とあるBARの日常茶飯事

酒本ゆき

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いつもと変わらないはずだった【コハルとの出会い】

第三話

 ルイが言っていたように、人間という生き物は慣れるらしい。

 俺はコハルがいても熟睡できるようになっていた。

 まさか俺が他人に心を許す日が来るなんて……。とても驚いている。

 初めて俺がコハルより遅く起きた日は、コハルが嬉しそうに笑いながら朝飯を用意していた。

 意外と料理もそつなくこなすコハル。いい嫁になりそうだなと考えて、何を考えてるんだと戸惑った。

 段々とコハルがいる普通に似た日常に馴染んできてしまっている。

 楽しさと自分に芽生え始めている感情に、俺は目を背けていた。

 「普通」はいつか消えてなくなるものだ。「愛」はいつか裏切るものだ。

 俺はそう思っている。だから、この心地よさを受け入れたくない。

 *

 ここ最近は情報屋としての仕事は落ち着いていた。

 コハルもBARに出て、俺と共に客をもてなしている。

 だいぶ客が捌けてきた頃の事だった。

 カランっとドアの開く音。新たに客が来たのだろうと思い、俺は「いらっしゃいませ」と声をかける。

 しかし、一向に中に入ってこない客を不審に思い視線をあげた。

 そこには若い男が立っていた。

 「なぁ、あんちゃん。ここにコハルっていう女、いる?」
 
 「……さぁ、どうだろうな?」

 どうやらコハルに招かざる客が来たようだった。幸いにもコハルは買い出しに行かせている。

 なんとか言いくるめて追い出すしかない。

 「嘘つくなよ? ここに居るってのは確かな情報なんだ」

 「確かな情報ねぇ? 案外嘘つかまされたんじゃないか?」

 俺はコップを磨きながら適当に男の相手をする。

 段々イラついてきた男。手を出してくるなら気絶でもさせて、外に放り出せばいいだろう。

 そう思いながら、挑発をする。

 だが。

 「トウマ、ただいまぁ~」

 思っていたよりもコハルが早く帰ってきてしまった。

 「チッ! コハル、こいつの狙いはお前だ!」

 「ふぇ? ……あ、ナオじゃぁん」

 コハルはへらへらと笑う。ナオと呼ばれた男は、彼女に向かって蹴りを放った。

 ナオの蹴りを腕で受け流し、コハルもナオに蹴りを放つ。

 ナオはそれを避け、後ろに引こうとするもコハルに首を掴まれ、そのまま壁に叩きつけられた。

 「ぐぅ……!」

 「相変わらず鈍いねぇ~」

 コハルはスッと目を細めそう言い、ナオから離れた。

 「トウマ、お店で暴れてごめんよぉ……。壊れた物とかは無いと思う……」

 「いや、それは大丈夫だ。で、あいつは一体誰なんだ?」

 「ん~、舎弟」

 「……じゃあ、なんでいきなりやり合うんだよ?」

 敵ではないのに戦い出したことを疑問に思い、聞くとコハルは「ノリ~」と答えた。

 コハルは床で伸びているナオの首根っこを掴み、裏口からポーンっと投げた。

 適当な扱いに内心同情しつつ、俺は少し散らかった店の片づけを始めた。
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