嫁いできた花嫁が男なのだが?

SIN

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 魔法使いについて尋ねられ、口でうまく説明できる気がしなかった俺は、その場にしゃがみ込むと落ちていた石ころで地面に簡単な魔方陣を描いた。
 「これは?」
 と、質問者のトリシュではなく姫様の方が興味津々なご様子。
 「姫様は魔法使ったことある?」
 王族だから、もしかしたら魔法使いとか身近にいたかもー……
 「ありません」
 あ、ないのね。
 「この陣は簡単な風を起こすもので、特になんの攻撃性もない魔法なんだけどー……姫様、陣の真ん中あたりを魔法使いっぽく叩いてみて」
 別に魔法使いっぽくなくても良いんだけどね。
 「え……こう、ですか?」
 と、ソロリと手を伸ばした姫様は、魔法陣の中央辺りを人差し指でトントンと2回、軽く叩いた。
 ちょっと魔法使いっぽさを意識してくれたのだろう。
 良い人だな。
 フワッ。
 スゥっと消えた魔法陣と、優しく吹いた風。
 どう、かな?
 分かってくれただろうか?
 「……え?」
 「……ん?」
 無理だったか……。
 「えっと、魔法陣とかスクロールとかって魔力を他の物から補って放つ?みたいな……例えばさっきのなら風から魔力を借りて、風を起こしたんだけど……」
 流石に座学不得意なだけはあるよな、説明まで下手糞だ。
 「ようするに、魔法陣やスクロールがあれば、魔力を持たない者でも魔法が使える。と?」
 すごい、めっちゃ分かりやすい説明だ!
 「そう!それ!だから魔法使いってのは……あ、ゴメン。質問の意味はき違えてたかも」
 トリシュは魔法を使える者は多いのか?ではなくて、魔法使いは多いのか?って聞いてきたんだったわ。
 「いえ、魔法陣やスクロールさえあれば誰でも魔法が使える……ホーンドオウル領に限った話ではない。というのは理解出来ました」
 凄まじい理解力!
 トリシュは文武両道なんだな。
 「……姿を消すとか、人の動きを封じるとか、そういった魔法はあるか?」
 トリシュを眺めていると、姫様がズイッと横から視界に入ってきた。
 やけに真剣な表情と声色の姫様が説明した魔法は、恐らくは馬車が襲われた時に受けた魔法なのだと思う。
 とは言え、姿を消して人の動きを封じる、か……。
 姿をどんな感じに消すかによって変わるんだけど、単純に地の魔法で自分の前に岩を出して隠れたとかだろうな。
 他の方法では大掛かりになり過ぎる。
 人の動きを封じるのは……風魔法で押さえつけるとかかな?地魔法でも押し潰しの方向で考えるならいけるか。
 「姿を消す方は、岩を召喚して後ろに隠れるとかそういうのなら簡単にできるよ。動きを封じるのは……どんな感じに封じられた?」
 それを聞けば多分わかると思う。
 「風……風が吹き荒れていた。それで、手をこうやって前に出して目を守って、その腕が後ろに回って拘束具をはめられた」
 細かな再現までしてくれた姫様は、今は後ろで手を組んだ姿で俺の顔を真っ直ぐと見ている。
 犯人探しが難航してるんだろう、少しでも手掛かりが欲しいのか。
 「風は目隠しだ。腕は犯人が直接姫様の腕を拘束した可能性が高い。なにも見てない?トリシュも同時に拘束された?」
 あ、風が凄かったんなら見てる余裕はなかったか。
 「それは誰にでもできる芸当か?なにか、特別な人物でなくとも出来てしまえるのか?」
 なんだか様子が可笑しいな……なにか相当なことがあった?
 馬車の中に姫様達の荷物がなかった理由かもしれない……つまり、大事なものをその魔法使いに盗まれたとか。
 仕方ない、まだ昼食を食べていないけど先に確認しておかないと2人が可哀想だ。
 「ちょっとついて来て。構築されている風魔法の中で、1番強力なものを受けてもらう」
 魔法陣やスクロールを使って、誰にでも魔法が使えるようにするために研究する者が魔法使いと呼ばれている。
 例えば戦いに慣れた騎士が発動させても、産まれたばかりの赤子が発動させても、威力に差はない。
 だから、一般的に出回っている魔法陣とかスクロールは、直撃を受けても大した怪我をしない威力しか出ないものばかりだ。
 魔物の討伐とか盗賊の捕縛とか、実用的で攻撃にも使えるだけの威力がある魔法陣は、一部の騎士達にしか使用は許可されていないし、魔法陣の描き方ではなくスクロールだけが与えられる。
 ほら、騎士を引退した後とか反逆を企てた時、魔法陣の描き方を知っていたら色々問題があるから、描き方は魔法使いか侯爵家しか知らない。
 魔法陣はインクで描いて視覚的に見えている必要がないから、模写される心配もない。
 つまり、姫様達を襲ったのはスクロールを与えられた騎士の誰かか、スクロールを盗んだ盗人の2択しかないってこと。
 でだ、その一部の決められた騎士達が使えるスクロールの中で、1番強い威力を持っている風魔法を今から受けてもらいます。
 風が吹き荒れていただけで攻撃性がなかったのなら、敵の目潰しや逃げる時の目隠しとして使われる魔法陣だろう。
 街から少し離れた所で魔法陣を描き、一声かけてから姫様達に向かって発動させた。
 ビユーっと強風が吹き荒れ、姫様の長い髪が踊りはしているが、姫様達の姿を見る限り、さっきの再現とは違って余裕が感じられる。
 「……魔法陣の中で1番強い魔法はこれだけど、これよりも強い風だった……んだよね?」
 2人はコクリと頷く。
 魔法を使う一般人でも一部のスクロールを使える騎士やスクロールを盗んだ盗人でもないなら、後はもう魔力を持つ者以外には考えられない。
 「あの、これ以上の魔法はもうないのですか?」
 姫様達を襲ったのは島の国の者ではなく、近隣領地の暗殺者って訳でもない……なら、もう1つ確認がしたい。
 「姫様、トリシュ、ちょっと……いや、かなり集中して風を感じて。瞬間最大風速を感じて。良い?本当に一瞬しか吹かないから頼んだよ!」
 「え……?あ、はい!分かりました!」
 「いつでも大丈夫です!」
 2人の返事を聞いた後、一呼吸おいてからカラッカラの魔力をかき集めて風を呼び、姫様達に向けて放った。
 多分、2秒くらい。
 どうだろうか……。
 「少し弱いですが、この感じです」
 弱いって言うけど、これ俺の全力だから!
 なんなら2秒吹かせることができて、過去1くらいだから!
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