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第六章 鳳凰の舞
第六章②
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「煌月様、野の花は野に置いてこそ美しいのです。摘んでは萎れてしまいます」
「なぜだ?」
「環境が違うからでございますよ」
蓮花を宮廷に連れてくるときにいちばん迷ったのはそこだ。
宮廷の環境が合わず、枯れてしまったらどうしようか。
この美しい人が萎れてしまう姿など考えたくない。
ましてやそれをしたのが自分だなどとは。
「蓮花、今日は良い知らせがあったんだけど聞きたくはないかな?」
「聞きたいです」
良い知らせ、と聞いて途端に目を輝かせる蓮花には過度な心配だったのだろうかと煌月は顔を綻ばせる。
好きな人の嬉しそうな顔はいつ見ても嬉しいものだ。
「避暑というものがある」
「ひしょ……」
「これから暑くなるだろう。体調を崩さぬように王族は涼しい場所で身体を休める。そうだな、暑さがいちばん厳しくなるほんの一週間くらいのことだが」
「あ、暑さを避けるから避暑なのですね」
「そう。北方に別荘がある。王族はそれぞれの別荘で過ごすんだ」
「素敵ですね」
王族がそのようにして夏を過ごしていることなど、蓮花は知らなかった。
「宮廷ほど堅苦しくはないし、俺の別荘は山の中だよ。清水が湧いて滝もある。綺麗な魚が泳いでいて、湯が湧いているところもある」
「湯が……温泉ですか!」
「ああ」
書物では見たことがあったけれど、実際には行ったことがない。
(行きたいわ!)
温泉には様々な効果があり、身体を癒やすものもあるという。それには蓮花は興味津々なのだった。
「俺の……? ってどういうことです?」
「陛下も、王太子も俺も、みんな別々の場所で過ごすんだ」
昔は王族が全て同じ別荘で避暑を過ごすこともあったらしいのだが、ある日賊に襲われ、王族が全滅してしまうところだった。
それ以降はそれぞれの別荘で過ごすことになったのだ。
「俺と鴻璘は先乗りして多めに過ごすが」
蓮花は首を傾げる。
「陛下の警護のためだ」
王族でありながら、第二王子である煌月は軍を率いている。警護を申し付かっても当然のことなのだった。
「その前に宮廷では大きな式典がある。夏を迎える祭だ。その時に正式に宮廷でも蓮花と俺の婚姻を発表する」
「夏の祭。穢れを清めて、無病息災を祈るものですね」
「そう。そして国のために亡くなった死者を悼み、感謝して平定を祈る」
大事な神事でもあるのだ。
「そのような場所で婚姻を……」
「そのような場所だから、だ」
夏の鎮魂の祭は秋の新嘗の祭、新年の祭と並んで大事な神事だ。
とても大事にされている、と蓮花は実感した。
「俺も剣舞を奉納するし、お前にも舞楽の練習をしてもらわなくてはいけないしな」
「舞?」
桃園房では神事をとても大切にする。蓮花は子供の頃から祖母にお尻を叩かれながら、散々練習させられたものだった。
「何を舞うのでしょう?」
知らない演目なら一から練習しなければいけないし、宮廷での師匠が厳しかったら、またお尻を叩かれてしまうかもしれない!
「なぜ涙目なんだ?」
「あのっ……私、お祖母様にその……」
お尻を叩かれながら教わっていた、と言うのは正直恥ずかしすぎる。
「教えていただいてたのもあります……」
「そうか! それは心強いな。俺とお前で『鳳凰』を舞う」
舞楽『鳳凰』は結納の儀式や豊穣を祈る際にも舞われるものだ。それならば会得している、と蓮花は肩をなで下ろした。
「今度はひどく安心したな。何か隠していないか?」
言い当てられて、胸がどきんとした蓮花は笑ってごまかそうとする。
「もう一つの良いことを知りたくないのか?」
にっと笑った煌月はひどく魅力的でそれは逆らいがたい笑顔なのだ。
「も、もう一つ?」
口角をキュッと上げていたずらっ子のような顔をしている煌月が素敵すぎて困る。
「何か言い淀んだろ? 素直に言えばもう一つ教えてやるが? これが俺はいちばん楽しみなのだがなぁ」
──し……白々しいっ! わざとだわ! 絶対わざとなのよっ!
楽しみだと蓮花の前に餌を与えて、素直に言えば……と聞き出そうとする。
ぐぐうっと言葉に詰まった蓮花はさすがに大きな声では言いたくなくて、煌月の耳にそっと口元を寄せた。
「なぜだ?」
「環境が違うからでございますよ」
蓮花を宮廷に連れてくるときにいちばん迷ったのはそこだ。
宮廷の環境が合わず、枯れてしまったらどうしようか。
この美しい人が萎れてしまう姿など考えたくない。
ましてやそれをしたのが自分だなどとは。
「蓮花、今日は良い知らせがあったんだけど聞きたくはないかな?」
「聞きたいです」
良い知らせ、と聞いて途端に目を輝かせる蓮花には過度な心配だったのだろうかと煌月は顔を綻ばせる。
好きな人の嬉しそうな顔はいつ見ても嬉しいものだ。
「避暑というものがある」
「ひしょ……」
「これから暑くなるだろう。体調を崩さぬように王族は涼しい場所で身体を休める。そうだな、暑さがいちばん厳しくなるほんの一週間くらいのことだが」
「あ、暑さを避けるから避暑なのですね」
「そう。北方に別荘がある。王族はそれぞれの別荘で過ごすんだ」
「素敵ですね」
王族がそのようにして夏を過ごしていることなど、蓮花は知らなかった。
「宮廷ほど堅苦しくはないし、俺の別荘は山の中だよ。清水が湧いて滝もある。綺麗な魚が泳いでいて、湯が湧いているところもある」
「湯が……温泉ですか!」
「ああ」
書物では見たことがあったけれど、実際には行ったことがない。
(行きたいわ!)
温泉には様々な効果があり、身体を癒やすものもあるという。それには蓮花は興味津々なのだった。
「俺の……? ってどういうことです?」
「陛下も、王太子も俺も、みんな別々の場所で過ごすんだ」
昔は王族が全て同じ別荘で避暑を過ごすこともあったらしいのだが、ある日賊に襲われ、王族が全滅してしまうところだった。
それ以降はそれぞれの別荘で過ごすことになったのだ。
「俺と鴻璘は先乗りして多めに過ごすが」
蓮花は首を傾げる。
「陛下の警護のためだ」
王族でありながら、第二王子である煌月は軍を率いている。警護を申し付かっても当然のことなのだった。
「その前に宮廷では大きな式典がある。夏を迎える祭だ。その時に正式に宮廷でも蓮花と俺の婚姻を発表する」
「夏の祭。穢れを清めて、無病息災を祈るものですね」
「そう。そして国のために亡くなった死者を悼み、感謝して平定を祈る」
大事な神事でもあるのだ。
「そのような場所で婚姻を……」
「そのような場所だから、だ」
夏の鎮魂の祭は秋の新嘗の祭、新年の祭と並んで大事な神事だ。
とても大事にされている、と蓮花は実感した。
「俺も剣舞を奉納するし、お前にも舞楽の練習をしてもらわなくてはいけないしな」
「舞?」
桃園房では神事をとても大切にする。蓮花は子供の頃から祖母にお尻を叩かれながら、散々練習させられたものだった。
「何を舞うのでしょう?」
知らない演目なら一から練習しなければいけないし、宮廷での師匠が厳しかったら、またお尻を叩かれてしまうかもしれない!
「なぜ涙目なんだ?」
「あのっ……私、お祖母様にその……」
お尻を叩かれながら教わっていた、と言うのは正直恥ずかしすぎる。
「教えていただいてたのもあります……」
「そうか! それは心強いな。俺とお前で『鳳凰』を舞う」
舞楽『鳳凰』は結納の儀式や豊穣を祈る際にも舞われるものだ。それならば会得している、と蓮花は肩をなで下ろした。
「今度はひどく安心したな。何か隠していないか?」
言い当てられて、胸がどきんとした蓮花は笑ってごまかそうとする。
「もう一つの良いことを知りたくないのか?」
にっと笑った煌月はひどく魅力的でそれは逆らいがたい笑顔なのだ。
「も、もう一つ?」
口角をキュッと上げていたずらっ子のような顔をしている煌月が素敵すぎて困る。
「何か言い淀んだろ? 素直に言えばもう一つ教えてやるが? これが俺はいちばん楽しみなのだがなぁ」
──し……白々しいっ! わざとだわ! 絶対わざとなのよっ!
楽しみだと蓮花の前に餌を与えて、素直に言えば……と聞き出そうとする。
ぐぐうっと言葉に詰まった蓮花はさすがに大きな声では言いたくなくて、煌月の耳にそっと口元を寄せた。
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