輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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第六章 鳳凰の舞

第六章④

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 煌月にはそういうところがあったが、それは蓮花も同じような気がした。蓮花を好ましく思ったり、護りたいと思うのはそこも同じだと感じているからなのかもしれない。
 けど、口で説明できるようなそれだけではない強い結びつきのようなものも、感じているのだ。

 説明できないことだけに口にすることはなかったが。
 その時、王太子である兄が部屋に入ってきた。
 全員が跪拝する。

「皆、楽に。なんだ? 微妙な雰囲気だな」
「王太子殿下、煌月様のご婚姻の件です」
「めでたいな。そうでもなかったら婚姻などしないぞ、この軍神は」
 そんなことを言いながら醒雪は用意されている席に座る。

「しかし、相手はどこの馬の骨とも知れない女性で、身分すらはっきりしない。王子の正式な妃としてはいかがなものかと」
「ふぅん……」
 長年、宮廷で過ごしてきた醒雪はその場で逆らうようなことはしない。

「つまり、我が国の軍神とも呼ばれる煌月の命を救っただけでは不満ということかな?」
「それならば、褒美でも与えれば十分でしょう。なにも婚姻までしてやる必要はない」
 醒雪自身は蓮花と接して彼女がどのような人となりであるか、分かっている。

 素直で賢く、高潔で優しい。
 少なくともここで騒ぎ立てている貴族などよりも、余程欲などない人物であることは分かっていた。
(恐らく王子の妃などという立場は、手放すことなど厭わないだろうよ)

 その時捨てられるのは残念ながら可愛い弟だ。軍神とも呼ばれる国の英雄である弟の煌月。つれなく振られる様を見たいというのは完全なる意地悪だ。
 それよりは今まで女人には執着しなかった煌月だ。彼のたった一つ執着している気持ちを叶えてやる方が、兄としての振る舞いだろう。それにあの二人が仲良くしている様子は見ていて心がとても和む。

「貴君らはどうしたら納得するのだろうか?」
 醒雪はにこりと笑って首を傾げた。
「やはりどこの馬の骨とも知れない女性は正妃にする訳には参りません。煌月様にはそれなりの女性をお娶りいただき、その女性は妾にすれば良いかと」

「国王陛下に褒美として賜ったものを、そのような形にするわけにはいかないだろう」
 あの時、言質を取っておいてよかった、と醒雪は心の中で胸を撫で下ろす。

 煌月の様子を見ると、今にも飛びかかりそうなくらいの怒りを孕んだ表情をしていた。掴みかからないだけでも褒めてやりたいくらいだ。それを隣で鴻璘がはらはらとした顔で見ている。
 朝議の場を乱せば処罰を受けることもあるからだ。

 醒雪は口を開いた。
「蓮花は今我が妻の桜綾が面倒を見ているが……」
 そうなのだ。蓮花の姿を宮廷で見ないのは、桜綾のいる芙蓉宮にいるためだった。
 それだって宮中での振る舞いを身につけさせるためだったはずだ。

「妃教育も不必要なくらいに知識と振る舞いは身についていると聞いている」
 桜綾は賢姫として高名だ。その桜綾がそう言うのであれば、それには逆らうことはできない。

 それに先程からの話振りでは王太子である醒雪はどうも蓮花の味方であるような雰囲気で、先程まで煌月の婚姻に反対していたものも、少しずつ勢いをなくしていった。
「しかし、それでは貴君らは納得しないだろうなぁ」
「兄上!」
 思わず声を荒げた煌月に向かって醒雪は手のひらを向けた。

 その仕草に煌月は口を閉じる。
「では、こうしようか? そもそも貴君らが納得していないのは蓮花の身分か? それは国王陛下がお許しをされたことで口出しすること能わず。また殿下妃としての教育が充分か否かは夏の大祭にて判断する。その際に二人の婚姻についてお披露目をする。以上を殿中省でんちゅうしょうの決定とし礼部れいぶもその決定に従うこと」

 殿中省は皇室に直接仕える官庁を指している。
 礼部は礼楽祭喪を行う省庁で、祭事の一切を引き受ける。礼部尚書はその官職でもある。礼部長官、といったところだ。
 
 特に夏の鎮魂の祭に際しては殿中省の決定に従って、礼部がその式典の一切を執り行うのだ。
 幸いなことに現在の礼部尚書は親王太子派だった。

「かしこまりましてございます」
 礼部尚書は醒雪に頭を下げた。


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