輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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序章

序章①

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 はぁ……はぁ……という自分の呼吸の音がずっと聞こえていた。
 息も苦しくて、高熱で頭は朦朧としていて、うっすらとお祖母様の『蓮花リェンファ、負けてはいけない』という声を聞いたような気がして、その手が触れた時、私は身体が急に軽くなって楽になったのを感じたのだった。

 夢を見ていた。
 ふわりと軽くなった蓮花は鳥になっていた。自分でその姿を見ることはできなかったが、鳥だと言うことは分かった。生えている羽を大きく羽ばたかせると、ふわりと空に舞い上がることができる。

 さっきまでの苦しさはまるで嘘のようだった。
 鳥となった蓮花は風に乗ってくるりと村を回ると、そのまま外を見る。
 見たこともないような山や川がずっと先まで連なっていた。わくわくとその胸が高鳴る。
 ──これならば、どこにでも羽ばたいて行けるのかも……! 出たことのない村の外へでも!

 蓮花の村は田舎にあるのだけれど、ある程度成長すると、村に残る人と村を出てゆく人がいる。村を出ていった人はもう二度と村に帰ってくることはない。

 だから蓮花は村の外がどうなっているのか知らない。けれど外がどうなっているのかは、とても興味がある。
 一歩でも村を出たものは二度と足を踏み入れることは出来ないという厳しい掟があるから、蓮花は興味があっても村を出ることはできなかった。

 一度村を出てしまうと、村を見つけることは出来ないらしい。
 とても不思議なことだけれど。でも、帰ってきた人はいないから、本当のことなんだろう。

 けれどこの鳥の姿ならば、村の外を見ることができる!
 好奇心旺盛な蓮花は翼を大きく動かした。

 ふわりと風が吹いてくる。風はまるで蓮花に「行きなさい」というように村の外へと導いているように感じた。
 蓮花はその風に乗って、生まれて初めて村の外を目指して羽ばたいていくのだった。

 村の外は大きな森もあったし、大きな建物もあった。
 村と同じような集落もあり、そして焼けた野原も……。焼けた野原を過ぎると、たくさんの人が折り重なって倒れているのが見えた。どれも動かない。

 そっと近寄ってみたら、それは息をしていなくて、びっくりして蓮花はまた飛び立った。
 蓮花は生きていない人……死んだ人をあんなに近くで見たのは初めてで、胸がドキドキとした。

 焼けた野原も死んだ人も、お祖母様が言った通り、外の世界はとても怖い。
 ──もう帰ろう。

 そう思った時、ピイッ! と強い鳴き声がした。鳥の姿のまま、蓮花はその鳴き声の方を振り返る。

 五色の美しい羽、黄金の長い尾を持つその鳥は、もう一度蓮花を呼ぶようにピイッ! と強く鳴いて力強く羽ばたく。
 ──ほうだわ……。
 それは鳳凰の雄である鳳だった。

 蓮花は惹かれるようにして、その美しい鳥を追う。気づいたら幾重にも連なる屋根の上を飛んでいた。だいぶ街の方まで来てしまったようだ。鳳はその建物の一つの上にふわりと降りる。

 導かれるように蓮花もその建物の屋根に降り立った。
 鳳はちらりと蓮花を見て、建物の中にすうっと吸い込まれる。

 それと同時に蓮花がいるのは建物の屋根のはずなのに不思議なことだが、建物の中を見ることができた。
 部屋の中は端に寝台があり、その上には男性が一人寝ていて苦しそうな呼吸を繰り返していた。先ほどの鳳は男性の枕元で心配そうに首を傾げている。

 
 中に数人の人がいて、一人の高貴そうな人の枕元で先ほどの鳳が心配げに首を傾げている。
 鳥の蓮花はその鳳の隣に降り立ち、そっと見上げた。
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