この思いは伝わらない

文字の大きさ
1 / 13

高校2年1学期

しおりを挟む
 この思いは一生伝わらないのだろう。
 教室でギターを片手にもてはやされている男、宇田 旺史うだ おうしという男には一生。

 俺、新田 詩樹にった しきには不本意ながらも思いを寄せている人間がいる。そいつは俺よりも身長が高く、運動神経が抜群でスポーツ全般なんでもできて、愛想がよくて誰からも好かれる。唯一の欠点は「え、東ってどっち?左?」と意味の分からないことを聞いてくるようなバカであるというところだろうか。
 ――周りからすればそんなところも可愛いとか思われるんだろうが。

 そんなバカこと宇田旺史うだおうしには高校2年の春、新学期のクラス替えで出会った。
 黒板に張り出されていた座席表を確認し自分の席に鞄をかけて着席した。まだ人がまばらな教室で旺史おうしは窓際の自分の席で頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。初めて見るやつだなと、やることもなくただぼんやりと旺史おうしを見ていた時だった。突然頬杖をついたまま首だけを動かしこちらを振り返ったと思ったら、旺史おうしはにっこりと笑った。

「はじめまして」
「ども」

 気さくに話しかけてくるやつだなと思った。

「名前なんていうんですか?」
「俺?」
「うん」
新田にった
「俺は宇田うだ。下の名前は?」
詩樹しき
「俺は旺史おうし
「ん。よ、よろしく」
「うん。よろしく」

 馴れ馴れしいやつだと思った。
 旺史おうしは名乗った後頬杖をやめ、体も俺の方へと向けて座りなおした。

「なんて呼ばれることが多い?」
「あー、にったとか、しきだな。」
「うーん」

 うーん?うーんとはなんだと少しいらっとした。

「あ、でも一人だけしっきーって呼ぶ奴はいるな」
「しっきー?じゃ俺もしっきーって呼ぼうかな」
「はい?」
「ん?」

 何におどろいているのかわかりませんとでも言いたげなきょとんとしたその表情に再度、は?と声を漏らした。
 さすがに距離感の詰め方バグすぎだろ。とか俺たち今日出会ったばっかだよなとか言いたいことは山ほどあったがどれから言えばいいのかわからない。
 そんな俺に何を思ったのか旺史おうしはあっと手を打ち合わせてごめんと謝った。

「俺はね、旺史おうしだからおうくんとか呼ばれることが多いよ」
「ん?」
「え?」
「そうじゃなくね?」
「え、違う?何が?」
「お、まえっ」

 こいつの思考回路が何もわからなくて、何もわからないことがわかってしまってふつふつと底の方から笑いが込み上げてきた。
 我慢することなく声をあげて笑えば今度はえぇ?と旺史おうしが困惑しているのが伝わってくる。あぁーバカ面白い。こいつは面白い。そう、心から思った。

「じゃ、おうくんな。」
「うん。よろしくねしっきー」
「ん。」

 こんなにも、いとも簡単に、俺の心の中に入ってきたやつは初めてだった。
 クールで寡黙な人。それが俺が他人からもらう評価だった。普通に接しているだろ、ちゃんと返答してるだろ、そう思うのに周りは勝手に俺をおもんぱかり行動する。意味が分からない。でも、別に俺もそれでよかった。関係のない人間にどう思われようと好きにすればいい。そんな人間関係を構築していれば自然と付き合いのある人間も限られていきメッセージアプリの友達欄は数えるのに片手で事足りるほどだった。
 そんな希薄な俺の友達欄の中に旺史おうしという人間が登録された。
 何もしらない旺史おうしはやったーありがとうと喜んで何、送ってやろうかな~とメッセージアプリに初めて送るスタンプを探し始めた。
 なんでだよ。別に今一緒にいんだから送る必要ないだろと笑えば、そうか!次の機会にとっとこ~とへらへら笑った。
 心地がいい。きっと俺はこの時からこいつのことが、旺史おうしのことが好きなんだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

幼馴染は吸血鬼

ユーリ
BL
「お前の血を飲ませてくれ。ずーっとな」 幼馴染は吸血鬼である。しかも食事用の血液パックがなくなると首元に噛みついてきてーー 「俺の保存食としての自覚を持て」吸血鬼な攻×ごはん扱いの受「僕だけ、だよね?」幼馴染のふたりは文化祭をきっかけに急接近するーー??

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

あなたに捧ぐ愛の花

とうこ
BL
余命宣告を受けた青年はある日、風変わりな花屋に迷い込む。 そこにあったのは「心残りの種」から芽吹き咲いたという見たこともない花々。店主は言う。 「心残りの種を育てて下さい」 遺していく恋人への、彼の最後の希いとは。

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...