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第二十六夜 地獄の沙汰も課金次第
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「リッカちゃん!」
状況からして、私をかばってくれたであろうリッカちゃんが、太い木の枝に胸を貫かれている。
リッカちゃんはゆっくりと自分の胸から突き出た枝を見て、
「何ニャ、コニャー!」
昔の刑事ドラマの再放送で聞いたことのあるようなセリフで絶叫する。
現実ならとても助からないが、ここは夢の中のゲーム世界。HPが無くなる前に回復すれば助かるはず!
「ばっ……〈絆草膏〉!リッカちゃん、今……」
ボフン!
私の薬草を持った手が届く前に、軽い爆発音がして白い煙が視界を遮る。私は構わず煙の中に突っ込んだ。
しかし、そこにリッカちゃんの姿はなかった。
そんな……間に合わなかった……?
「美夜ミャン!来る!」
切羽詰まったミャウルの声に、一気に戦闘に引き戻される。左右から飛んでくる枝葉の矢の群れ。何であんな方向から?ええいっ!
〈双頭龍の旋風爪!〉
樫の樹の棒を高速回転させて、必死に右側の枝を叩き落としていく。
「曲射打ちやと?その分威力が弱まって助かったけどな」
ネルフさんが符で結界を張って、反対側を守ってくれてる。 マーレさんを自分の翼で守っているミャウルを中心に、二人で枝葉の攻撃を防いでいる陣形だ。
くっ……かなりきついが、これならなんとか……
ブウウウウン!
って音がする方を見れば、別方向の上空から枝葉の群れが!
よく見れば、枝に付いてる葉っぱが昆虫の羽のように震えている。あれで私達が弾いた枝が方向修正して再び襲いかかっているのか!
不味い!死角からマーレさんとミャウルの方へ。ミャウルの〈フェザーガード〉がどこまで持つか分からない。
「〈忍法・猫牙嵐の術!〉(ニャンぽう・ニャコがらしのじゅつ!)」
独特のイントネーションで叫ばれた術が、冷たく鋭い旋風を起こして枝葉の群れをあらぬ方向へ吹き飛ばす。
その技名に含まれる「木枯らし」の意味の通りに、冷たい旋風は枝から葉を落とし、大地に叩き落された枝は二度と動くことはなかった。
「危にゃいところだったニャ」
ミャウルの翼の中からヒョコッと顔を出したのは、胸を貫かれたはずのリッカだった。思いっきりピンピンしてる……ってことはやっぱり……
「〈空蝉の術〉が自動的に発動して助かったニャ」
グッと親指を立ててサムズアップ。先程話してくれた〈脱皮の呪い〉を克服して獲得した能力で致命傷を避けたのだ。コランダさんと違う点は、毛皮じゃなくて衣服が脱げている点。現に太い枝が貫通した忍び装束がさっきの場所に落ちている。
……何故かホットパンツまで。
「でも、戦闘が終わるまでペナルティで服を着れニャいのが難点ニャ。って、ニャアアアア!オッサン!しれっとこっちに来んニャ!」
気配を殺して羽の中を覗き込もうとするネルフを、フシャーと必死で威嚇するリッカちゃん。翼の隙間から腕だけ出して、鋭く伸びた爪で牽制してる。
良かった、本当に何ともないようだ。しかし、あのオッサンは……
手が離せない私と違って、ネルフさんの符は宙に固定されて結界を維持しているから、自由に動けるのだ。
早くこっちも全部打ち落として、猫耳美少女のあられもない御姿を拝ま……もとい、守らねば!
そんな、邪念を持ったのがいけなかったのだろうか。
バキリ!と高速回転させていた木の棒が折れてしまう。激しい攻撃に耐えられなかったのだ。
ドスドスドスと鈍い音と衝撃が体内を駆け抜け……
視界が次第に暗くなり、そんな中でも自分のHPバーだけはハッキリ見えており……
緑色の長かったバーがどんどん短くなって黄色に変わり……
残り一割になると危険を知らせる赤色に点滅して……
ついに全部無くなって、視界は完全に真っ暗になった。
こうして、リッカちゃんと違って、私はアッサリとゲームオーバーになってしまいました。
「おお、美夜よ。死んでしまうとは情けない」
そんな有名な台詞の声で私は目を覚ました。
そこは何処かの神殿の様だが、ガランとして何も無く、一人の神々しいドレスを着た女性がいるだけだった。
「お目覚めですか?美夜さん。私は復活を担当している女神です」
復活?……あ、そういえば私、戦闘でやられて死んだんだった。
このゲーム始めてから初めのゲームオーバーである。
くっ、情けない。今、全員が危機的状況を必死で支えている時に、何も出来ずに脱落するとは。
……って、この女神今なんて言った?
「私、死んでも復活出来るんですか?」
「いえ、出来ません」
一縷の希望を込めた質問を、間髪入れずニッコリ笑って、バッサリ切り落とす復活担当の女神様。
「死は絶対普遍のものです。夢の世界の住人といえども、死んでしまったら生き返れません」
「でも、それじゃあ戦闘で負けたプレイヤーはゲームを続けられないじゃない。……あ、セーブポイントからやり直すとか?」
「死に戻りでも有りません。簡単な話です。実は死んでなかったということにすれば良いのですよ」
ニッコリ笑って女神様はとんでもない屁理屈を答えてくれた。
「いや、でも私心臓とか貫かれて死んじゃったんですよ?これで死んでなかったことにするなんて、どう考えても無理が……」
「死んだ事なんて、身代わりを使って無かったことにすれば良いのですよ」
さっきと同じようにニッコリと笑って、またまたとんでもない事を宣う女神様。
「ステータスプレートのアイテム保管欄の一番下をご覧下さい。特別枠がございます」
言われた通りに一番下まで空白のアイテム欄を延々とスクロールして見てみると、確かに色違いの特別枠が二つある。こんな下まで見たことなかったから気付かなかった。一つは空っぽだがもう一つには知らないアイテムが収まっている。
「……呪いの復活人形?」
「はい、それは持ち主が致命傷を負った瞬間に、身代わりとなって、持ち主を安全な地点に転移させてくれる大変便利な人形です」
「なら、何で呪われてるの?」
「皆さんそう呼んでいるのですっかり定着してしまいました。こんなに可愛いのに……ゲームオーバーのペナルティとして、レベルに応じた消費アイテムや所持金が人形と一緒にその場に残されるのが原因でしょうかね」
不気味なツギハギだらけの人形を持ちながら、不思議そうに首を傾げる女神に、とりあえず話を合わせて同意することにする。
「うーん?それは当然の仕様じゃないかな」
「そうですよね!でも、そのせいか無茶な行動や無謀な挑戦をするプレイヤーが多くなって私の仕事が大変になっ……ンンッ、人形さんが可哀想になったので、警告としてちょっとした悪夢を見せたら、『この人形は呪われている』って悪評が広まっちゃいまして……」
それが原因か!ってあんたのせいじゃないの!なんか誤魔化そうとしたし。
後に聞いた話だが、ボロボロになった人形が「痛いよー、痛いよー」と泣き叫ぶ悪夢を見せられたプレイヤーから苦情が殺到したが、運営側は何故か仕様を変更せず、「呪いの復活人形」と名称を変更したにとどめたらしい。
「ともあれ、これが作動しますと持ち主はこの世界から強制転移され、そのまま眠りに落ちます。朝までグッスリ深く眠れる上に、設定した時間直前に悪夢を見せてバッチリ起こしてくれますよ」
強烈すぎる目覚ましもあったもんである。
「ミャッたく、あの悪夢は酷いもんだニャ。夜中トイレに行けニャくなるニャ」
突然の声に驚いて振り返ると、そこにはリッカちゃんが申し訳なさそうに立っていた。
「面目ないニャ。美夜ニャンがやられた後、すぐに死んじゃったニャ。でもマーレさんやミャウルを守れたから良しとするニャ」
ニャハハハ、と申し訳なさそうに笑うリッカちゃん。どうやら〈空蝉の術》は二度も発動できなかったようだ。そういえばリッカちゃんはちゃんと服を着ている。こっちの世界では外れた装備も元に戻るらしい。
「そんなションボリしないでほしいニャ。死んじゃったのは悲しいけど、私達のレベルじゃ足手まといだったし、ここでみんなの応援するニャ」
ネコ耳美少女の半裸を拝めなかったガッカリを別の意味に受け取ってくれたリッカちゃんが眩しくて顔向けできないよ。
というか、ここで戦闘の続きが見れるのか。
リッカちゃんの指差す先を見ると大きな鏡が置いてある。
近づけば、鏡面が分割して戦闘の様子を映し出してくれた。
後ろにある穴の中へ避難したマーレさんとミャウルを、枝葉の攻撃から結界で穴を塞いで守っているネルフさん。守る範囲が狭まったおかげで、激しい攻撃にも耐えられている。
マーレさんは壁面にしがみついているが、結界支えなければならないネルフさんは両手が使えない。穴の奥に逃げて結界から離れれば力が弱まり、逃げ場のない穴の中で串刺しになってしまう。
ならばどうするか?
ホバリングしているミャウルに抱き抱えられているエルフのオッサンの姿がそこにはあった。
オッサンの顔が赤い。美少女に抱きしめられて照れているのだ。
ミャウルの顔が赤い。必死でホバリングして体力の限界なのだ。
決して、男性と抱き合って顔を赤らめているという、少女漫画の嬉し恥ずかしなシーンではないことはミャウルの苦悶の表情を見れば分かる。
その地下深く掘られた穴の下で、瞑想し呪文を唱えながら印を組み、龍脈の流れを堰き止めているオショウとそれを支えるアカリちゃん。そう、ネルフのことが大好きなアカリちゃん。
もし、その頭上でネルフさんとミャウルが抱き合っている浮気現場?をアカリちゃんが見つけ、修羅場なぞが発生してネルフとオショウの集中が乱れれば、たちまちここにいる全員全滅する可能性が高いのではなかろうか?
私、リッカ、復活の女神の三人は揃ってゴクリとツバを飲み込んだのであった。
あまりの緊張感に耐えかねて別の画面を見てみれば、負傷したコランダさんを乗せ走るトラさんが映っていた。一緒に乗っているレンバさんが、あの長い髪で動けないコランダさんをトラの背に縛り付けている。本陣に戻って体制を立て直すつもりだろう。
その後ろから迫る誤神木。足取りは遅いが、なにせ巨大すぎる。それが今まで私達が居た本陣に向かっているのだ。おそらく、龍脈の力を取り戻す為に違いない。
その誤神木と並走し、左側から丸っこい体格のナナンダさんが〈影引き〉でニックさんを引っ張りながら必死に走り、ニックさんが安定した影の上から炎を纏わせた矢を連続して放つ。その矢は全射必中し誤神木の各所を燃やす。それでも誤神木は止まらない。
右側からは、モンスター達が誤神木に攻撃を仕掛ける。近づけばリーフレインや巨大な足に踏み潰されるので、遠隔攻撃しか出来ず効果は薄い。
だが、それを恐れず近づいて攻撃する者がいる。素早さが高いブラックゴブリンやダークウルフ、そして雷速で走るジャガマルクさんだ。
早い早い、襲い掛かるリーフレインも難なく躱し、爪を突き立てながら巨大な誤神木をどんどん登っていく。ジャガマルクさんは豹の獣人で木登りが得意なのも頷けるが、ダークウルフも体重など無いかの如く幹を垂直に走っている。ブラックゴブリンも……うん、例の黒いGの如くシャカシャカと登っているね。
彼らが目指しているのは頭頂部の枝葉がドーム状に密集した所だろう。その中に隠れている赤く輝く二つの光が弱点と考え近づいているのだ。
だが、その進撃も胸元に当たる部分で足を止められてしまう。髪の毛のように垂れ下がった蔓状の枝がいくつも動き出し、ジャガマルクさん達の行く手を塞いでいる。鞭のように速く強烈な攻撃とリーフレインとの波状攻撃を躱すのが精一杯だ。
そうしている間も誤神木の歩みは止まらない。一歩一歩本陣に近づいている。
「これでは、全滅は時間の問題ですね」
アカリちゃんが気付きそうもないので、つまらなさそうに鏡から離れる女神様。
おい、修羅場を期待していたんじゃないだろうな?
「ちょっと待つニャ!全滅なんてするわけないニャ!」
そんな女神様にリッカちゃんが抗議の声を上げる。
「みんニャとっても強いニャ!あたしがゲームオーバーにニャッてもダンジョンボスとか余裕で倒して生還してきたニャ。だからみんニャ絶対死なないニャ!」
必死に女神の言葉を否定しようして彼女に詰め寄っている。自分が死んだことは軽くスルーしていたのに、仲間が殺されることを非常に恐れているのかかなり興奮している。その証拠に……
「落ち着いてリッカちゃん。女神様の首が絞まってるから!復活の女神様倒しちゃったら、私達やこの後ここに来るかもしれない人達も、復活できなくなっちゃうんじゃないの?」
いや、ホントこのゲーム自由度高いわ。システムの一部であるはずのキャラまで攻撃できるの?女神様、息も絶え絶えに必死でタップしてますけど。
とりあえず二人を引きはなすべく近付く。
けれど、私の呼びかけにもリッカちゃんの攻撃は止まらない。
「何言ってるニャ!美夜ニャン!NPCのみんニャは死んじゃったら二度と復活なんてしニャイニャ!」
「どういうことかしら?それ。とんだクソゲーじゃないの!アアン?」
手のひらをくるりと返して、努めて冷静に問い掛けながら、流れるように女神の手首を捻り上げる私。合気道で四教という技で手首を極めながら肘を垂直に押し上げる技だ。ピョンピョンと片足で跳ねる女神の姿にびっくりしたリッカちゃんが掴んでいた襟から手を離す。二重の意味での手のひら返しにドン引きしているのだろうが、それどころではない。
女神が私にも何か言いたそうだが、私のニッコリ笑顔を見て何故か言い淀む。冷静さを取り戻したリッカちゃんも、私達の顔を見比べて何故かオロオロしている。
おかしいな?努めて冷静に落ち着こうと笑顔でいるのに。
「さてさて、どういうことか教えてもらいましょうか?女神様。普通仲間が戦闘で倒れても何かしら復活の手段が有るものでしょう?そうじゃなきゃ、大切に育てたキャラを強いボス戦に参加させるなんて事出来なくなっちゃうもんね?何か助ける方法はないのかしら」
そう、これではゲームが進まなくなってしまうではないか。どこぞのデスゲームでもあるまいし。高難度のクエストやダンジョン、ボス戦など挑む者がいなくなるのは簡単に予想出来る。
「あのですね、序盤で出会うNPCの仲間はいずれ別れることになるんですよ」
焦った様子で何か説明し始めたので、私は手を離して技を解く。
解放された手首や肘を擦りながら、女神は話を続ける。
「今でこそ彼らの方がレベルが高く頼りになりますが、いずれプレイヤーの成長速度に追い付けなくなりますし、レベルアップにも限界があります。これから先、より高難度の地域に冒険するプレイヤーに着いていくことはできません。彼らの方から別れを切り出されるでしょう。無理して彼らを引っ張っていけば、貴方が彼らを殺すのと変わりありませんよ。先程クソゲーとおっしゃいましたが、ここはあくまで一つの世界。死んでしまったら生き返れないのが当たり前なのです。私共としましては、プレイヤー同士のパーティを組むことを推奨します。」
うーん、至極最もな話である。ガンガン強くなったり、死んでも復活できる私達プレイヤーがチートな存在ということか。私はこの世界を攻略可能なゲームの世界と捉えていたが、制作者側は一つのある意味現実的なファンタジー世界に、チート能力を持ったプレイヤー達を放り込んだという認識のようだ。
クッ、これがRPG世代とMMORPG世代の差ということだろうか。認めたくないものだな……若さというものは。
などと馬鹿なことを考えている場合ではない。認識は改めるとして、聞かなければならないことがある。
私は態度を改めて、手を離し深々と頭を下げる。
「先程の失礼な態度と言動をお詫びします。女神様。この世界が甘くない世界ということはわかりました。ですが……」
「そうニャ、みんニャを助ける方法を……」
「うちのルカも死んじゃったら生き返れないんでしょうか!」
とたんにズッコケる女神とリッカ。いやあ、いい反応をありがとうございます。
何か言おうとするリッカちゃんを手で制し、私は言葉を続ける。
「リッカちゃんの言いたいことは分かるわ。でもね、彼らは自分の意思で戦うことを決めたんでしょ。シナリオなんかに従ったんじゃなくて。なら、冷たいことを言うようだけど、もしここで死んでも彼らの責任よ。けれど、ルカは私が倒したサウンドドラゴンの忘れ形見みたいなものなの。私に懐いてそのまま着いてきたきたけど、もし他のNPCと同じように生き返れないならこの先連れていけないわ。悲しいけどここでお別れよ」
うっ、と言葉を詰まらせるリッカちゃん。
代わりに女神が表情を引き締めて、次のように述べた。
「プレイヤーがティムした使い魔や眷属は、一度倒されることによってこちら側に生まれ変わり、システムの恩恵を受けることになります。成長速度上昇、成長限界突破、進化可能など通常では考えられない能力が与えられますし、致死ダメージを受けても死ぬ直前にプレイヤーの影に自動で収納され、アイテムを使えば復活できますよ」
良し、これでルカの安全も保証されたね゙。
だけど何だろう?この凄まじいチート感は。NPC……いや、この世界の人たちに対して申し訳なくなってくるよ。
けど、私が聞きたかったことはこのことではないのだ。
「さて、いろいろと脱線しちゃったけど、そろそろ話を戻しましょうか。復活の女神様」
「話を戻す?」
何のことかと不思議そうに首を傾げる女神。とぼけるつもりか……
リッカちゃんも何のことか分からないようだ。
私は女神に向き直る。
「さっきの私の質問にちゃんと答えてないわよ。私は仲間を助ける方法は無いのかって質問したの。NPCとはいずれ別れるから仕方ないなんて回答はちょっとズレてるんじゃないかしら」
アッ、と声を上げてリッカちゃんが口を手で押さえる。
そう、普通なら助ける方法があるかないかで答えれば良いのに、この女神は微妙に答えをずらしているのだ。考えられるのは、助ける方法はあるが言うことは出来ないので、諦めるように誘導しようとしているといったところか?
だけど、どうしてそんな回りくどいことを……
「美夜ニャン。多分あたしのせいニャ」
気まずそうにリッカちゃんが呟く。
え?何でリッカちゃんが……
「リッカ様。それ以上は現実世界の個人情報に触れてしまいますよ」
心配そうに女神が声をかけるが、首を横に振って彼女はこう言った。
「あたし、あっちの世界では入院中の小学生なんだニャ」
その瞬間、私の頭の中に存在しないはずの知識が思い浮かぶ。
まるで、あらかじめ知っていたかのようにそれらの事柄がスッと理解できたのだ。
この感覚には覚えがある。
ゲーム開始時に、目の前で横になっているマリアベルさんを自分の母親だとすでに受け入れていた感覚だ。
本当に便利な機能だよ、これ。
それによると、以下の通り。
カースブレイカーズをはじめとするバーチャルドリームには、ある特典が存在する。
それは、長期入院中の患者や自宅で寝たきりの老人など、一日の大半をベットの上で過ごす治療中の人達には、一般プレイヤーの一日一ログインという制限が解除されるのだ。
これは入院患者達だけでなく、看護師や自宅で介護する家族にも大いに喜ばれた。
なにせ、彼らは双方共にかなりストレスが溜まる。
患者は辛い、苦しい、動けないなどの現実から解放され、夢の中とはいえ自由に動けるのだ。ゲームを楽しんだ後は深い睡眠に入り、全体的に回復も早まったり、痴呆症にもかなりの回復効果が出ているとの研究成果も出ていたりする。
看護側にとっても大助かりである。病室から聞こえてくる苦しげなうめき声が聞こえなくなった。大したことでもないのに何度も鳴らされるナースコールから解放された。機械にタイマーをセットすれば、食事、診察、リハビリの時間には自然と目覚め、それらが終われば再びログインして眠りについてくれる。それでもワガママを言うようなら、バーチャルドリームを取り上げると言えば大抵大人しくなってくれるといった具合だ。
だが、何事も良いことばかりとはいかないもので、この特別措置にも問題が生じることになる。
一つ目は廃ゲーマー達によるログイン制限解除を目的とした入院詐称なのだが、これは大したことにはならなかった。
なにせ、このカースブレイカーズではシステムに対して嘘はつけないのだから。
このゲームでは、現実世界の実力がゲーム内でも影響される。
運転免許を持っていれば馬や中型の魔獣をティムした上に騎乗スキルが取りやすくなり、料理ができれば料理スキルが、剣道有段者は〈剣使い〉関連の能力が取りやすくなるなどの恩恵があるのだ。
ならば、それは何を基準に判断されるのか?運転免許でもペーパードライバーから大型免許取得者まで様々なのに。
答えは、プレイヤーが取った行動に無意識に出てくる経験した記憶や思い出をシステムが読み取り、それをアビリティや称号に反映させるというものなのだ。例えば運転免許でも大型2種免許を所得していれば、システムがその経験や記憶を読み取り、大型の魔獣をティムしやすくなるアビリティを与える。あくまで噂だが、航空機を操縦出来る人は簡単に大型のグリフォンやドラゴンをもティムしてしまったとかしないとか。その為か、様々な資格の受験率が大幅に跳ね上がったという都市伝説が生まれたそうな。善きかな善きかな。
逆に言えば、廃ゲーマーが運営に「入院しているのでログイン制限解除お願いします」と虚偽の申請をしても、システムがそんな経験していないと読み取り、申請を許可しないということだ。そんな事案があまりにも多発した。中には「本当に入院しているのに不当に却下された」と騒ぎ立てる者も出るが、運営側は一切相手にせず彼らのアカウントを停止。すぐにこの騒動は沈静化した。
もう一つの問題は「課金アイテム譲渡問題」である。
先ずは、ゲーム初心者に親切に接してやりアドバイスや初心者には貴重なアイテムをプレゼントする。そうして恩を着せたところで課金アイテムをねだるという古典的なものだ。気が弱い人はお世話になったお礼にと課金アイテムを渡してしまうのだった。
ここでの課金アイテムとは、即時復活&一時的にパワーアップするアイテムを指す。
高齢者のゲーム利用率が増加したことにより、そういった行為が頻繁に起こるようになり、稀に脅迫めいた事件にまで発展する案件も出て、これには運営も対応に苦心した。
課金アイテムの譲渡に制限を付ければ良いとの意見もネットで頻繁に飛び交った為か、運営側はアイテム欄に特別枠を二つ付け、復活アイテムをログイン時に自動で入手できる「呪いの復活人形」と先程述べた課金アイテムを二つのみ所持できるように制限したのであった。
また、高齢者プレイヤーのサポートとして、ピーターパンと一緒にいるティンカーベルのように小さく可愛らしいフェアリーを、冒険や戦闘、システム面でのサポートから話し相手や課金アイテムを要求するプレイヤーへの警告役まで幅広くこなすナビゲーターとして配置すると、これが孤独なお年寄りのハートにまさかの大ヒット。
これにより、優秀なサポートフェアリーと、何度でもログイン出来る環境、長年の人生で培った経験から取得したレアスキル、加えて高価な課金アイテムを使える財力により、ガンガン攻略を進める上位プレイヤー組の大半が高齢者になるという異例の事態が起こるのだが、それはまた別の話。
リッカちゃんの告白から以上の知らないはずの特典事項を思い出し、私は思わず固まった。
彼女の「入院中の小学生」と言うことが本当なら、リッカちゃんは一般プレイヤー達誰もが羨む再ログイン可能というチート級の特典を持っているということであるが、それは逆にやっかみの対象になりやすいということでもある。
それにサポートフェアリーは高齢者のみのサービスで、一般プレイヤーが欲しいと思っても、普通のフェアリーをティムするしかなく、システムサポートやマナー違反のプレイヤーをゲームマスターに通報してくれるなどの行動は当然ながら起こしてくれない。
つまり、彼女を周囲の悪意から守ってくれるシステムサポートは何もないということである。こんな状態で私にそれを打ち明けるというのはあまりに不用心ということなのに……この娘は。
「……リッカちゃん」
近づく私にビクッと緊張するリッカちゃん。
勇気を出してカミングアウトしたものの、私がどう対応するか怖いのだろう。
病気、もしくは事故か何かで入院中の彼女に同情して優しくするか。もしくはもっと深い事情をあえて聞き出すか。それとも……
復活の女神は動かない。そう、ここで私が小学生の女の子に恩着せがましくなにかねだっても、それはプレイヤー同士の自由意思に委ねられる。システム側としては干渉できないのだ。そう……干渉できないのだよ、フフッ。
邪な笑みを浮かべて、私はリッカちゃんに迫る。後退る小学生女子をガシッと捕まえる成人女性という危険な構図であった。
そして私は言い放つ。
「その胸は小学生にしては盛り過ぎなんじゃないの?」
「ニャー!?」
彼女の御立派すぎる胸を揉みしだく私。
予想外かつ突然の行為にビックリして声を上げるリッカちゃん。
私が男なら即座にセクハラ判定されて一発退場だが、フレンド登録した同性相手の悪ふざけということで、やはりシステムは不干渉である。よし、予想通り。
「ちょっと美夜ニャン!そこじゃないニャ。」
「ん?そこじゃない?じゃあここか?ここがええのんか~?」
おそらく、ツッコむとこはそこじゃないと言いたかったのだろうが、もうすっかりスケベオヤジと化した私は華麗に曲解して揉み方を変えてやる。
「はい、そこまでです」
パッシーン!
女神が放ったハリセンの衝撃が、私の中のスケベオヤジを打ち払った。
「この世界は全年齢指定の仕様となっております。そういった行為がしたいのであれば別ワールドへの移動をお勧めしますが」
冷たく機械的に警告する女神に、私は謝罪して悪ふざけを止める。
このゲームは複数のサーバーがあり、今私達がいるのは一般ユーザーが大多数を占める全年齢推奨ワールド。残酷描写なし、グロ表現控えめ、そして性行為禁止な世界なのだ!もし仮に男女のアバターを裸にひん剥いても大きな違いは胸があるかないかのみであり、双方の股の間には何もないツルツルの状態であるとここに記しておかねばなるまい。勿論誤ってオネショなどしないようにとの配慮であろう。
だが、そんなライトファンタジーでは満足できないという者たちも少なからず存在する。そんな者たちに開放されたのがダークファンタジー的な18禁な成人限定ワールドである。もうそこは呪われた世界に相応しく、血と暴力に色取られたリアルな世界であり、奴隷制度や性行為もまかり通っているらしい。そんな世界に好んで入る野郎共は数知れず、彼らは毎朝己のパンツを手洗いしてるとかしないとか。
そんなヒャッハーな世界に普通の感性の女性はあまり行きたいとは思わない。
「「普通の感性ねえ……」」
あれ?なんか二人揃って疑わしげな眼でこっちを見てますよ。やだなあ、重くなった場の空気を和ますための軽いジョークじゃないの。
「まあ、冗談はさておき……」
ジト目のままの二人をあえて無視して私は話を整理する。
「つまるところ、リッカちゃんは特典を使って即時復活可能なわけね」
コクりとリッカちゃんが頷くのを確認して私は女神に向き直る。
「そして、こちらの女神様はリッカちゃんの個人情報を守るために、NPCが……いえ、この世界の人々がいずれ別れなければならない存在ということを強調して、彼らを助けることを諦めさせようとした……ということ?」
何かいまいち確信が持てないので最後は疑問形になってしまったが、それに、女神は苦笑して答える。
「リッカ様の個人情報を守りつつ、どのようにして美夜様に復活していただいて、あの『誤神木』を倒してもらおうかと考えあぐねていた、というのが正解ですね」
え?私があの誤神木を倒す?いくらなんでも無理じゃね。
困惑している私に女神様はガシッと手を握って熱弁を振るう。
「現在の所この世界の人々を生き返させる手段はありません。今戦っている皆さんを救う手段はただ一つ、美夜さんが奇跡の復活を果たし、覚醒した力で誤神木を倒すしかありません!」
それって課金アイテム買えってことじゃないの!
そう私が突っ込もうとするより早く女神が畳み掛ける。
「リッカ様はカキンを購入できませんので美夜様一人に全てがかかっております。さあ、もう時間がございません。ご決断を」
もう時間がないって……と戦闘画面を見てみると、誤神木の進む先に、呑気に草を食べている一頭の馬がいた。
……あの馬鹿。
実力以上の力を振るった代償に、バカな馬になってしまったゴランに誤神木が迫る。
もう迷ってる時間はなかった。
「ああ!もう分かったわよ!何でもいいから早く持ってきて」
「はい、かしこまりました。課金アイテムは別の担当になりますので、直ちに呼んでまいります」
そう言って、女神がシュンと消える。転移したのだろう。
なんだか上手く課金される方向に持っていかれた感はあるが、ここはあえて思惑に乗ってやろうじゃないの。まさか、入院中の小学生の女の子に課金アイテムを買って復活しろなんて言えるわけないし。
「美夜ニャン、力にニャれず申し訳ニャいニャ」
本当に申し訳なさそうに言ってくるリッカちゃんに私はパタパタと手を振る。
「気にすることないわよ。こうなったら大人の経済力見せてあげるわ。リッカちゃんも復活したら協力よろしくね」
「ごめんニャさい。あたし復活してもスフォンの村からにニャっちゃうニャ」
あ、そうか。再ログイン可能といっても課金アイテムを使わなければ、呪いの身代わり人形の効果で最寄りの安全地帯であるスフォンの村まで戻されるのか。
だが、いくらなんでもあんな怪獣のような動く巨木を私だけで倒す自信など全くなし!
ならば、打つ手は一つ。
「大人をなめないでよね。リッカちゃんの分も私が出してあげるわ。一緒にあの誤神木を倒しましょう。もちろんこれで何かを要求するなんてないってことを誓うわ」
私の言葉に表情が明るくなるリッカちゃん。
その瞬間、課金アイテム販売の担当者が転移して出現する。
そのアイテムの効能と値段に、思わず前言を撤回したくなるが、私は歯を食い縛って耐えるのであった。
時間は少し遡る。
「何とか誤魔化せましたかね?」
別の空間に転移して、女神はフッと息を吐いた。
「全く、やはり特別措置の人達は専用の復活の間へ案内する必要がありますね。いくら人手不足とはいえ複数のプレイヤーの面倒を一度に見るのはトラブルの基ですよ」
愚痴りながら、女神は準備を進めていく。
もちろん、複数のプレイヤーと言ってもフレンド登録した間柄で同じ戦闘で同一時期に死亡してしまった者たちという縛りは存在する。通常なら、復活の間でプレイヤー同士で相談し合って今後の方針を決めるのだ。
しかし今回、美夜とリッカはつい直前にフレンド登録したばかりであり、リッカに対しての保護プログラムが働いた為、対応に苦慮する結果となった。リッカは保護者である両親からゲーム内課金を禁止されており、そのことはシステム側にも伝えられている。もし、リッカがカミングアウトしなければ、黙って美夜にすべてを押し付けて大勢の仲間を見捨てて一人だけ安全地帯であるフォスの村に転移復活するしかなく、そうなると小学生の女の子にトラウマを植え付けかねない。
今回がかなり異常なのだ。
初心者エリアでは指導役として高い実力を持つ冒険者をパーティーにするように調節している。普通ならばプレイヤーが先に戦闘離脱しても逃げ帰るだけの実力があり、よほど不運なことでもない限り、全滅してしまうなどあり得なかった。
だが、今回出現したあの大樹はこちらの予測を大きく上回り、このままでは全滅は必至である。
例え、今戦っているパーティーが全滅しても、初心者エリアから他の地域に旅立ったプレイヤーを呼び戻せばあの誤神木は倒せるだろう。だが、あの冒険者の中には今死なせてしまうと、後々まずい影響が出てしまう者が含まれているので、その人物だけは死なせないようにと上からも釘を刺されている。
結局、プレイヤーである美夜に即時復活&課金パワーアップしてもらい、誤神木を倒してもらうのが皆にとって一番良い方法なのだ。
「まあ、それも仕事のうちですし、痛むのは美夜様の財布の中身だけですので、なんとも思いませんけどね」
美夜が聞けば怒りのあまり連続一本背負いを放ちそうなセリフをぬけぬけと言い放つ女神様であった。
ちなみに、即座に復活して戦闘に再参加出来るのは一人一ログイン中一度のみ、復活のタイムリミットは戦闘参加者が全員戦闘不能になるまでである。
一番低価格な即時復活だと、死の淵から気合で蘇ったという設定になり、HP一桁だが一時的にステータス小アップ状態になる。これで逆転勝利すれば盛り上がる事間違い無しだ。
もちろん値段が高くなるにつれ能力上昇や回復率も高くなり、最高級品ともなれば、各ステータス10倍、様々なバフが付き、高位の種族、職業アビリティが一時的に使えるといった物まで有るが、これに手を付けるのは廃課金プレイヤーでもちょっと躊躇われる金額になってしまう。
また、ゲーム内通貨であるセリンでも購入出来たり、生産職プレイヤーが作成できる復活アイテムも存在しており、プレイヤーはもちろんNPCまでも効力は有るが、普通に復活できるアイテムは今のところ発見されていない。
例えば、死霊術師の作る[ゾンビパウダー]は、その名の通りゾンビとして復活させるだけだし、道士の作る[霊符]はキョンシーとして復活させ、肉体硬直したあのコミカルな動きしか出来ない。また、プレイヤーならばアンデット状態からの回復も可能だが、NPCがアンデットになって復活した場合、元に戻る方法は未だ発見されていない。
獣人専用の[赤い月の雫]はHPがある程度回復しステータスも倍増するが、狂戦士状態となり敵味方問わず攻撃する博打アイテムだ。上手く敵を先に全滅出来れば戦闘終了となり狂乱状態も解除されるが、大抵は弱っていた仲間を攻撃して殺してしまうといった具合である。
結局、「呪いの身代わり人形」のような身代わりになってダメージを引き受けてくれるアイテムを所持するしか死を回避する方法はないのが現状であるが、本来ならばそんなのは伝説級のレアアイテムなのだ。気軽にバンバン使っているプレイヤー達がいる現状が異常なのである。
「全く、いくらこの世界を救うためとはいえ、そんな者たちを受け入れるなんてどうなることやら」
ぼやきながらも準備を終わらせる復活の女神。その容姿はすっかりと変わっていた。
艷やかな金髪はくすんだ灰色に。
清楚な白いドレスは、胸元や脚線美を強調した漆黒の怪しい衣装に。
白磁のような肌は褐色に変化していた。
そこにいるのは、美しい女神ではなく妖艶な悪魔だった。
女悪魔がパチンと指を鳴らすと、その身体が転移して美夜達の前に現れる。
驚く美夜たちに向かってニヤッと笑って彼女は言い放った。
「さっ、堅苦しい女神様は勤務時間が終わって、男漁りに行っちまったから、こっからは楽しい悪魔との契約の時間だ。即座に復活してパワーアップもしたいなんて救いようもない欲深な奴がいるって聞いてるぜ。そんな貴女にヨワヨワなザコでもヒーローになれる伝説級のアイテムがよりどりみどり。もちろん対価はキッチリいただくぜ。まずは……」
やっぱりコッチのほうが高い商品を押し付け易いですしね。
悪魔の格好をした復活の女神は内心ほくそ笑む。
「時間がないってそういうことか」と騒ぐ美夜に、次々と高い商品を並べていく。
彼女は美夜たちに技をかけられたことをしっかりと根に持っていたのであった。
、
状況からして、私をかばってくれたであろうリッカちゃんが、太い木の枝に胸を貫かれている。
リッカちゃんはゆっくりと自分の胸から突き出た枝を見て、
「何ニャ、コニャー!」
昔の刑事ドラマの再放送で聞いたことのあるようなセリフで絶叫する。
現実ならとても助からないが、ここは夢の中のゲーム世界。HPが無くなる前に回復すれば助かるはず!
「ばっ……〈絆草膏〉!リッカちゃん、今……」
ボフン!
私の薬草を持った手が届く前に、軽い爆発音がして白い煙が視界を遮る。私は構わず煙の中に突っ込んだ。
しかし、そこにリッカちゃんの姿はなかった。
そんな……間に合わなかった……?
「美夜ミャン!来る!」
切羽詰まったミャウルの声に、一気に戦闘に引き戻される。左右から飛んでくる枝葉の矢の群れ。何であんな方向から?ええいっ!
〈双頭龍の旋風爪!〉
樫の樹の棒を高速回転させて、必死に右側の枝を叩き落としていく。
「曲射打ちやと?その分威力が弱まって助かったけどな」
ネルフさんが符で結界を張って、反対側を守ってくれてる。 マーレさんを自分の翼で守っているミャウルを中心に、二人で枝葉の攻撃を防いでいる陣形だ。
くっ……かなりきついが、これならなんとか……
ブウウウウン!
って音がする方を見れば、別方向の上空から枝葉の群れが!
よく見れば、枝に付いてる葉っぱが昆虫の羽のように震えている。あれで私達が弾いた枝が方向修正して再び襲いかかっているのか!
不味い!死角からマーレさんとミャウルの方へ。ミャウルの〈フェザーガード〉がどこまで持つか分からない。
「〈忍法・猫牙嵐の術!〉(ニャンぽう・ニャコがらしのじゅつ!)」
独特のイントネーションで叫ばれた術が、冷たく鋭い旋風を起こして枝葉の群れをあらぬ方向へ吹き飛ばす。
その技名に含まれる「木枯らし」の意味の通りに、冷たい旋風は枝から葉を落とし、大地に叩き落された枝は二度と動くことはなかった。
「危にゃいところだったニャ」
ミャウルの翼の中からヒョコッと顔を出したのは、胸を貫かれたはずのリッカだった。思いっきりピンピンしてる……ってことはやっぱり……
「〈空蝉の術〉が自動的に発動して助かったニャ」
グッと親指を立ててサムズアップ。先程話してくれた〈脱皮の呪い〉を克服して獲得した能力で致命傷を避けたのだ。コランダさんと違う点は、毛皮じゃなくて衣服が脱げている点。現に太い枝が貫通した忍び装束がさっきの場所に落ちている。
……何故かホットパンツまで。
「でも、戦闘が終わるまでペナルティで服を着れニャいのが難点ニャ。って、ニャアアアア!オッサン!しれっとこっちに来んニャ!」
気配を殺して羽の中を覗き込もうとするネルフを、フシャーと必死で威嚇するリッカちゃん。翼の隙間から腕だけ出して、鋭く伸びた爪で牽制してる。
良かった、本当に何ともないようだ。しかし、あのオッサンは……
手が離せない私と違って、ネルフさんの符は宙に固定されて結界を維持しているから、自由に動けるのだ。
早くこっちも全部打ち落として、猫耳美少女のあられもない御姿を拝ま……もとい、守らねば!
そんな、邪念を持ったのがいけなかったのだろうか。
バキリ!と高速回転させていた木の棒が折れてしまう。激しい攻撃に耐えられなかったのだ。
ドスドスドスと鈍い音と衝撃が体内を駆け抜け……
視界が次第に暗くなり、そんな中でも自分のHPバーだけはハッキリ見えており……
緑色の長かったバーがどんどん短くなって黄色に変わり……
残り一割になると危険を知らせる赤色に点滅して……
ついに全部無くなって、視界は完全に真っ暗になった。
こうして、リッカちゃんと違って、私はアッサリとゲームオーバーになってしまいました。
「おお、美夜よ。死んでしまうとは情けない」
そんな有名な台詞の声で私は目を覚ました。
そこは何処かの神殿の様だが、ガランとして何も無く、一人の神々しいドレスを着た女性がいるだけだった。
「お目覚めですか?美夜さん。私は復活を担当している女神です」
復活?……あ、そういえば私、戦闘でやられて死んだんだった。
このゲーム始めてから初めのゲームオーバーである。
くっ、情けない。今、全員が危機的状況を必死で支えている時に、何も出来ずに脱落するとは。
……って、この女神今なんて言った?
「私、死んでも復活出来るんですか?」
「いえ、出来ません」
一縷の希望を込めた質問を、間髪入れずニッコリ笑って、バッサリ切り落とす復活担当の女神様。
「死は絶対普遍のものです。夢の世界の住人といえども、死んでしまったら生き返れません」
「でも、それじゃあ戦闘で負けたプレイヤーはゲームを続けられないじゃない。……あ、セーブポイントからやり直すとか?」
「死に戻りでも有りません。簡単な話です。実は死んでなかったということにすれば良いのですよ」
ニッコリ笑って女神様はとんでもない屁理屈を答えてくれた。
「いや、でも私心臓とか貫かれて死んじゃったんですよ?これで死んでなかったことにするなんて、どう考えても無理が……」
「死んだ事なんて、身代わりを使って無かったことにすれば良いのですよ」
さっきと同じようにニッコリと笑って、またまたとんでもない事を宣う女神様。
「ステータスプレートのアイテム保管欄の一番下をご覧下さい。特別枠がございます」
言われた通りに一番下まで空白のアイテム欄を延々とスクロールして見てみると、確かに色違いの特別枠が二つある。こんな下まで見たことなかったから気付かなかった。一つは空っぽだがもう一つには知らないアイテムが収まっている。
「……呪いの復活人形?」
「はい、それは持ち主が致命傷を負った瞬間に、身代わりとなって、持ち主を安全な地点に転移させてくれる大変便利な人形です」
「なら、何で呪われてるの?」
「皆さんそう呼んでいるのですっかり定着してしまいました。こんなに可愛いのに……ゲームオーバーのペナルティとして、レベルに応じた消費アイテムや所持金が人形と一緒にその場に残されるのが原因でしょうかね」
不気味なツギハギだらけの人形を持ちながら、不思議そうに首を傾げる女神に、とりあえず話を合わせて同意することにする。
「うーん?それは当然の仕様じゃないかな」
「そうですよね!でも、そのせいか無茶な行動や無謀な挑戦をするプレイヤーが多くなって私の仕事が大変になっ……ンンッ、人形さんが可哀想になったので、警告としてちょっとした悪夢を見せたら、『この人形は呪われている』って悪評が広まっちゃいまして……」
それが原因か!ってあんたのせいじゃないの!なんか誤魔化そうとしたし。
後に聞いた話だが、ボロボロになった人形が「痛いよー、痛いよー」と泣き叫ぶ悪夢を見せられたプレイヤーから苦情が殺到したが、運営側は何故か仕様を変更せず、「呪いの復活人形」と名称を変更したにとどめたらしい。
「ともあれ、これが作動しますと持ち主はこの世界から強制転移され、そのまま眠りに落ちます。朝までグッスリ深く眠れる上に、設定した時間直前に悪夢を見せてバッチリ起こしてくれますよ」
強烈すぎる目覚ましもあったもんである。
「ミャッたく、あの悪夢は酷いもんだニャ。夜中トイレに行けニャくなるニャ」
突然の声に驚いて振り返ると、そこにはリッカちゃんが申し訳なさそうに立っていた。
「面目ないニャ。美夜ニャンがやられた後、すぐに死んじゃったニャ。でもマーレさんやミャウルを守れたから良しとするニャ」
ニャハハハ、と申し訳なさそうに笑うリッカちゃん。どうやら〈空蝉の術》は二度も発動できなかったようだ。そういえばリッカちゃんはちゃんと服を着ている。こっちの世界では外れた装備も元に戻るらしい。
「そんなションボリしないでほしいニャ。死んじゃったのは悲しいけど、私達のレベルじゃ足手まといだったし、ここでみんなの応援するニャ」
ネコ耳美少女の半裸を拝めなかったガッカリを別の意味に受け取ってくれたリッカちゃんが眩しくて顔向けできないよ。
というか、ここで戦闘の続きが見れるのか。
リッカちゃんの指差す先を見ると大きな鏡が置いてある。
近づけば、鏡面が分割して戦闘の様子を映し出してくれた。
後ろにある穴の中へ避難したマーレさんとミャウルを、枝葉の攻撃から結界で穴を塞いで守っているネルフさん。守る範囲が狭まったおかげで、激しい攻撃にも耐えられている。
マーレさんは壁面にしがみついているが、結界支えなければならないネルフさんは両手が使えない。穴の奥に逃げて結界から離れれば力が弱まり、逃げ場のない穴の中で串刺しになってしまう。
ならばどうするか?
ホバリングしているミャウルに抱き抱えられているエルフのオッサンの姿がそこにはあった。
オッサンの顔が赤い。美少女に抱きしめられて照れているのだ。
ミャウルの顔が赤い。必死でホバリングして体力の限界なのだ。
決して、男性と抱き合って顔を赤らめているという、少女漫画の嬉し恥ずかしなシーンではないことはミャウルの苦悶の表情を見れば分かる。
その地下深く掘られた穴の下で、瞑想し呪文を唱えながら印を組み、龍脈の流れを堰き止めているオショウとそれを支えるアカリちゃん。そう、ネルフのことが大好きなアカリちゃん。
もし、その頭上でネルフさんとミャウルが抱き合っている浮気現場?をアカリちゃんが見つけ、修羅場なぞが発生してネルフとオショウの集中が乱れれば、たちまちここにいる全員全滅する可能性が高いのではなかろうか?
私、リッカ、復活の女神の三人は揃ってゴクリとツバを飲み込んだのであった。
あまりの緊張感に耐えかねて別の画面を見てみれば、負傷したコランダさんを乗せ走るトラさんが映っていた。一緒に乗っているレンバさんが、あの長い髪で動けないコランダさんをトラの背に縛り付けている。本陣に戻って体制を立て直すつもりだろう。
その後ろから迫る誤神木。足取りは遅いが、なにせ巨大すぎる。それが今まで私達が居た本陣に向かっているのだ。おそらく、龍脈の力を取り戻す為に違いない。
その誤神木と並走し、左側から丸っこい体格のナナンダさんが〈影引き〉でニックさんを引っ張りながら必死に走り、ニックさんが安定した影の上から炎を纏わせた矢を連続して放つ。その矢は全射必中し誤神木の各所を燃やす。それでも誤神木は止まらない。
右側からは、モンスター達が誤神木に攻撃を仕掛ける。近づけばリーフレインや巨大な足に踏み潰されるので、遠隔攻撃しか出来ず効果は薄い。
だが、それを恐れず近づいて攻撃する者がいる。素早さが高いブラックゴブリンやダークウルフ、そして雷速で走るジャガマルクさんだ。
早い早い、襲い掛かるリーフレインも難なく躱し、爪を突き立てながら巨大な誤神木をどんどん登っていく。ジャガマルクさんは豹の獣人で木登りが得意なのも頷けるが、ダークウルフも体重など無いかの如く幹を垂直に走っている。ブラックゴブリンも……うん、例の黒いGの如くシャカシャカと登っているね。
彼らが目指しているのは頭頂部の枝葉がドーム状に密集した所だろう。その中に隠れている赤く輝く二つの光が弱点と考え近づいているのだ。
だが、その進撃も胸元に当たる部分で足を止められてしまう。髪の毛のように垂れ下がった蔓状の枝がいくつも動き出し、ジャガマルクさん達の行く手を塞いでいる。鞭のように速く強烈な攻撃とリーフレインとの波状攻撃を躱すのが精一杯だ。
そうしている間も誤神木の歩みは止まらない。一歩一歩本陣に近づいている。
「これでは、全滅は時間の問題ですね」
アカリちゃんが気付きそうもないので、つまらなさそうに鏡から離れる女神様。
おい、修羅場を期待していたんじゃないだろうな?
「ちょっと待つニャ!全滅なんてするわけないニャ!」
そんな女神様にリッカちゃんが抗議の声を上げる。
「みんニャとっても強いニャ!あたしがゲームオーバーにニャッてもダンジョンボスとか余裕で倒して生還してきたニャ。だからみんニャ絶対死なないニャ!」
必死に女神の言葉を否定しようして彼女に詰め寄っている。自分が死んだことは軽くスルーしていたのに、仲間が殺されることを非常に恐れているのかかなり興奮している。その証拠に……
「落ち着いてリッカちゃん。女神様の首が絞まってるから!復活の女神様倒しちゃったら、私達やこの後ここに来るかもしれない人達も、復活できなくなっちゃうんじゃないの?」
いや、ホントこのゲーム自由度高いわ。システムの一部であるはずのキャラまで攻撃できるの?女神様、息も絶え絶えに必死でタップしてますけど。
とりあえず二人を引きはなすべく近付く。
けれど、私の呼びかけにもリッカちゃんの攻撃は止まらない。
「何言ってるニャ!美夜ニャン!NPCのみんニャは死んじゃったら二度と復活なんてしニャイニャ!」
「どういうことかしら?それ。とんだクソゲーじゃないの!アアン?」
手のひらをくるりと返して、努めて冷静に問い掛けながら、流れるように女神の手首を捻り上げる私。合気道で四教という技で手首を極めながら肘を垂直に押し上げる技だ。ピョンピョンと片足で跳ねる女神の姿にびっくりしたリッカちゃんが掴んでいた襟から手を離す。二重の意味での手のひら返しにドン引きしているのだろうが、それどころではない。
女神が私にも何か言いたそうだが、私のニッコリ笑顔を見て何故か言い淀む。冷静さを取り戻したリッカちゃんも、私達の顔を見比べて何故かオロオロしている。
おかしいな?努めて冷静に落ち着こうと笑顔でいるのに。
「さてさて、どういうことか教えてもらいましょうか?女神様。普通仲間が戦闘で倒れても何かしら復活の手段が有るものでしょう?そうじゃなきゃ、大切に育てたキャラを強いボス戦に参加させるなんて事出来なくなっちゃうもんね?何か助ける方法はないのかしら」
そう、これではゲームが進まなくなってしまうではないか。どこぞのデスゲームでもあるまいし。高難度のクエストやダンジョン、ボス戦など挑む者がいなくなるのは簡単に予想出来る。
「あのですね、序盤で出会うNPCの仲間はいずれ別れることになるんですよ」
焦った様子で何か説明し始めたので、私は手を離して技を解く。
解放された手首や肘を擦りながら、女神は話を続ける。
「今でこそ彼らの方がレベルが高く頼りになりますが、いずれプレイヤーの成長速度に追い付けなくなりますし、レベルアップにも限界があります。これから先、より高難度の地域に冒険するプレイヤーに着いていくことはできません。彼らの方から別れを切り出されるでしょう。無理して彼らを引っ張っていけば、貴方が彼らを殺すのと変わりありませんよ。先程クソゲーとおっしゃいましたが、ここはあくまで一つの世界。死んでしまったら生き返れないのが当たり前なのです。私共としましては、プレイヤー同士のパーティを組むことを推奨します。」
うーん、至極最もな話である。ガンガン強くなったり、死んでも復活できる私達プレイヤーがチートな存在ということか。私はこの世界を攻略可能なゲームの世界と捉えていたが、制作者側は一つのある意味現実的なファンタジー世界に、チート能力を持ったプレイヤー達を放り込んだという認識のようだ。
クッ、これがRPG世代とMMORPG世代の差ということだろうか。認めたくないものだな……若さというものは。
などと馬鹿なことを考えている場合ではない。認識は改めるとして、聞かなければならないことがある。
私は態度を改めて、手を離し深々と頭を下げる。
「先程の失礼な態度と言動をお詫びします。女神様。この世界が甘くない世界ということはわかりました。ですが……」
「そうニャ、みんニャを助ける方法を……」
「うちのルカも死んじゃったら生き返れないんでしょうか!」
とたんにズッコケる女神とリッカ。いやあ、いい反応をありがとうございます。
何か言おうとするリッカちゃんを手で制し、私は言葉を続ける。
「リッカちゃんの言いたいことは分かるわ。でもね、彼らは自分の意思で戦うことを決めたんでしょ。シナリオなんかに従ったんじゃなくて。なら、冷たいことを言うようだけど、もしここで死んでも彼らの責任よ。けれど、ルカは私が倒したサウンドドラゴンの忘れ形見みたいなものなの。私に懐いてそのまま着いてきたきたけど、もし他のNPCと同じように生き返れないならこの先連れていけないわ。悲しいけどここでお別れよ」
うっ、と言葉を詰まらせるリッカちゃん。
代わりに女神が表情を引き締めて、次のように述べた。
「プレイヤーがティムした使い魔や眷属は、一度倒されることによってこちら側に生まれ変わり、システムの恩恵を受けることになります。成長速度上昇、成長限界突破、進化可能など通常では考えられない能力が与えられますし、致死ダメージを受けても死ぬ直前にプレイヤーの影に自動で収納され、アイテムを使えば復活できますよ」
良し、これでルカの安全も保証されたね゙。
だけど何だろう?この凄まじいチート感は。NPC……いや、この世界の人たちに対して申し訳なくなってくるよ。
けど、私が聞きたかったことはこのことではないのだ。
「さて、いろいろと脱線しちゃったけど、そろそろ話を戻しましょうか。復活の女神様」
「話を戻す?」
何のことかと不思議そうに首を傾げる女神。とぼけるつもりか……
リッカちゃんも何のことか分からないようだ。
私は女神に向き直る。
「さっきの私の質問にちゃんと答えてないわよ。私は仲間を助ける方法は無いのかって質問したの。NPCとはいずれ別れるから仕方ないなんて回答はちょっとズレてるんじゃないかしら」
アッ、と声を上げてリッカちゃんが口を手で押さえる。
そう、普通なら助ける方法があるかないかで答えれば良いのに、この女神は微妙に答えをずらしているのだ。考えられるのは、助ける方法はあるが言うことは出来ないので、諦めるように誘導しようとしているといったところか?
だけど、どうしてそんな回りくどいことを……
「美夜ニャン。多分あたしのせいニャ」
気まずそうにリッカちゃんが呟く。
え?何でリッカちゃんが……
「リッカ様。それ以上は現実世界の個人情報に触れてしまいますよ」
心配そうに女神が声をかけるが、首を横に振って彼女はこう言った。
「あたし、あっちの世界では入院中の小学生なんだニャ」
その瞬間、私の頭の中に存在しないはずの知識が思い浮かぶ。
まるで、あらかじめ知っていたかのようにそれらの事柄がスッと理解できたのだ。
この感覚には覚えがある。
ゲーム開始時に、目の前で横になっているマリアベルさんを自分の母親だとすでに受け入れていた感覚だ。
本当に便利な機能だよ、これ。
それによると、以下の通り。
カースブレイカーズをはじめとするバーチャルドリームには、ある特典が存在する。
それは、長期入院中の患者や自宅で寝たきりの老人など、一日の大半をベットの上で過ごす治療中の人達には、一般プレイヤーの一日一ログインという制限が解除されるのだ。
これは入院患者達だけでなく、看護師や自宅で介護する家族にも大いに喜ばれた。
なにせ、彼らは双方共にかなりストレスが溜まる。
患者は辛い、苦しい、動けないなどの現実から解放され、夢の中とはいえ自由に動けるのだ。ゲームを楽しんだ後は深い睡眠に入り、全体的に回復も早まったり、痴呆症にもかなりの回復効果が出ているとの研究成果も出ていたりする。
看護側にとっても大助かりである。病室から聞こえてくる苦しげなうめき声が聞こえなくなった。大したことでもないのに何度も鳴らされるナースコールから解放された。機械にタイマーをセットすれば、食事、診察、リハビリの時間には自然と目覚め、それらが終われば再びログインして眠りについてくれる。それでもワガママを言うようなら、バーチャルドリームを取り上げると言えば大抵大人しくなってくれるといった具合だ。
だが、何事も良いことばかりとはいかないもので、この特別措置にも問題が生じることになる。
一つ目は廃ゲーマー達によるログイン制限解除を目的とした入院詐称なのだが、これは大したことにはならなかった。
なにせ、このカースブレイカーズではシステムに対して嘘はつけないのだから。
このゲームでは、現実世界の実力がゲーム内でも影響される。
運転免許を持っていれば馬や中型の魔獣をティムした上に騎乗スキルが取りやすくなり、料理ができれば料理スキルが、剣道有段者は〈剣使い〉関連の能力が取りやすくなるなどの恩恵があるのだ。
ならば、それは何を基準に判断されるのか?運転免許でもペーパードライバーから大型免許取得者まで様々なのに。
答えは、プレイヤーが取った行動に無意識に出てくる経験した記憶や思い出をシステムが読み取り、それをアビリティや称号に反映させるというものなのだ。例えば運転免許でも大型2種免許を所得していれば、システムがその経験や記憶を読み取り、大型の魔獣をティムしやすくなるアビリティを与える。あくまで噂だが、航空機を操縦出来る人は簡単に大型のグリフォンやドラゴンをもティムしてしまったとかしないとか。その為か、様々な資格の受験率が大幅に跳ね上がったという都市伝説が生まれたそうな。善きかな善きかな。
逆に言えば、廃ゲーマーが運営に「入院しているのでログイン制限解除お願いします」と虚偽の申請をしても、システムがそんな経験していないと読み取り、申請を許可しないということだ。そんな事案があまりにも多発した。中には「本当に入院しているのに不当に却下された」と騒ぎ立てる者も出るが、運営側は一切相手にせず彼らのアカウントを停止。すぐにこの騒動は沈静化した。
もう一つの問題は「課金アイテム譲渡問題」である。
先ずは、ゲーム初心者に親切に接してやりアドバイスや初心者には貴重なアイテムをプレゼントする。そうして恩を着せたところで課金アイテムをねだるという古典的なものだ。気が弱い人はお世話になったお礼にと課金アイテムを渡してしまうのだった。
ここでの課金アイテムとは、即時復活&一時的にパワーアップするアイテムを指す。
高齢者のゲーム利用率が増加したことにより、そういった行為が頻繁に起こるようになり、稀に脅迫めいた事件にまで発展する案件も出て、これには運営も対応に苦心した。
課金アイテムの譲渡に制限を付ければ良いとの意見もネットで頻繁に飛び交った為か、運営側はアイテム欄に特別枠を二つ付け、復活アイテムをログイン時に自動で入手できる「呪いの復活人形」と先程述べた課金アイテムを二つのみ所持できるように制限したのであった。
また、高齢者プレイヤーのサポートとして、ピーターパンと一緒にいるティンカーベルのように小さく可愛らしいフェアリーを、冒険や戦闘、システム面でのサポートから話し相手や課金アイテムを要求するプレイヤーへの警告役まで幅広くこなすナビゲーターとして配置すると、これが孤独なお年寄りのハートにまさかの大ヒット。
これにより、優秀なサポートフェアリーと、何度でもログイン出来る環境、長年の人生で培った経験から取得したレアスキル、加えて高価な課金アイテムを使える財力により、ガンガン攻略を進める上位プレイヤー組の大半が高齢者になるという異例の事態が起こるのだが、それはまた別の話。
リッカちゃんの告白から以上の知らないはずの特典事項を思い出し、私は思わず固まった。
彼女の「入院中の小学生」と言うことが本当なら、リッカちゃんは一般プレイヤー達誰もが羨む再ログイン可能というチート級の特典を持っているということであるが、それは逆にやっかみの対象になりやすいということでもある。
それにサポートフェアリーは高齢者のみのサービスで、一般プレイヤーが欲しいと思っても、普通のフェアリーをティムするしかなく、システムサポートやマナー違反のプレイヤーをゲームマスターに通報してくれるなどの行動は当然ながら起こしてくれない。
つまり、彼女を周囲の悪意から守ってくれるシステムサポートは何もないということである。こんな状態で私にそれを打ち明けるというのはあまりに不用心ということなのに……この娘は。
「……リッカちゃん」
近づく私にビクッと緊張するリッカちゃん。
勇気を出してカミングアウトしたものの、私がどう対応するか怖いのだろう。
病気、もしくは事故か何かで入院中の彼女に同情して優しくするか。もしくはもっと深い事情をあえて聞き出すか。それとも……
復活の女神は動かない。そう、ここで私が小学生の女の子に恩着せがましくなにかねだっても、それはプレイヤー同士の自由意思に委ねられる。システム側としては干渉できないのだ。そう……干渉できないのだよ、フフッ。
邪な笑みを浮かべて、私はリッカちゃんに迫る。後退る小学生女子をガシッと捕まえる成人女性という危険な構図であった。
そして私は言い放つ。
「その胸は小学生にしては盛り過ぎなんじゃないの?」
「ニャー!?」
彼女の御立派すぎる胸を揉みしだく私。
予想外かつ突然の行為にビックリして声を上げるリッカちゃん。
私が男なら即座にセクハラ判定されて一発退場だが、フレンド登録した同性相手の悪ふざけということで、やはりシステムは不干渉である。よし、予想通り。
「ちょっと美夜ニャン!そこじゃないニャ。」
「ん?そこじゃない?じゃあここか?ここがええのんか~?」
おそらく、ツッコむとこはそこじゃないと言いたかったのだろうが、もうすっかりスケベオヤジと化した私は華麗に曲解して揉み方を変えてやる。
「はい、そこまでです」
パッシーン!
女神が放ったハリセンの衝撃が、私の中のスケベオヤジを打ち払った。
「この世界は全年齢指定の仕様となっております。そういった行為がしたいのであれば別ワールドへの移動をお勧めしますが」
冷たく機械的に警告する女神に、私は謝罪して悪ふざけを止める。
このゲームは複数のサーバーがあり、今私達がいるのは一般ユーザーが大多数を占める全年齢推奨ワールド。残酷描写なし、グロ表現控えめ、そして性行為禁止な世界なのだ!もし仮に男女のアバターを裸にひん剥いても大きな違いは胸があるかないかのみであり、双方の股の間には何もないツルツルの状態であるとここに記しておかねばなるまい。勿論誤ってオネショなどしないようにとの配慮であろう。
だが、そんなライトファンタジーでは満足できないという者たちも少なからず存在する。そんな者たちに開放されたのがダークファンタジー的な18禁な成人限定ワールドである。もうそこは呪われた世界に相応しく、血と暴力に色取られたリアルな世界であり、奴隷制度や性行為もまかり通っているらしい。そんな世界に好んで入る野郎共は数知れず、彼らは毎朝己のパンツを手洗いしてるとかしないとか。
そんなヒャッハーな世界に普通の感性の女性はあまり行きたいとは思わない。
「「普通の感性ねえ……」」
あれ?なんか二人揃って疑わしげな眼でこっちを見てますよ。やだなあ、重くなった場の空気を和ますための軽いジョークじゃないの。
「まあ、冗談はさておき……」
ジト目のままの二人をあえて無視して私は話を整理する。
「つまるところ、リッカちゃんは特典を使って即時復活可能なわけね」
コクりとリッカちゃんが頷くのを確認して私は女神に向き直る。
「そして、こちらの女神様はリッカちゃんの個人情報を守るために、NPCが……いえ、この世界の人々がいずれ別れなければならない存在ということを強調して、彼らを助けることを諦めさせようとした……ということ?」
何かいまいち確信が持てないので最後は疑問形になってしまったが、それに、女神は苦笑して答える。
「リッカ様の個人情報を守りつつ、どのようにして美夜様に復活していただいて、あの『誤神木』を倒してもらおうかと考えあぐねていた、というのが正解ですね」
え?私があの誤神木を倒す?いくらなんでも無理じゃね。
困惑している私に女神様はガシッと手を握って熱弁を振るう。
「現在の所この世界の人々を生き返させる手段はありません。今戦っている皆さんを救う手段はただ一つ、美夜さんが奇跡の復活を果たし、覚醒した力で誤神木を倒すしかありません!」
それって課金アイテム買えってことじゃないの!
そう私が突っ込もうとするより早く女神が畳み掛ける。
「リッカ様はカキンを購入できませんので美夜様一人に全てがかかっております。さあ、もう時間がございません。ご決断を」
もう時間がないって……と戦闘画面を見てみると、誤神木の進む先に、呑気に草を食べている一頭の馬がいた。
……あの馬鹿。
実力以上の力を振るった代償に、バカな馬になってしまったゴランに誤神木が迫る。
もう迷ってる時間はなかった。
「ああ!もう分かったわよ!何でもいいから早く持ってきて」
「はい、かしこまりました。課金アイテムは別の担当になりますので、直ちに呼んでまいります」
そう言って、女神がシュンと消える。転移したのだろう。
なんだか上手く課金される方向に持っていかれた感はあるが、ここはあえて思惑に乗ってやろうじゃないの。まさか、入院中の小学生の女の子に課金アイテムを買って復活しろなんて言えるわけないし。
「美夜ニャン、力にニャれず申し訳ニャいニャ」
本当に申し訳なさそうに言ってくるリッカちゃんに私はパタパタと手を振る。
「気にすることないわよ。こうなったら大人の経済力見せてあげるわ。リッカちゃんも復活したら協力よろしくね」
「ごめんニャさい。あたし復活してもスフォンの村からにニャっちゃうニャ」
あ、そうか。再ログイン可能といっても課金アイテムを使わなければ、呪いの身代わり人形の効果で最寄りの安全地帯であるスフォンの村まで戻されるのか。
だが、いくらなんでもあんな怪獣のような動く巨木を私だけで倒す自信など全くなし!
ならば、打つ手は一つ。
「大人をなめないでよね。リッカちゃんの分も私が出してあげるわ。一緒にあの誤神木を倒しましょう。もちろんこれで何かを要求するなんてないってことを誓うわ」
私の言葉に表情が明るくなるリッカちゃん。
その瞬間、課金アイテム販売の担当者が転移して出現する。
そのアイテムの効能と値段に、思わず前言を撤回したくなるが、私は歯を食い縛って耐えるのであった。
時間は少し遡る。
「何とか誤魔化せましたかね?」
別の空間に転移して、女神はフッと息を吐いた。
「全く、やはり特別措置の人達は専用の復活の間へ案内する必要がありますね。いくら人手不足とはいえ複数のプレイヤーの面倒を一度に見るのはトラブルの基ですよ」
愚痴りながら、女神は準備を進めていく。
もちろん、複数のプレイヤーと言ってもフレンド登録した間柄で同じ戦闘で同一時期に死亡してしまった者たちという縛りは存在する。通常なら、復活の間でプレイヤー同士で相談し合って今後の方針を決めるのだ。
しかし今回、美夜とリッカはつい直前にフレンド登録したばかりであり、リッカに対しての保護プログラムが働いた為、対応に苦慮する結果となった。リッカは保護者である両親からゲーム内課金を禁止されており、そのことはシステム側にも伝えられている。もし、リッカがカミングアウトしなければ、黙って美夜にすべてを押し付けて大勢の仲間を見捨てて一人だけ安全地帯であるフォスの村に転移復活するしかなく、そうなると小学生の女の子にトラウマを植え付けかねない。
今回がかなり異常なのだ。
初心者エリアでは指導役として高い実力を持つ冒険者をパーティーにするように調節している。普通ならばプレイヤーが先に戦闘離脱しても逃げ帰るだけの実力があり、よほど不運なことでもない限り、全滅してしまうなどあり得なかった。
だが、今回出現したあの大樹はこちらの予測を大きく上回り、このままでは全滅は必至である。
例え、今戦っているパーティーが全滅しても、初心者エリアから他の地域に旅立ったプレイヤーを呼び戻せばあの誤神木は倒せるだろう。だが、あの冒険者の中には今死なせてしまうと、後々まずい影響が出てしまう者が含まれているので、その人物だけは死なせないようにと上からも釘を刺されている。
結局、プレイヤーである美夜に即時復活&課金パワーアップしてもらい、誤神木を倒してもらうのが皆にとって一番良い方法なのだ。
「まあ、それも仕事のうちですし、痛むのは美夜様の財布の中身だけですので、なんとも思いませんけどね」
美夜が聞けば怒りのあまり連続一本背負いを放ちそうなセリフをぬけぬけと言い放つ女神様であった。
ちなみに、即座に復活して戦闘に再参加出来るのは一人一ログイン中一度のみ、復活のタイムリミットは戦闘参加者が全員戦闘不能になるまでである。
一番低価格な即時復活だと、死の淵から気合で蘇ったという設定になり、HP一桁だが一時的にステータス小アップ状態になる。これで逆転勝利すれば盛り上がる事間違い無しだ。
もちろん値段が高くなるにつれ能力上昇や回復率も高くなり、最高級品ともなれば、各ステータス10倍、様々なバフが付き、高位の種族、職業アビリティが一時的に使えるといった物まで有るが、これに手を付けるのは廃課金プレイヤーでもちょっと躊躇われる金額になってしまう。
また、ゲーム内通貨であるセリンでも購入出来たり、生産職プレイヤーが作成できる復活アイテムも存在しており、プレイヤーはもちろんNPCまでも効力は有るが、普通に復活できるアイテムは今のところ発見されていない。
例えば、死霊術師の作る[ゾンビパウダー]は、その名の通りゾンビとして復活させるだけだし、道士の作る[霊符]はキョンシーとして復活させ、肉体硬直したあのコミカルな動きしか出来ない。また、プレイヤーならばアンデット状態からの回復も可能だが、NPCがアンデットになって復活した場合、元に戻る方法は未だ発見されていない。
獣人専用の[赤い月の雫]はHPがある程度回復しステータスも倍増するが、狂戦士状態となり敵味方問わず攻撃する博打アイテムだ。上手く敵を先に全滅出来れば戦闘終了となり狂乱状態も解除されるが、大抵は弱っていた仲間を攻撃して殺してしまうといった具合である。
結局、「呪いの身代わり人形」のような身代わりになってダメージを引き受けてくれるアイテムを所持するしか死を回避する方法はないのが現状であるが、本来ならばそんなのは伝説級のレアアイテムなのだ。気軽にバンバン使っているプレイヤー達がいる現状が異常なのである。
「全く、いくらこの世界を救うためとはいえ、そんな者たちを受け入れるなんてどうなることやら」
ぼやきながらも準備を終わらせる復活の女神。その容姿はすっかりと変わっていた。
艷やかな金髪はくすんだ灰色に。
清楚な白いドレスは、胸元や脚線美を強調した漆黒の怪しい衣装に。
白磁のような肌は褐色に変化していた。
そこにいるのは、美しい女神ではなく妖艶な悪魔だった。
女悪魔がパチンと指を鳴らすと、その身体が転移して美夜達の前に現れる。
驚く美夜たちに向かってニヤッと笑って彼女は言い放った。
「さっ、堅苦しい女神様は勤務時間が終わって、男漁りに行っちまったから、こっからは楽しい悪魔との契約の時間だ。即座に復活してパワーアップもしたいなんて救いようもない欲深な奴がいるって聞いてるぜ。そんな貴女にヨワヨワなザコでもヒーローになれる伝説級のアイテムがよりどりみどり。もちろん対価はキッチリいただくぜ。まずは……」
やっぱりコッチのほうが高い商品を押し付け易いですしね。
悪魔の格好をした復活の女神は内心ほくそ笑む。
「時間がないってそういうことか」と騒ぐ美夜に、次々と高い商品を並べていく。
彼女は美夜たちに技をかけられたことをしっかりと根に持っていたのであった。
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