この思いは伝わらない

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高校2年2学期

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 2学期の始め。朝、自分の席に座り教室の壁に背中をあずけてぼんやりと教室内を眺めていた時だった。
 教室の扉がガラッと力強く開けられた音がしてから元気なシースルーマッシュが顔をのぞかせた。

「朝から元気だな」
「今日は早起きだったからね」
「へー」
「しっきーは相変わらず低血圧?」
「ん」

 旺史は自分の席に鞄を置いた後、俺の机に座った。

「てか、その靴下のセンス何」
「え、変?」
「変だろ、色も長さもあってないけど」
「え、あ!も~なんなんだよ~」
「こっちのセリフだって」
「朝からまじでついてないんだって、も~聞いてよしっきー!!」

 旺史は足をじたばたと動かし悶絶しながら朝からのド天然エピソードを炸裂させ始めた。
 朝起きたら布団を被ってなかったから始まり、トイレに行こうとしたのに洗面所に行ったーとか、シャツがないと思ったら自分で持ち歩いてたーだの、最後には来る途中今日はなんだか音楽が遠くに聞こえるなと思ってたらイヤホンのジャックが刺さってなかったーと、きた。こいつは本当に。
 
「バカだバカだと思ってたけど本当にバカだな」
「はい?バカっていう方がバカなんですぅ」
「じゃ、おうくんも今バカって言ったからバカな」
「はいはい、おこちゃまはすぐそんなこという」
「は?」
「俺は大人だからね、子供みたいなことはいいませんよ」
「言ったな?こいつ」

 完全に売り言葉に買い言葉。それでも旺史の言葉にむかついて少し上にある脇腹を狙いすまし手刀を入れる。

「あっ、暴力反対!」
「うるせ」

 旺史は言うのが早いか、がたがたとあわただしく机からおり、戦う意思を見せた。やってやるよ。そう息まいて俺も椅子から立ち上がり臨戦態勢に入る。
 
「勝てるとでも?」
「そっちこそ、やる気?」

 じりじりと距離を縮めながら相手の間合いを探る。
 距離を取ろうと旺史が後ずさったタイミングを逃さずに隙のできた腹に手を伸ばせばすんでのところで旺史がよけ今度は俺がふらついた。その隙を逃さず旺史も俺に手を伸ばしてきて慌てて体をひねる。あとはもみくちゃだった。
 はっははと荒い呼吸に合わせて笑いがこぼれ、やめろよ、ふざけんなとぐちゃぐちゃになりながら笑い合う。

「しんどっ」
「あー、笑いすぎて腹痛い」
「も~だめ、限界っ」

 もうやめよなんて声かけも、やめなよなんて他人の無粋な声かけもなく結局は笑いつかれてなだれ込むように俺の机に腰掛ける。
 笑いすぎて腹が引きつってる。お腹を押さえながら旺史を見やれば髪をかき上げてあーなんて意味のない言葉を発していた。そんな姿に不覚にも見惚れてしまい慌てて首を振る。おうくんのせいだからな、なんて理不尽ににらみつけてやれば、さっきの延長線だと思ったのだろういやいやしっきーのせいだからと旺史もにらんできて、そしてまた二人の笑い声が重なった。
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