コード:ジニア

ライカ

文字の大きさ
2 / 3

第二話「赫の魔女」

しおりを挟む
 見ると、黒いドレスに身を包んだ赤髪の女性がこちらを見下ろしていた。キラキラと光る水晶玉のついた木製の杖をつき、ウィッチハットを深々と被っている。
 普通であれば彼女が何者なのか、何故戦場の跡地に居るのかなど様々な疑問が浮かぶのだろう。しかし心身ともに疲弊していた僕には、そのような思考を回す気力も体力も残ってはいなかった。
 僕は死ねなかった後悔とやるせない無力感に駆られ、銃を下ろし、虚空を見つめて口を開いた。
「僕は……何も出来ませんでした。1000年前から始まった人と亜人の争いを、自分が終わらせるんだとタカを括ってこの様です。そりゃあ、死にたくもなりますよ」
 気づくと僕は、彼女に愚痴をこぼしていた。これまでの生涯を通して、初めて誰かに鬱憤を吐いた瞬間であった。自分でも不思議なほどに、初対面であるはずの彼女に対して口が緩くなっているのが分かった。
「生き残ったのは君一人だけかい?」
「えぇ、まあ……貴方は、何者なんですか?」
 ようやく思考が正常に働いてきた。昨夜から続く激戦の中で感覚が麻痺していたが、自分が置かれているこの現状にようやく違和感を感じることができた。
「私かい? 私はエル・ティガス・ヴォルトロン。巷では『あかの魔女』と呼ばれているよ」
 彼女は静かな声色でそう答えた。先程まで気づかなかったが、彼女の声はどこか深みを帯びていた。この世のありとあらゆる万物をその目で見てきたかのような堂々たる姿勢。その中に顕在するカリスマ性と優しさ。相反するようで様々なコントラストをたった一つの声で体現しているようだった。
 そしてまた、彼女の話す内容にも驚きを隠せない。
「魔女……ですか。面白い冗談ですね」
 僕は思わず笑みを溢してしまった。
 確かに、この世に亜人という人間を超越した者達が存在しているならば、魔法という奇術を扱う者達が存在していても、何もおかしくはない。
 寧ろ、理にかなっているとすら思える。
「嘘じゃないよ。信じさせるには……そうだね……」
 しばらくの沈黙の後、彼女の指を鳴らす音が空気を揺らした。
「君はレイ・フォードガスト。歳は19歳で左利き。 得意な戦法は銃火器よりも剣術であり、サーベルと亜人態での合併戦法を主流としていた。東洋の刀剣や侍に興味があり、抜刀術などの古来の戦法を研究している。黒髪と蒼眼は生まれつき。特に黒髪は周りから変な目で見られたのか……なるほど」
 彼女は、僕の詳細を全て言い当てていた。
 名前や生年月日などの個人情報は軍の司令部によって管理されていた為、何かの弾みで流出し、彼女の耳に届いたというのならば最悪合点がいく。しかし僕の得意な戦法や、軍の誰にも話していない思考すらも彼女は言い当ててしまった。それ即ち、彼女が人類の枠組みを外れた特別な力を持っているということの決定的な証明であった。
「齢16歳で両親が離婚、君は母親に引き取られたことで、戸籍上は母の名字である『フォードガスト』を名乗っているのか──流石にこれ以上はプライバシーだね。やめておこう」
 彼女はそう言って「すまなかったね」と僕に向けて頭を下げた。
「信じてもらいたいが為に、少々読み取りすぎた。失態を詫びさせて欲しい」
「いえ……」
 情報を読み取られた嫌悪感よりも、困惑が僕の中で勝っていた。目の前の彼女の言動全てを受け入れるのに脳が抵抗を示している。
「──まさか、本当に魔女なんですか……?」
「納得していただけたかな? 軍神殿」
「……ええ」
 彼女はハットの鍔から覗くエメラルドの瞳を緩め、優しく微笑んだ。そしてその場にしゃがみ込み、僕と目線を合わせて彼女は再び話を始める。
「さて、それじゃあ少し真面目な話をさせてもらおうかな。とその前に、折角魔女だと信じて貰えたんだ。お詫びにその怪我を治してあげよう。軍服も随分と汚れてしまったようだしね」
 エルさんは杖を突き出して水晶玉を僕の胸元に押し当てた。同時に幾何学的な文様の赤い魔法陣が僕の体に展開された。その魔法陣から供給される暖かい風によって、僕の体に刻まれた無数の切り傷や打撲、骨折が急速に回復していった。
 さらに、血だらけであった軍服は汚れが削り取られていき、その青い布生地と金の装飾を再び顕現させた。
「凄い……これが、魔法」
「亜人達とはまた違うだろうが、私も彼らと似たような者さ。魔法使いには魔法使いなりの得意分野がある。今みたいに誰かを治したり、守ったり……ね。私はそういう、いわば『魔法使いに課せられた業』を成し遂げたいのだよ」
 彼女はどこか寂れた表情でそう溢した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...