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 俺は、至って普通のありふれた路地裏で、とてもではないが信じがたい話を聞いていた。
 島の王がとんでもなく好戦的であることもそうだけど、島の国が魔法の代わりに錬金術に長けているとか初めて知ったよ。
 学校では教えられることかも知れないけど……まぁ、俺が無知なだけ?
 いや、だからってビックリしたんだ。
 だって普通錬金術って金とか宝石を作るってイメージだったからさ、まさかそんな……人間の臓器を作るとか思わなかった。
 その臓器ってのが子宮で、性別関係なく子供が持てるとか?移植した子宮は性別関係なく定着するとかさ。
 凄い技術だなーって暢気に関心したのも束の間で、やっぱり凄い技術ってのは相当量の実験の上に成り立っているもので、その子宮の実験も成功するまでにかなりの失敗を繰り返したそうだ。
 「最近になって、切開手術ではなく子宮を体内に転送するという手術方法の開発が始まったんだ」
 体内に転送?
 「え?そんなことして大丈夫なのか!?」
 「転送させる場所によって他の臓器を傷付ける可能性と、他の臓器の場所に転送されて……腸が千切れたり、胃が破裂したり……」
 うん、大丈夫じゃなさそうだな。
 多分だけど、実験体にされてるのって人間……だよな?
 そりゃ人間の子宮なんだから人間で実験するよな?
 で、ジョーは島の国から逃げて来たと言った。
 つまり、ジョーも実験体のひとりだったと考えるのが自然だ。
 失敗したら命が危ないし、成功したら……そうだよな、妊娠を目的とする臓器だもんな……そりゃ、そういうことになるんだろう。
 「絶対!ぜーったいに帰ったらダメだ!一生駄目!」
 一生ってのは、言い過ぎただろうか?
 色々と想像しなくて良い所まで想像したら、なんか……心臓の辺りがズキズキとして、帰省すら認めたくなくなったんだからしょうがない。
 「うん。俺もそのつもりはない」
 良かった……。
 言い切ってくれて助かったよ。
 そうだ、折角お互いをあだ名で呼び合うようにしたんだし、この流れに乗って友達申請をしよう!
 「あのさ、俺と友達になってくれないかな?友達になってください!」
 「断る」
 即答!?
 酷っ!
 「なんで……」
 「言ったはずだ。歩幅はアールに任せるが引き返すつもりはないと。俺達は今婚約者だ」
 あぁ~、確かに。
 言われたわ。
 だけど友達ってのは今の状況よりも確実に進むと思う。
 「今の俺達はまだ“急遽決まっただけの婚約者”だ」
 婚約者だーってジョーが屋敷に来てから結構日にちは経ってるけど、俺達がちゃんと会って会話を交わしたことなんて数回しかないだろ?
 間違いなく、仲睦まじい婚約者とか、結婚まで秒読みの婚約者ではない。
 「それは……どういう……」
 「俺達は、“ただの顔見知り婚約者”から、“友情が芽生えた婚約者”になるんだよ」
 友達なら俺も気兼ねがないというか、ほら、友達だから会いに来たよーって理由もなく会いに行けるし、嫌われてるかも……って思ったら直接聞きに行けるだけの繫がりができるっていうかさ、あるじゃん、なんかそういうの。
 友達できたことないけどな!
 でもそういうもんだってのは本で読んだことがある。
 だから、あの……どうだろうか……。
 「フフッ……“友情が芽生えた婚約者”か。今日はそれで良い……次は“親友みたいな婚約者”か?」
 親友!確かに友情の次はもっと絆が深まるんだもんな、親友か……。
 ん?
 「親友と戦友ならどっちの方が上?相棒とか協力者とかは友達よりも下?」
 その後、色々後からもめるのは目に見えているというので、細かい順位付けをすることになった。
 それによれば、友達部門で1番好感度が高いものは戦友ということになった。
 親友の方が好感度高そうだなと思ったんだけど、ジョー曰く戦友は命を相手に預けている感じが親友にはない絆だと熱弁されては納得する他がなかった。
 別に親友だろうが戦友だろうがどっちでも良かったんだけど、なんか懸命に説明する姿が可愛いなーって……。
 可愛いってなんだろうか……。
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