時の記憶

知る人ぞ知る

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「あっ」

いたたまれなくて目を閉じたとき、りんの驚いた声が聞こえ、目を開く。

少女が見つめる先には、白い粒がこの町に降り注いでいた。


「初雪じゃ」

けれど村長はふとおかしな事に気が付いた。

「けんど、少し速すぎる初雪じゃないかい?」

窓から手を伸ばして白い結晶に触ると、ひんやり冷たくてすぐに溶けて消えた。


「おばあちゃんが泣いてるみたい」

『あれだけ幸せそうに笑ってたのにね』とりんは微笑みながら涙を流した。




「はっ、はっ、はっ、だ、誰かたすけてっ」


肩までの髪を一本に束ねた幼い少女の悲鳴が、木に囲まれた暗闇の中で響く

「はっはっ……っ…はっ!」

少女の息は荒く、着物からはだけた脚は泥まみれ。

少女は薄っすらと雪の積もった冷たい道を裸足で走っていた。


寒さで真っ赤になったつま先に目もくれず、何かから逃げるように重く茂った森の中をどんどん突き進む


だが


「あっ!」

雪で隠れていた木の根元に少女の足が絡まって、ごろごろと雪の上に転がり落ちた。


「助けてっ…ぐすっ……まま…ぱぱっ!」

涙と泥でぐしゃぐしゃになりながら、少女は心の叫びを放った。

その瞬間、雪を握り締めて顔の上げられない少女の上に大きな影が被さった。


ハッと呼吸が止まる


少女は唇をちぎれるほど噛んでボロボロと涙を零した。

背中に感じる恐怖と憎悪

自分の元へどんどん近づいてくる影はやがて



少女を飲み込んだ




雪が降った朝、村長さんはおばあちゃんの居ない家に一人で居させるわけにはいかないと、村の気前のいいおばさんにりんを預けた。

そして彼は村長会議の為、朝一で都会へ続く唯一の道を荷物を持って出かけて行ってしまった。


別れ際、少女が村長へ手を伸ばしたが、それは振り向いた後で、村長の背中はどんどん小さくなってしまった。

宙に浮いたままの手はゆっくりと下ろされ、少女は消えていく背中をただ見つめていた。



この日から、りんのクラスの子が点々と姿を見せなくなっていった。

先生が言うには行方不明だという。

けれど、行方不明になった子達の机の上には、綺麗に咲いた花が花瓶に生けられて置いてあった。

その光景を見たとき、りんはもう、この子たちには会えないんだろうなと何処かで思ってしまった。

そしてそれと同時に、いつか自分が居なくなるんじゃないかという恐怖がじわじわとりんの心を埋め尽くしていた。

「セイ…会いたいよ…」

りんの心からの言葉は、寂しい教室の空気に消えた。

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