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 頭が混乱している。
 王子様が失礼なことを言うって言うから、かなり身構えていたというのに、予想を遥かに超えたことを言われてしまった。
 え?なに?
 服を脱げと?
 「嫌?恥ずかしい?」
 路地とはいえこんな野外で恥ずかしげもなく喜んで服を脱いだら、それはもう変態だよ!
 「あ、当たり前だろっ」
 返事をすると、スッと王子様が離れていき、数秒後
 「アイン、今から大通りに出て上半身だけで良いから服を脱いでくれ」
 はぃぃ!?
 「な、なんで大通り?え?ここでなら上半身大丈夫だけど、なんで大通り?」
 「アイン様、今から大通りに出て上半身だけで良いから服を脱いでくれ」
 えぇ……。
 いや待て、上半身だけなら恥ずかしくないんじゃないか?
 普通にシャツ着て街に来るときなんかは胸の辺りまでボタン外してることもあるし、そうなると半分脱いでるようなものじゃない?
 そうだよ、なにを恥ずかしがってたんだ?
 「……えっと、じゃあ……イッテキマス……」
 大通りに向かって歩きながら、シャツの裾に手をかける。
 パッと出てバッと脱いだ後は、上半身に太陽光を浴びたいだけですけど?みたいな顔をしてしまおう。
 寧ろ恥ずかしいと思う側が恥ずかしいのだ!みたいな強気な姿勢で……。
 「いや、やらなくて良い。言っただけだ」
 後数歩で大通りという所で肩を掴まれて足が止まった。
 そしてブワッと襲い掛かって来る羞恥心。
 あ、やらなくて良かったのか……確かに失礼なことを言うとか言ってたけど本当に行動を起こせとは言われてないわ。
 もー!止めるんならもっと早めに止めて欲しかった!
 「はぁ~……」
 無駄に緊張したわ。
 「やらなくて良いと分かって安堵する癖に、何故やろうと思った?」
 それ、やれって言った本人が言って良い台詞?
 「王子様がやれって言ったんじゃん……」
 「じゃあ、大通りに出なくて良いし、宿に部屋も取るから全裸になって欲しいと言えばなってくれるのか?」
 いやいや可笑しい!
 「王子様はなんで俺を脱がせたいの!?」
 「3回回ってワン。では難易度が低かったらしいから、上げてみただけで……その、全裸になれとか、そういう意味じゃ……」
 急に照れないで!
 「も~、なに?王子様」
 緊張が解けて思い出した。
 名前を聞いて友達申請しようと思ってたんだっけ。
 だけど嫌われて距離を取られてると思ったから森に籠ってまで距離を置いたし、会う度に嫌われるのなら、もう二度と会わないぞって。
 そう思ってたんだけど、当の王子様は至って普通……ではないし謎過ぎるけど、話しかけてくれた。
 もしかしたら、俺が思うほど嫌われてないんじゃないかな?
 だったら、名前と友達申請……良いのだろうか?
 「今からアールと呼んでも良いだろうか?」
 え、急……だけど、別に良いよ。
 しかもこの流れは俺にとっては物凄く有難い。
 「王子様は?なんて呼べば良い?ジョセフィーヌってのは偽名だよな?」
 自分を第15王女として名乗った名前が本名な訳がない。
 「ジョセフ……ジョセフ・シーホース」
 あ、丁寧にフルネームをありがとう。
 なら俺もあだ名で読んでみようかな……ジョセフ・シーホース……ジョフ、ジョシー、ジョース?そもそもジョセフってのが男らし過ぎるって言うか、強靭な騎士っぽ過ぎると思う。
 王子様の特徴を生かすなら……。
 「フィーヌって呼ぶよ」
 「そっちを残すんだ!?」
 冗談だよ。
 ちょっとしたイタズラ心に全力の返しをくれるとは……これ、もしかして俺、嫌われてる訳ではない、のか?
 「ゴメン、冗談。えっとね、ジョーって呼んでも?」
 言ってすぐ、王子様……ジョーはフル装備のヘルムを外して顔を見せてくれると、ニコリと笑って了承してくれた。
 「で……何故フル装備なんだ?」
 声を聞いたら秒でジョーだって分かるけど、黙って立ってられたら分からない程の変身……もしかしてこれから何処かに潜入捜査とか?
 だとしたら、馬車を襲った犯人の大まかな目星がついたってことか?
 「1人でホーンドオウル侯爵家を抜け出すにはこうするしかなくてな。兵士の服を着るだけでもホーンドオウル侯爵家の者達には気付かれないが、流石にトリシュの目は誤魔化せないと思ったんだ」
 1人でって……
 「え!?危ないだろ!?兵士の服を着ただけで気付かれないってなんで!?トリシュの目を盗んでまで1人でなにするつもりなんだ?」
 「フフッ……あぁ、すまない。一気に質問をするのが可笑しくてな」
 んっ!
 凄い良い声で笑われた。
 「なんだよそれ……」
 「俺はホーンドオウル侯爵家の者を信用することができない……だから、アールはどうか確かめに来たんだ」
 信用……確かにできないよな。
 婚約者が失踪したっていうのに慌てた様子も見せずに、じゃあ弟の方と結婚してねーとか言われたら好感度が物凄く高くても急降下間違いなしだよ。
 だから、ジョーのこの意見は正しい。
 「父さんが兄さんの捜索にさほど力を入れてないのは、多分居場所を知ってるからだと思うんだ。兄さんは次期侯爵で文武両道でさ、侯爵家の期待の星!みたいな。でもここしばらく暗殺者が絶えなくて、それで死んだフリしようかって」
 よく考えてみれば、兄さんを溺愛している父さんが落ち着いているのが可笑しいじゃないか。
 捜索隊も俺が出してる以外の騎士は動いてる気配がないし、結婚だって兄さんの意見も聞かずに破棄したようなもんだよな?
 「長男のことは正直、俺はどうだって良い」
 言い切るんだ。
 え?兄さんのことがどうでも良いなら、なにを思って侯爵家の好感度が物凄く悪くなったんだ?
 俺のせい……だから俺はどうかと確かめに来たと?
 しかし、なにをどう確かめようというんだ?
 「侯爵家でなにかあった?」
 こっちは侯爵でジョーは王族だから、身分は完全にジョーの方が高い。
 だから余程のことがない限り快適に過ごしていると思ってたんだけど……。
 「そうだな、初めの頃はお客さん扱いで最低限のおもてなしを受けたが、今はなにもないぞ。食事は作ってくれているようだが、運ぶのはトリシュだ」
 お客さん扱いも可笑しいけど、なにもない?
 次期侯爵の妻に対しての態度ではないな。
 それもこれも俺が結婚を先延ばしにしているせいか?
 いや、でも……ジョーって男じゃん?侯爵家の妻が男で良い……のか。
 兄さんの妻なら大問題だろうけど、魔力の少ない俺の血なんかあっても侯爵家からしてみればなんの得にもならないから、子供が絶対に出来ない相手との結婚はむしろ大賛成な感じか。
 恋愛結婚をするんだって固く決めていた俺を適当に結婚させるには、自分よりも身分が高くて断りにくい相手が良い……さらにはもっと断れない状況を作り出せば……つまり、花嫁が到着目前に兄さんが失踪。
 そして侯爵家の皆は始めからジョーが俺の妻になると知っていたし、兄さんが戻ってきてもジョーとは結婚しないと知っていたのかも知れない。
 となれば、ジョーに対しても俺の同じような態度をとっていた可能性が物凄く濃厚だ。
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