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あの日、俺がジョー達を見つけたのは夕方を過ぎた頃だ。
馬車を見つけた時、近くには誰もいなかったし、この場所自体がちょっと奥まってるから、俺だってあの時レッドドラゴンの声が聞こえてこなければ見つけられたかどうかは分からない。
俺はあの日、何故この場所を通りかかったんだっけ?
こんな街道から外れた場所に……そうだ、兄さんがいなくなった崖の下に寄り道をした帰りだ。
兄さんは俺がこの森を探索していることを知っていて、ジョー達を放置しても大丈夫と安易なことを考えた……命を狙われている王女を連れ去ることで攻撃の目を自分達に集め、念のため馬車に防御魔法をかけた。と?
まさか、ジョーが王女を名乗るとは思わなかったんだろうけど。
って!
「え?ジョーは命とか狙われてない?変な奴に声とかかけられたりしてない?」
一時期体を鍛えるとか言ってたのって、もしかして……。
「……いや、まぁ……大したことは……」
あったのか!
「なんで言ってくんないの!?大したことなくてもちゃんと教えて。なにがあった?」
俺は特になんの報告も受けてない。
侯爵家からはもちろん、レッドドラゴンからだって。
「第15王女だな?って自己紹介を求められる位で……いや、1度だけ襲われたことがある」
初耳すぎる。
「いつ頃?犯人に心当たりはあった?その後どうなった?怪我とかしなかった?」
自己紹介を求められたということは、暗殺を企てているのが島の国の者ではない……とも言い切れないのか。
「筋肉痛で動けないといってたのは覚えているか?その時だ。押さえ込まれて、逃げる時に横腹を傷めて……今はなんともない。えっと、知らない男達で……そうだ、そのうちの1人に沈黙の魔法をかけられた。10秒しかもたないと言っていたが、実際にはもう少し長かったと思う」
情報量。
筋肉痛の時ってあれだよな?俺がレッドドラゴンから“主人は動けないみたい”って聞いて早朝に部屋に押し掛けた時だよな?
押さえ込まれた?
は?
「……それ以降は1回も変なことない?」
少しばかり反れそうになった思考を無理矢理に戻す。
なにを勝手に押さえ込まれるジョーを想像してムカついてんだか。
「流石に怖いからな、夜中に1人での侯爵家の外周周りはそれっきりだ」
あぁ、外周を走ってるってその時に襲われたのか……ん?
「夜中ぁ!?1人てなに?騎士は?チビから騎士が1人いたって聞いたけど!?」
竜眼は知っている者しか見えないってレッドドラゴンは言っていたから、確かに不審人物がいたとしても見えないのか……だとしたら、その1人だけ見えていた騎士ってのはなにしてたんだ?
ジョーと一緒に走っていた訳でも護衛していた訳でもないなら、なんのためにいた?
「騎士……あぁ、その時気を失ったんだけど、目が覚めたら中庭にいたんだ。だから多分中庭まで運んでくれた騎士はいると思う」
気を失った?
襲われて押し倒されて、そこで気絶したってこと?
は?
「えっと……なんともなかった……んだよね?」
「横腹を痛めただけだな。引き裂かれたはずの服が元通りになっていたから、もしかしたら途中から夢だったのかも知れない」
うんっ。
ちょっとゴメン。
待って?
服が引き裂かれたのに、気が付いたら元通りになってるってそれもう完全に1回脱がされてるよね?
襲われた時の横腹の負傷があるってのに夢だと思えるって、頭の中どうなってんの?
「(俺も馬車の中入れて!雨降って来た)」
降り出しそうだった空から雨が落ちてきたようで、レッドドラゴンは馬車の中に入りたいと窓を尻尾で叩いてきた。
ジョーに対して色々言いたい所ではあったけど、雨が降って来たのならしょうがない。
戸を開けて外に出てみれば、ポツポツと降り出した雨粒は大きい。
これは土砂降りになりそうだな……ここから侯爵家までは結構な距離があるから、馬車の中で雨宿りをするのが1番かな。
だけど上下がひっくり返った馬車でどれ程の雨がしのげるかは未知数。
「ちょっと外出て。馬車の向き戻すわ」
物体の重さを軽くする効果がある魔法陣を宙に描いて発動させた後は、馬車の天井部分を持ち上げるように返せば元通り。
魔法が切れる前に少しでも雨が当たらないよう木の下に移動させた。
もし落雷があったとしても、防御魔法がかかっているから心配はない……そうか、防御魔法かかってるんだから雨も気にしなくて良かったのか……。
でも、元の方向に戻せば椅子に座れるわけだから、長時間になるかも知れない雨宿りには必要なことだったよな。
馬車の中に入ってスグ、ザァーっと勢いよく降り出した雨音は、かなりうるさい。
「座り心地悪くない?」
わざと小声で言って無反応なジョーの横顔をちらりと横目で確認した後、正面の席にいるレッドドラゴンを見る。
どうやら小声ならかき消されるようだ。
「……ジョーは好きな人っていないの?」
更に小声で言ってみる。
聞こえないと分かっているのに声に出してみる意味はなんだろうか?と考えてみて、なんとなくそういうことなんだろうなってのは、自分の中で答えが出ている。
つまり、俺はジョーとなら恋愛結婚ができる。
だけどジョーはどうなんだ?って思ったんだ。
だってジョーの場合は第15王女とかトリシュの命がかかってて、なにをどうしたって侯爵家にいなきゃならない。その1番簡単な方法だからって理由で俺と結婚しようとしてるんだ。
要するに恋愛感情度外視だよね……。
もし第15王女と兄さんがポンと帰ってきて、別にもう侯爵家にいなくても大丈夫だよー。島の国にも帰らなくてもいいよーってなったら、ジョーは間違いなく俺との婚約なんかブン投げて侯爵家を出ていくだろう。
そうなる前に結婚してしまったら……きっと俺もジョーも幸せにはなれない。
結局、兄さんが帰ってくるまでは現状維持で動きようがないってのに、思いだけ募るんだから、ちょっとでも吐き出さないとやってられないじゃないか。
それでも、直接的なことを言う勇気はないんだけどさ。
友達にはなれたんだ、婚約を破棄した後だって友達だから会いに来たよーとか許される?
婚約者である今の内に家をプレゼントすれば、侯爵家から出て行った後に住んでくれるだろうか?
そうだよな……まだジョーには個人的な財産ってのはない筈……なら残してあげられる物は盛大にプレゼントしておけば、今後の生活の足しにしてくれるかも知れない。
馬車を見つけた時、近くには誰もいなかったし、この場所自体がちょっと奥まってるから、俺だってあの時レッドドラゴンの声が聞こえてこなければ見つけられたかどうかは分からない。
俺はあの日、何故この場所を通りかかったんだっけ?
こんな街道から外れた場所に……そうだ、兄さんがいなくなった崖の下に寄り道をした帰りだ。
兄さんは俺がこの森を探索していることを知っていて、ジョー達を放置しても大丈夫と安易なことを考えた……命を狙われている王女を連れ去ることで攻撃の目を自分達に集め、念のため馬車に防御魔法をかけた。と?
まさか、ジョーが王女を名乗るとは思わなかったんだろうけど。
って!
「え?ジョーは命とか狙われてない?変な奴に声とかかけられたりしてない?」
一時期体を鍛えるとか言ってたのって、もしかして……。
「……いや、まぁ……大したことは……」
あったのか!
「なんで言ってくんないの!?大したことなくてもちゃんと教えて。なにがあった?」
俺は特になんの報告も受けてない。
侯爵家からはもちろん、レッドドラゴンからだって。
「第15王女だな?って自己紹介を求められる位で……いや、1度だけ襲われたことがある」
初耳すぎる。
「いつ頃?犯人に心当たりはあった?その後どうなった?怪我とかしなかった?」
自己紹介を求められたということは、暗殺を企てているのが島の国の者ではない……とも言い切れないのか。
「筋肉痛で動けないといってたのは覚えているか?その時だ。押さえ込まれて、逃げる時に横腹を傷めて……今はなんともない。えっと、知らない男達で……そうだ、そのうちの1人に沈黙の魔法をかけられた。10秒しかもたないと言っていたが、実際にはもう少し長かったと思う」
情報量。
筋肉痛の時ってあれだよな?俺がレッドドラゴンから“主人は動けないみたい”って聞いて早朝に部屋に押し掛けた時だよな?
押さえ込まれた?
は?
「……それ以降は1回も変なことない?」
少しばかり反れそうになった思考を無理矢理に戻す。
なにを勝手に押さえ込まれるジョーを想像してムカついてんだか。
「流石に怖いからな、夜中に1人での侯爵家の外周周りはそれっきりだ」
あぁ、外周を走ってるってその時に襲われたのか……ん?
「夜中ぁ!?1人てなに?騎士は?チビから騎士が1人いたって聞いたけど!?」
竜眼は知っている者しか見えないってレッドドラゴンは言っていたから、確かに不審人物がいたとしても見えないのか……だとしたら、その1人だけ見えていた騎士ってのはなにしてたんだ?
ジョーと一緒に走っていた訳でも護衛していた訳でもないなら、なんのためにいた?
「騎士……あぁ、その時気を失ったんだけど、目が覚めたら中庭にいたんだ。だから多分中庭まで運んでくれた騎士はいると思う」
気を失った?
襲われて押し倒されて、そこで気絶したってこと?
は?
「えっと……なんともなかった……んだよね?」
「横腹を痛めただけだな。引き裂かれたはずの服が元通りになっていたから、もしかしたら途中から夢だったのかも知れない」
うんっ。
ちょっとゴメン。
待って?
服が引き裂かれたのに、気が付いたら元通りになってるってそれもう完全に1回脱がされてるよね?
襲われた時の横腹の負傷があるってのに夢だと思えるって、頭の中どうなってんの?
「(俺も馬車の中入れて!雨降って来た)」
降り出しそうだった空から雨が落ちてきたようで、レッドドラゴンは馬車の中に入りたいと窓を尻尾で叩いてきた。
ジョーに対して色々言いたい所ではあったけど、雨が降って来たのならしょうがない。
戸を開けて外に出てみれば、ポツポツと降り出した雨粒は大きい。
これは土砂降りになりそうだな……ここから侯爵家までは結構な距離があるから、馬車の中で雨宿りをするのが1番かな。
だけど上下がひっくり返った馬車でどれ程の雨がしのげるかは未知数。
「ちょっと外出て。馬車の向き戻すわ」
物体の重さを軽くする効果がある魔法陣を宙に描いて発動させた後は、馬車の天井部分を持ち上げるように返せば元通り。
魔法が切れる前に少しでも雨が当たらないよう木の下に移動させた。
もし落雷があったとしても、防御魔法がかかっているから心配はない……そうか、防御魔法かかってるんだから雨も気にしなくて良かったのか……。
でも、元の方向に戻せば椅子に座れるわけだから、長時間になるかも知れない雨宿りには必要なことだったよな。
馬車の中に入ってスグ、ザァーっと勢いよく降り出した雨音は、かなりうるさい。
「座り心地悪くない?」
わざと小声で言って無反応なジョーの横顔をちらりと横目で確認した後、正面の席にいるレッドドラゴンを見る。
どうやら小声ならかき消されるようだ。
「……ジョーは好きな人っていないの?」
更に小声で言ってみる。
聞こえないと分かっているのに声に出してみる意味はなんだろうか?と考えてみて、なんとなくそういうことなんだろうなってのは、自分の中で答えが出ている。
つまり、俺はジョーとなら恋愛結婚ができる。
だけどジョーはどうなんだ?って思ったんだ。
だってジョーの場合は第15王女とかトリシュの命がかかってて、なにをどうしたって侯爵家にいなきゃならない。その1番簡単な方法だからって理由で俺と結婚しようとしてるんだ。
要するに恋愛感情度外視だよね……。
もし第15王女と兄さんがポンと帰ってきて、別にもう侯爵家にいなくても大丈夫だよー。島の国にも帰らなくてもいいよーってなったら、ジョーは間違いなく俺との婚約なんかブン投げて侯爵家を出ていくだろう。
そうなる前に結婚してしまったら……きっと俺もジョーも幸せにはなれない。
結局、兄さんが帰ってくるまでは現状維持で動きようがないってのに、思いだけ募るんだから、ちょっとでも吐き出さないとやってられないじゃないか。
それでも、直接的なことを言う勇気はないんだけどさ。
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