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第三話「業」
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「魔法使いの業……ですか?」
「長きに渡り、私達──魔法使いは人と亜人の争いを傍観し続けてきた。私の他にも魔法使いは複数人いるが、彼らは皆愚か者だと言っていい」
彼女は悲しみと憎しみを乗せてそう話した。
「私は、人と亜人の争う姿を見ているのが耐えられなかった。魔法使いには奇跡を起こす力がある。ならばこの戦乱を終わらせる役割があるはずだろう?」
ウィッチハットにより完全に彼女の表情を確認することはできないが、彼女がどれほどの苦しみを経験してきたのかは理解できた。
その言葉一つ一つには疑う余地がない。
それは僕の単なる直感である。もしかしたら彼女は虚言を吐いているかもしれないし、この会話が全てが演技であるかもしれない。しかし彼女が話した思いは、僕の思い描く理想の物語とと全く同じであった。
ただそれだけであるのに、僕は彼女を疑うことをしなかった。
出会って数分であるが、彼女が誰かに共感を得ようと虚構を並べ立てるような人物ではないと、今まで様々な人間や亜人と関わってきた僕の軍神たる直感がそう言っているのだ。
「おっと、すまないね。別にお涙頂戴の話をしようと思ったわけじゃないんだ。ただ、ある提案をしようと思ってね」
「……提案、ですか?」
僕は軽くなった体にじんわりとした感動を感じながら、彼女の話を聞いた。
「私の元に来ないかい?」
「え……?」
突然のことに僕は思わず声を溢した。
「私は『ジニア』という武装組織を設立していてね。その活動目的はたった一つ。人と亜人の共生だ。そのためにあちこちの犯罪組織を潰してまわっている。人も亜人も関係なくね」
彼女の目は真っ直ぐに僕の目を見ていた。訴えかけようとするわけでもなく、懇願するわけでもなく、ただ純粋に、僕の意思を問いただしているようだった。
「それが、貴方が魔法使いの業とやらを追求して行った結果なんですね?」
僕の返しに、彼女は口角を上げた。
「流石だよ少年。まさにその通りさ。人と亜人の争いの種は両者の奪い合いによるものだ。銃の奪い合い、子供の奪い合い、権利の奪い合い、命の奪い合い……私はその種を一つずつ詰んでいきたいんだ。その為に、奪う者達を排除する。効率には欠けるが、一番可能性のある方法だ」
「ええ、よく……分かります。僕も任務で彼らの争いを幾度となく見てきた。僕はその奪い合いが嫌いでした……」
頭の中に、幼き日の記憶が蘇る。
山奥の町で起こった大火災。
取り残された狼の亜人の少女に手を差し伸べる人は誰一人としていなかった。
僕が手を伸ばそうとすると、母がその手を掴んで僕を火元と反対の方向へ引きずる。
──お母さん、ユナちゃんがまだっ……!
──あの子は大丈夫よ、亜人なんだから放っておきなさい!
──わけが分からなかった。
何故、亜人だからという理由で彼女が見捨てられなければいけないのか……分からなかった。
この世界はおかしいと思った。誰かが変えなければいけないと思った。だから僕は軍に入り、権力を手に入れて、国を率いて差別と戦おうと思った。
その結果が──。
「──僕が断る理由はありません」
死のうと思っていたところに、突然自分と同じ志をもつ者が手を差し伸べてきた。その手を取って共にこの不条理な世界と戦い、亜人達の権利を勝ち取ることこそ、これまで僕が殺してきた亜人達への餞になるはずだ。
きっと、そうだ。
「その組織、入ります。このふざけた争いを終わらせる為に」
「そうか──ありがとう。少年」
そうして差し出された彼女の華奢な手を、僕は力強く握り締めた。
「長きに渡り、私達──魔法使いは人と亜人の争いを傍観し続けてきた。私の他にも魔法使いは複数人いるが、彼らは皆愚か者だと言っていい」
彼女は悲しみと憎しみを乗せてそう話した。
「私は、人と亜人の争う姿を見ているのが耐えられなかった。魔法使いには奇跡を起こす力がある。ならばこの戦乱を終わらせる役割があるはずだろう?」
ウィッチハットにより完全に彼女の表情を確認することはできないが、彼女がどれほどの苦しみを経験してきたのかは理解できた。
その言葉一つ一つには疑う余地がない。
それは僕の単なる直感である。もしかしたら彼女は虚言を吐いているかもしれないし、この会話が全てが演技であるかもしれない。しかし彼女が話した思いは、僕の思い描く理想の物語とと全く同じであった。
ただそれだけであるのに、僕は彼女を疑うことをしなかった。
出会って数分であるが、彼女が誰かに共感を得ようと虚構を並べ立てるような人物ではないと、今まで様々な人間や亜人と関わってきた僕の軍神たる直感がそう言っているのだ。
「おっと、すまないね。別にお涙頂戴の話をしようと思ったわけじゃないんだ。ただ、ある提案をしようと思ってね」
「……提案、ですか?」
僕は軽くなった体にじんわりとした感動を感じながら、彼女の話を聞いた。
「私の元に来ないかい?」
「え……?」
突然のことに僕は思わず声を溢した。
「私は『ジニア』という武装組織を設立していてね。その活動目的はたった一つ。人と亜人の共生だ。そのためにあちこちの犯罪組織を潰してまわっている。人も亜人も関係なくね」
彼女の目は真っ直ぐに僕の目を見ていた。訴えかけようとするわけでもなく、懇願するわけでもなく、ただ純粋に、僕の意思を問いただしているようだった。
「それが、貴方が魔法使いの業とやらを追求して行った結果なんですね?」
僕の返しに、彼女は口角を上げた。
「流石だよ少年。まさにその通りさ。人と亜人の争いの種は両者の奪い合いによるものだ。銃の奪い合い、子供の奪い合い、権利の奪い合い、命の奪い合い……私はその種を一つずつ詰んでいきたいんだ。その為に、奪う者達を排除する。効率には欠けるが、一番可能性のある方法だ」
「ええ、よく……分かります。僕も任務で彼らの争いを幾度となく見てきた。僕はその奪い合いが嫌いでした……」
頭の中に、幼き日の記憶が蘇る。
山奥の町で起こった大火災。
取り残された狼の亜人の少女に手を差し伸べる人は誰一人としていなかった。
僕が手を伸ばそうとすると、母がその手を掴んで僕を火元と反対の方向へ引きずる。
──お母さん、ユナちゃんがまだっ……!
──あの子は大丈夫よ、亜人なんだから放っておきなさい!
──わけが分からなかった。
何故、亜人だからという理由で彼女が見捨てられなければいけないのか……分からなかった。
この世界はおかしいと思った。誰かが変えなければいけないと思った。だから僕は軍に入り、権力を手に入れて、国を率いて差別と戦おうと思った。
その結果が──。
「──僕が断る理由はありません」
死のうと思っていたところに、突然自分と同じ志をもつ者が手を差し伸べてきた。その手を取って共にこの不条理な世界と戦い、亜人達の権利を勝ち取ることこそ、これまで僕が殺してきた亜人達への餞になるはずだ。
きっと、そうだ。
「その組織、入ります。このふざけた争いを終わらせる為に」
「そうか──ありがとう。少年」
そうして差し出された彼女の華奢な手を、僕は力強く握り締めた。
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