短編集

SIN

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食指が動く

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 何故、今、こんな事になっているのだろう?
 今日は夏休みの宿題をする為、セイの家に来ていた。
 俺と、セイと、シロの3人で、宿題のプリントを黙々とやる予定だったのだ。
 なのに。
 テーブルの上には1枚もプリントが乗っていないし、誰1人としてペンを握ってもいない。
 グツグツ。
 部屋の中はエアコンが利いていて涼しい筈なのに、聞こえて来る音が暑苦し過ぎてちっとも快適な温度に感じられない。
 締め切った部屋の中に充満する独特な匂いが、余計に居心地を悪くさせる。
 何故、今なのだろう?
 「おまたせー」
 トレーの上いっぱいに具材を乗せたセイが戻ってきて始まったのは、何故この時期に?と疑問を抱かずにはいられない食事会。
 メニューは、チーズフォンデュである。
 グツグツ、グツグツ。
 絶対に熱い。
 「どした?食べて食べて」
 ふかしたジャガイモの湯気ですら熱いと言うのに、トロントロンに溶けたチーズ。
 これは、なにかの罰ゲームか?
 「暑いのに、チーズフォンデュって、なんでなん?」
 シロの質問を聞いたセイは、かなり得意げな表情を浮かべ、胸を張ってから、
 「食べてみたかったから」
 と、至って普通の事を言った。
 「にしても、なんでなん?」
 「ん?食べたかったからやけど?」
 「いやいや、だからな。何で今なん?」
 「え?食べたかったからやで?」
 放っていたら何時までも続きそうな言い合いをしている2人の間には、カセットコンロで熱されている鍋が1つ。
 グツグツ、グツグツ。
 そろそろ食べ始めないと、チーズが焦げ付いてしまうんじゃないだろうか。
 「だーかーら、なんでかって聞いてんの」
 もう良いわ!
 「だーかーら、食べたかったんやって」
 だったらさっさと食え!
 「焦げそうやし、弱火にしとくで」
 弱火にした所で、鍋からは相変わらず煮え滾るチーズの音が聞こえて来る。
 これ、下の方は既に焦げているんじゃないだろうか……。
 「焦げたチーズも美味しいやん」
 程度にもよるけどね!
 ピザとか、グラタンとか、そんなのなら焦げてた方が美味しいと思うよ?だけど鍋の焦げ付きなんて、真っ黒に焦げた炭でしかないと思う。チーズフォンデュした事ないから分からないけどね!
 「じゃー、イタダキマス」
 シロは具材として持って来られた1口大のフランスパンをそのまま口に入れ、煮えたぎったチーズを見ないよう顔を背けた。
 チーズ完全無視!?
 グツグツ、グツグツ。
 溶けているチーズはトロトロで、見ている分にはかなり美味しそうだ。
 無邪気な笑顔のセイは、シロの食事法を気にも留めず、ホクホクと湯気が立ち上るジャガイモを箸で掴み、チーズの中へ。
 そしてそのまま口元に。
 鍋からセイの口元までビロンと伸びるチーズは、しっかりとセイの口元や顎辺りにもぴたりとくっつき……。
 「あっつぅ!」
 お約束過ぎるわ!
 急いでティッシュで口元を拭ってやると、確実に火傷をおってしまったのだろう、赤くなっていた。
 「美味い?」
 シロ、ここは普通「大丈夫?」とか声をかけるべきなんじゃないのか?それを味の感想て!
 「ウマイ」
 そしてお前は涙目になりながらも、味の感想しか言わないのか!
 グツグツ、グツグツ。
 「シロもセイも、他に言う事あるやろ」
 何故この時期にチーズフォンデュなのか?ってのがまず真っ先に聞きたい。
 例え食べてみたかったと言う理由があったとしても、もう少し時期をずらせば、もっともっと、絶対に美味しかった筈だ。
 それなのに、夏休み中て!
 罰ゲーム……いや、寧ろ苦行レベルだよ!
 あ、じゃなくて、先に「大丈夫?」だ。
 やりきれない気持ちでセイの顔を見てみると、きっと顎がピリピリ痛むのだろう、ジュースの入ったペットボトルで顎を冷やしていた。
 そうやってから深刻そうに言うんだ。
 「俺、口元溶けてへん?」
 溶ける訳ないだろ!?
 「もー。なんでこの時期にチーズフォンデュなん……」
 フランスパンにチーズを絡めつつ、中々口に持っていけずに独り言を呟いていると、突然セイは立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら、
 「良くぞ聞いてくれた!」
 と。
 さっきからズット聞いていたと思うけど!?それよりも大変だ、ただ食べたいから。以外にも何か理由があるらしい。
 なんだろうか?と注目する俺とシロの前にバンッと出てきたのは1冊の雑誌。開かれたページには「お洒落男子になるには」との見出しがあり、特集としてチーズフォンデュが載っていた。
 なる程ね、お洒落男子になりたい訳ね。
 けどさ、良く見て欲しいんだ。
 これ、冬号だから!
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