとうございます、シキ」

 まさかシキまで何かを用意してくれてたなんて…何度も助けてもらったのはこっちだし、お返しはきちんとしなくちゃね。
「あー!センパイ抜け駆けっスよぉ!?」とナイが騒ぎだして、シキがまた頭を叩いているやり取りはまるでコントのようで。
 微笑ましく思いながらわたしは庭を後にした…。

***

後編へ続きます。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。 一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。 「大変です……!」 ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。 手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。 ◎さくっと終わる短編です(10話程度) ◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

処理中です...