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2章 森に引きこもってもいいかしら?

4.話し合い

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ギルドに到着してみると、そこにはすでにエルムやサパンの姿もありました。
シェヌが駆けて二人のそばに行き、何かを話しています。
きっと先ほどの事でしょう。
私はイリスと共にゆっくりと歩いていきました。

私、何もしてないわよ?
二人が胡乱気な視線をこちらに向けてくるので、しっかり視線を合わせてやります。
ふっ、サパンが横を向きました。勝ったわ……

違うのよ?いいわね?

エルムも横を……

「ばあさん。やめれっ」

だって、私は何もしていないのに。
問題はあの家に入る事の出来なかった代官が悪いと思わない?
あれはあの家にいる者に悪意を持つ者を弾くものだもの。
という事は、あの代官って私に悪意を持ってたって事じゃない。




「コーユ様、こちらに……」
職員の方が別室に案内をしてくれました。
しばらくみんなと話していると、コンコンコンとノックが聞こえます。

「コーユ様、少しお話が。いいですか?」
そう聞いてきたのはギルマスのハーナさんでした。

「ええ。私の用事は買取と薬草の依頼の件ですもの」

「その薬草の件なんですが……」

言いにくそうにハーナさんが話し始めると、後ろから声が聞こえた。

「どれだけ薬草を違法に搾取しているんだ」

違法に搾取なんてできるの? わけがわからずエルムの方を見ます。

「先程から何の証拠が有って彼女を犯罪者扱いするのですかっ?」

ハーナさんが後ろの男性に向かって言いました。
あら、さっきのぶしつけな人。
そっと、エルムやシェヌが私の後ろに立ちます。
意味が分からないわね。

「今、彼女以外に薬草を持ち込めるものがいないと聞いている。あれが無理矢理搾取でもしない限りそんな事にはならないのではないか」

うん?今の時期に蓬って……枯れているわよね……冬だもの。

「あの、そちらの方はエルブが今の時期、枯れているのを知らないのかしら?」

「はっ?」

私ははっきりという。

「今の時期は葉が枯れていて、収穫は出来ないわよ。私の畑は別だけど」

「枯れているだと?」

「代官さん? 知りもしないのに私を犯罪者扱いしているの?」

はぁ……誰?溜息をついたのは。私の方が溜息をつきたいわ。

ハーナさんが私をソファに座るように合図をしてきた。ええ、座るけれど……
そっと、エルムやシェヌが立ち位置を変えたのが分かりました。
あら、サパンはそこなの?部屋の入口付近に居場所を変えたのね。

「ローゼン、あなたも座りなさい」

ハーナさんは私の真向かいを指します。
えー……話し合いましょうか。ここはハーナさんの顔を立てて。

「ローゼン、あなたはまずコーユ様に謝意を示しなさい。間違っていることは分かったのでしょう?」

ハーナさんはその低い声で代官さんに話しかけました。私への謝意ですって。という事はハーナさんには問題が分かっていたという事では?

「コーユ様、あなたを揉め事には巻き込みたくなかったのですが、ギルドの職員が薬草の事を漏らしてしまったようで。申し訳ありません。職員にはしっかり懲罰がすでに与えられております。また以後このような事のないように引き締めて参ります。これを賠償金としてお収め下さい」

あら、ギルドの方が……
そこまでまだ損害は受けていないのだから別に賠償金なんて要らないのだけれど。

「ハーナさん、これは受け取れないわ。実質まだ害は受けていないのですもの。そちらの方を除いては」

ちらりと視線を代官の方へ向けます。ハーナさんにはもう対処をしていただいて居るようなので。さてこちらの役所の方はどうなのかしら?


「それが本当なら済まない事をしたと思うが。枯れているというのに何故あなたは持ち込めているのだ」

「まだ、そんな事を言うのか! 冬に枯れるというのは常識だろうがっ!」

「だが……」

平行線ですわね。仕方ないわ。

「このままでは収まらないのね。ハーナさん、契約の魔術をお願いしてもいいかしら? 代金はその賠償金から支払いますわ」

「コーユ様、申し訳あ……」

「いいわよ。話せないように契約をしてもらいますからね」

面倒になってきちゃったわ。早いとここの面倒な男から解放されたいわ。

「では少々お待ちください。支度をしてまいります」

「ええ、手早くね」

すると、彼はさっさと部屋から出て行きました。
部屋に残されたのは私たちと代官。

部屋の中は無音になりましたわ。はぁ、面倒な事。
今のうちに聞いておきましょうかね。

「代官さん? 本当に知らなかったの? 薬草が枯れている事」

「本当に枯れてしまうのか?」

まだ疑っているのね。前にギルドから貰った採集依頼のある植物の本をバッグの中から出しました。
これには詳細な絵図と生態が書かれています。

「これはギルドで配られる採集依頼用植物編の本です。ほらこのページを見てください。ね、ちゃんと書いてあるでしょう?」

代官のローゼンは本をひったくるように私から取り上げ、そのページを凝視しています。

「本当なのか……何故彼はあなたが独り占めしていると……」

ブツブツ呟いているけれど、その本は返してね。まだ使うのだから。




それにしても、ハーナさん、遅いわね。


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