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38:上兄様の秘密です
しおりを挟む「――僕はね、君と同じなんだよ、フィア」
一息おいて、上兄様がわたしを真っ直ぐ見詰めながら告げる。
同じ、っていうと……。もしかして、上兄様も……!?
「僕も君と同じ、この世界に転生した人間なんだ」
「そ、そうだったのですね…」
やっぱり!上兄様も、同じ転生した人だったのね!それなら、少しだけ納得する。わたしのやっていることは、原作からすこーしだけ離れた行動だもの。
あの漫画を知っている人なら、
「本当は、原作通り運命を受け入れるしかないと思っていたんだけど…フィアを見ていて、抗うのも良いのかもしれないな、って」
「……上兄様…」
一瞬、少しだけ悲しそうな瞳をした上兄様。
ん?でも、原作通りの運命って……?クロハーラ王子に何か起こる展開なんてあっただろうか。記憶がうろ覚えになってきてしまっているけど、メインキャラに何かある衝撃的なものなら覚えているはずなのに…。
不思議そうに首を傾げているわたしを、不思議そうに見る上兄様。
「知らないの?…ああ、でもフィアーナが処刑された直ぐ後だったかもしれないな」
「上兄様に何かが起こるんですの?」
「……覚えている限りだけど…僕はアリスを庇って死ぬんだ」
そんなシーン、覚えがない。…前世のわたしが見てない巻なのかな。
何度思い出そうにも、思い出せるのはわたしの記憶はわたしが死ぬシーンまでだった。
「何故アリスを庇ったんですか?」
「正式に王位継承権を得たアリスをよく思わない人が暗殺を仕掛けたんだ」
「そんな展開でしたの…」
フィアーナが死んだあとにそんな展開になっていたのか。確かに、それまで王女と思われていた人物が居なくなれば正しく王女と扱われるだろう。
上兄様に言われた言葉の中でまだわからないことは多いけれど、同じ前世を思い出した者同士、わたしよりも少し先の未来を知っているだけでとても心強い。
「まあ、まだ半分は諦めているけどね。物語の強制力というのは思っているよりもずっと…」
「そんなことありませんわ、上兄様!わたし、諦めません!」
わたしが食いぎみに言えば、上兄様は目を丸くした。
「フィア……」
「わたしは生きたいです。上兄様も死なせたくありません!なので、二人で乗り越えましょう!レオ様も居ますし…三人集まればもんじゃ焼きのなんとかと言いますもの!」
「文殊の知恵、ね。もんじゃ焼きって言葉、懐かしいな……フィアはすごいね」
前世のわたしの意思ではない。今世のわたしの意思として、死を待つだけの運命なんて嫌なのだ。
上兄様が言葉を訂正したあと、少しだけ遠い目をして、ぽつりと呟く。そして手を伸ばしたかと思えばいきなりわたしの頭をぐしゃぐしゃに撫でてきて…レディとは思えないほど頭が思い切り乱れてしまったけど、上兄様を見ればとても嬉しそうに笑っていたので文句は何も言わないでおこう。
「お転婆な王女に期待はしてないけどね。でも、とりあえず明日の大会を乗り越えたらまた一つフラグは折れる気がするよ」
「はい!もし危ないとなったら二人でパン屋を営みましょう、お兄ちゃん!」
上兄様は「それはちょっと嫌だなぁ」と言っていたけど、表情は嫌そうではない。
お城に戻ったわたしたちは、この話はまた大会が終わったあとにゆっくりと、ということにして部屋に戻った。
さあ、明日はついにパン大会当日だ!
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