改造人間

SIN

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ジュタ 2

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 A級での訓練中ならあのガキとの接点もなく過ごせるんだが、ガキは休憩時には決まって俺達の所に来た。
 俺に会いに来ているのではなく、タイキにだ。
 完全に懐かれてしまったタイキは、想像していた通りガキの教育を任されていた。それを本人も嬉しそうに教育してるもんだから、ガキに対して嫌な顔も向け辛い……。 
 隣でタイキが色々と基本的な事を教えていて、ガキも懸命にメモをとりながら覚えているようだが、アイツの所から来たガキの面倒なんか見たくない俺としたら休憩時間でさえ休めないって言うか……。
 気になるんだよ。
 アイツは何の為にガキを送り込んできたんだ?
 俺の様子を探らせようとしてるにしても、何の為に?
 この施設での俺は、廃棄処分目前の出来損ない。そんな俺の何を知りたい?
 こんなガキを改造人間にまでしてまでの価値は俺にはないし、ガキを改造人間にする権利はアイツにない。
 食堂での居心地の悪い食事を終え、俺は今日も1人で渡り廊下に向かう。
 渡り廊下の中央で立ち止まって2階を見上げると、そこは改造人間の材料となる人間が適正テストを受ける部屋の入り口が見える。
 テストは数人ずつ行われるから、順番待ちの列が部屋の前に出来るんだ。
 受からない方が難しいレベルの簡単なテスト……だから、落ちるヤツってのは意図的に自分から落ちてるんだと思う。
 テストに落ち続けていれば改造人間にされずに済むのだろうか?
 それは、1回目で合格してしまった俺には分からないな……。
 まぁ、なんにせよ並んでいる人間達の殆どが合格してそのまま奥の部屋に連れて行かれて改造手術を受ける事になる。
 あの廊下に立って順番を待っている姿が人間である最後だって思うと……どうしても見ておいてやりたいなって……。
 単なる冷やかしに見られるかも知れないけど、そうじゃなくて……人間だった頃の姿を知ってる奴が1人でも多い方が良いんじゃないかな?って。
 それだけなんだけどさ、ここで2階を見上げるのは日課なんだよ。
 最後の1人が部屋に入って行くのを見送って、それでもまだ見上げているとパタパタと足音が聞こえてきた。
 この軽やかな感じは、タイキか。
 どうしたのだろうか?と視線を向けると、ちょっとビックリしたような表情をしているから、声をかけてないのに振り向いたーとかなんとか思ってるんだろうな。
 あんな足音立てて走ってきたら、誰だって気が付くわ!
 「なぁジュタ。ルルの奴もうB級いったんだってよ」
 タイキは表情を改めると、そう嬉しそうに報告してきた。
 ここへ来てからまだ2ヵ月だってのにB級?
 あぁ、CFかCCからの飛び級か。
 能力が高ければ飛び級もある。って話は聞いてたが、本当にする奴がいるとは。
 「へぇ。エリートだったんだ、あのガキ」
 俺達と言えば、また手を抜いてテストに落ちてAFに留まったんだから、またいつものように後輩に先を越されるのだろう。
 まぁ、慣れてるし、そもそもそれが狙いだし。
 「なぁジュタ……ルルって俺の初めての後輩って言うか……えっと……」
 言い辛そうに俺から視線を外したタイキはキョロキョロと落ち着きがなく、距離がいつもより遠い。
 普段はウザイくらいにグイグイと引っ付いて来るってのに、今は3歩程離れた所から動かない。
 「ハッキリ言えよ」
 なんとなく、分かってるんだけど……ちゃんと聞かせて欲しい。
 「俺、ルルがA級に上がって来たら手加減せずにテスト受けようと思うんだ」
 随分と時間を費やして言う気になったタイキは、急に顔を上げると真っ直ぐに俺の目を見ながらハッキリとした言葉で自分の考えを伝えて来た。
 タイキは昔から何をするにしても慎重に事を運ぶ奴だったから、この言葉を発するまでに相当悩んだのだろう。実際、かなり長い時間待ったし。だったらさ、俺が今更何を言っても聞かないだろ?それに、自分が受け持ったガキを最後まで面倒見たいんだろ?そー言う奴だよお前は。
 「あぁ、頑張れよ。俺が前線に出るって事になるまでには戦争終わらせてくれよ?」
 ここで戦争が終わる気がしないとか、前線に出たって無駄だとか……そんなネガティブな事を言うのは間違ってると思ったから、単なる励ましの言葉を伝えた。だけど、それはきっと親友としての正解だと思う。
 多分……。
 「おぅ!前線で待ってるから、気が向いたら来てくれよ」
 俺が行かないって事を分かってる癖に、そう言って笑うんだな。だけど、この場の会話としては、正解なんだろうと思う。
 久しぶりに笑った気がしたその日から僅か2ヶ月後の事。
 ルルはタイキの読んだ通りA級に上がって来た。
 そのせいで訓練中も休憩中も延々とガキと顔を合わせる羽目になっている。おまけに俺にまでタメ口で話すようになる始末だ。
 ガキ曰く、同じクラスになったのだから同級生。先輩でもないんだから遠慮するのは止めたんだそうだ。
 俺の思い違いだろうか?ガキは始めから遠慮なんかなかった気がする。
 「ジュタ。俺の話、10分で良いから聞いてくれよ」
 休憩時間が終わってトレーニングルームに移動を始めた俺の腕を掴んだガキが、そう言いながら俺を壁に押しやった。
 かなり不快に思ったから突き飛ばしてやろうかとも思ったのだが……ガキの後ろに立っているタイキが「10分位は良いだろ?」なんて菩薩みたいな顔で笑ってるから、そのままにしておくしかない。
 だけど、キッカリ10分だけだからな!
 「……ガドルはジュタに謝ろうと改造人間になろうとまでしたんだ。ガドルは今でも悔やんでんだ、アンタはそれでもガドルを恨むのかよ!!アンタを売ったのは母親だろ?ガドルのせいにすんなよ!!」
 ふぅん……俺達の事情に随分と詳しいな。
 で、それがなんだ?
 それにしても、とんだエリートもいたもんだ。
 こんなに感情をむき出しにするなんて……いや、こんな風に感情を表に出せるなんて、改造人間としてはまず向かない人間だ。それなのに何故ここまで頑張れる?路上生活をしていたとか言うお前には会いたいと思える家族なんかいないんだろ?
 じゃあ、アイツか?
 こんな風に必死になって庇うだけの価値がアイツにあるとでも言うのか?改造人間にまでなって俺に会いに来て、説教する程?
 普通じゃねーな。
 「話は終わりか?」
 壁にかかっている時計をチラリと確認すると、ムッとしているタイキの顔が目の端に映った、
 もっと真剣に話を聞いてやれ。ってか?
 俺はこれでも真剣だ。ただ、話の内容が心底どうだって良い事なだけ。
 「……俺に言いたい事ねーのかよ…前線に出る時俺はガドルに会いに行くんだ。言って欲しい事があったら伝えるけど?」
 さっきは感情を激しく出したくせに、今度はシレッと言ったガキ。
 やっぱり前線に出る前に会いに行くのか。でもな、折角言いたい事を伝えると申し出てくれた所悪いが……特に何もねぇわ。お前に言いたい事も、アイツに言いたい事も、勿論母に言いたい事も、何もない。
 俺はここで一生を暮らす。それでスクラップにされるってんなら、それも運命だ。
 改造人間にされてまで人の役に立とうなんて考え、悪いけど持ち合わせてねーし。それでどうこう言われたって何も思わない……ただ、ガドルって名前を聞くとムカついて仕方ない。でも、それを言葉にすると途端に何か違う気がする。
 だから、何もないんだ。
 「……10分だ。じゃーな」
 丁度10分。
 俺はガキをふっ飛ばし、タイキをその場に残してトレーニングルームへ向かった。そんな俺の後ろからは、
 「言いたい事もないのかよ!」
 って、また感情むき出しで叫んでいるが戻って聞いてやる気にもなれず、そのまま放っておく事にした。
 アイツには、お前から好きなように言えば良い……。
 ボンヤリと頭にそんな言葉が浮かんできたが、それを伝えに行く気にもなれなかった。
 「やっぱりジュタは手を抜いたんだな」
 テストの結果が出た。
 俺はAFに留まったから今から休憩時間なのだが……ACに進級したタイキはこれから訓練が始まる筈だ。
 いや、本気でやったさ」
 テストに合格した他の連中は訓練に遅れないようにと慌しく荷物をまとめて移動を開始させているというのに、コイツはなにを穏やかに微笑んだまま突っ立ってんだ?
 ほら、お前の教え子も呆れた顔していっちまったぞ?
 「嘘バレバレだっての」
 笑ってる場合か?とか思うものの、やっぱり手を抜いたかどうかなんてのは見てりゃ分かるもんなんだなーなんて、なんか当たり前な事をしみじみと考えてしまって、思わず俺まで笑ってしまった。
 これからは訓練のメニューも違うから、会う機会も減るんだろうな……。だけど、会えないってだけで俺達が親友じゃなくなる訳でもなし。
 「じゃーな、俺今から休憩だから」
 大袈裟に大きく手を振ると、
 「そっか、俺達は今日から新しい訓練追加だから」
 と、小さく手を振り返してきたタイキを残し、俺は食堂まで歩いた。
 背中に視線を感じながら、振り返りもせずに真っ直ぐに。
 そうやって俺から離れてやらないと、タイキはいつまでも俺と話していたに違いないし、あの場に立ち止まったままだろうから。
 俺はさ、別に急に1人にされたからって寂しいとか、悲しいとかは感じないから平気だ。だからタイキは自分と、教え子の事だけ考えてろ。間違ってもロボットに倒されるなんてダッサイ事はしないでくれよ?頼んだからな。
 なぁんてな……そりゃ、ちょっとは寂しいさ。本当に、ちょっとだけな。
 「あーあ」
 こういう時、改造人間って感情が表に出にくくて便利だよな。
 想像していたよりももっと、ずっとタイキとの接点がないまま時が流れ、こう言う物かと自分の中で納得が出来てからは全く寂しさを感じなくなった。だから俺はそれから2回程手を抜いてテストを受け、2回程落ちた。
 もうそろそろタイキ達はASに上がっているだろうか?
 ASの訓練ってどんな事をするのだろう?
 わざわざ前線に出て行く者達の報告を行わないここの方針、だからタイキ達が前線に出たのを知ったのは、更にテストを数回落ちてからだった。
 そっか、行ったのか……。
 なんとなくボンヤリと思って、また何となくタイキの姿を思い浮かべてみると、なんだろうな、突然「置いていかれた」って気がした。勿論その通りなんだけど……何か異様に焦ったんだ。
 あの時みたいな間隔……人間だった時、改造人間にされる為のテストを受ける事が決まった日、万引きしてバレた時のような感じ。「どうしよう」と泣きそうになったあの頃の気分に良く似ている。
 今、無性にタイキに会いたい……。
 何でも良いから下らない話をして笑い合いたい。
 それにはどうしたら良い?どうしたら会える?
 そうだな、そろそろ俺も前線に出よう。
 5年間も腐って、やっと決心が付いた。人間の為に戦うとかじゃなくて、親友と生き残る為に戦うんだって……5年もかかって出た答え。
 遅いよな、自分でもちょっと呆れる程なんだから、多分相当遅かったんだろう。いや、無理路良くここまで待ってくれたよ。
 ちょっとでも歯向かえば即スクラップにする研究員達が、5年間もさ。
 「お前に次はない」
 俺に次はない。
 何故なら俺は急にCF能力と判断され、つい今しがたスクラップ処分が決定したのだから。
 仕方ないのだろう。
 5年だもんな……スクラップになっても、それが俺の運命。そもそも改造人間になった時点で終わったようなもんだったじゃねーか。
 研究員に連れられてやってきた部屋の中には他にも数体の改造人間がいたが、改造手術中になんらかの不備があったのか、それとも訓練中に重大な箇所が故障したのか、全く動かない連中ばかりだった。
 それとも皆既に制御装置をオフにされているだけか……。
 制御装置をオフにされた改造人間達は表情すらも作れなくなるらしく、全くの無表情で研究員達にスクラップは止めてほしいと、助けて欲しいと懇願していた。そんな必死な姿を見て、悲痛な叫びにも似た声を聞いた研究員は、嫌悪感丸出しな表情を隠しもしない。 
 「気持ち悪い連中だ」
 吐き捨てた研究員に対して、なんだか一気に色んな感情がこみ上げて来て、それをどう声に出したら良いのかも分からずに呼吸だけが荒くなった。
 お前らの方が気持ち悪い!
 お前らの方が、よっぽど気持ち悪い!
 頭の中に出てくるのは小学生並みの言葉で、これをこのまま声に出した所で鼻で笑われるだけになるだろう。けど、今はそれしか思い浮かばない。
 何も考えられない程一気に感情が高ぶってしまったんだ。
 そうやって睨む事しか出来ないでいた俺の制御装置を起動した研究員達は、目付きが気に入らないとか、態度が気に入らないとか、殴る為に必要らしい口実を言いながら殴ってきた。
 普段ならこんな攻撃なんか痛くもないのだろうが、制御装置を起動されてしまったら避ける事も、防御する事も出来ない。そんな所へわざわざ鳩尾とか、米神とか、喉とかを狙われるんだから、痛みよりも反射的に声が出てしまう。
 それが、多分楽しいんだろう。さっきまでは「助けて」と声に出していた改造人間達が黙ってしまうくらい研究員達の攻撃は結構長い間続いた。
 それが終わるといよいよスクラップ準備が始まり、改造人間がズラリと1列に並べられ、何処かで視聴しているやつでもいるのだろう、1人1人カメラで撮影している。
 「始めます。CF1519」
 こうして何かを注射された。
 その途端に強烈な眠気が襲い掛かってきて……これで眠ったらこのまま死ぬんだろうな、なんてボンヤリと思った。だから……何が何でも起きててやろうって。
 最後の抵抗をする事にしたんだ。
 体が動けば腕を抓るとか、頬を叩くとか、色々と抵抗する術はあったのだろうが、体が動かないんじゃあ舌を噛むしか方法がない。それでも眠いのと力が入らないのとで思い切り噛む事は出来ない。
 だったら他に何がある?
 気合しかない。
 既に眠ってしまった改造人間達を含め、俺は何かカプセルのような物に詰め込まれ、ゴロゴロと転がされて、ゴンッと何かにぶつかるような揺れと音の後止まった。
 多分、研究所裏にある廃棄場に放置されたのだろう。
 クラクラする頭は、転がされた事による酔いか、それとも薬による眠気のせいか……どちらにしても制御装置を起動されたままなのだから、ただただ耐えるしかないのだが、そこから数分が経ち、徐々に頭がハッキリしてきた。
 気合でどうにかなる程度の毒?どうやら薬の種類を間違われたか、分量を間違われたらしい。いや、少量でも毒だったのならこうして頭がハッキリする事って可能なのか?
 物凄く眠かった事を考えると、ただの睡眠薬を打たれた……とか?
 動けない状態で、意識があるまま破棄される気に食わない改造人間の叫び声でも聞きたいのだろうか?
 いくら研究員とは言え、そこまで悪趣味じゃない……とも言えないか。
 あー、裏目に出た。
 こんな事なら抵抗せずに寝てしまえば良かったな。
 「俺ってついてねーな」
 これまでにないほど深い溜息が漏れた。
 すると、すぐ隣にいた奴から、
 「動けた分俺よりツイてた」
 と、ボヤキでもなく、文句でもなく、ただの世間話をするような声が返ってきた。
 もう誰も起きてないと思ってたからビックリしたけど……俺以外にも眠気に耐えてしまった仲間がいたとは。
 それにしても、動けた分って事は、コイツは改造手術を受けてから1度も動けずにスクラップ処分になったんだな……それを思うと、確かに俺はツイていた。
 「そうだな……」
 友達にも恵まれてて……前線に出たくないからと言う理由で手を抜いてさ、能力のない奴はスクラップにされないよう必死で訓練していたのに、俺って……今まで何やってたんだろーな。
 って、今更気付いたって遅過ぎる。
 でも、それに気付くだけの時間があって良かったとも思う。
 俺は愚かなまま死ななかった。それだけでも充分ラッキーだ。
 しばらくすると遠くの方から不快な音がして、俺達が詰め込まれたカプセルが持ち上げられた。
 とうとう、死ぬ時が来たんだな。
 スクラップ方法はどんな感じなのだろう?
 痛いかな?
 苦しいかな?
 けど、絶対に恐怖にも、痛みにも、苦しみにも顔を歪めたりはしない……あ、制御装置起動してるから、そんな事気にしなくたって表情は変わらないか。だったら、声を上げない事にしよう。
 待てよ、高らかに笑ってやろうかな?
 いや、止めとこう……死ぬ前にテンション上がって叫び死ぬ雑魚キャラっぽくなる。
 「進入された!」
 覚悟を決めていると、そう研究員達が慌てふためいた声が聞こえた。
 なにかあった?
 荒々しく持ち上げられた為か、少しだけカプセルが歪み、その隙間からこちらを指差している研究員達の姿が見える。
 進入されたってのに、何故こっちを指差して……あぁ、俺達の入ったカプセルをその侵入者が持ち上げているって事か。
 「どうせ廃棄物だ。捨置け」
 ここを仕切っているらしい研究員の声がした後、歪みから見える景色はズンズンと施設から離れ、やがて荒れ果てた景色に変わり、施設が、あんなにも小さく……。
 「何処に連れてく気なんだ」
 隣の奴が不安そうな声を上げる。
 そんな事聞かれたって、俺だって不安で不安で……でも、どーせ死ぬんだとしても研究員達の手でじゃないから良いとは思う。
 「それはそうと俺達ツイてるな。スクラップにされたのに研究所から脱出出来てんぜ」
 自分で言っておきながら、その言葉にツイてるっなって気になった。
 思い付きで話しただけの台詞に自分で勇気付けられた。
 これってかなり人間ッポイよな?
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