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第八章 鎮魂の祭
第八章③
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「蓮花様ー!」
侍女が蓮花を探して呼んでいる声がする。
ハッと二人は離れた。
──私今、なにを……!
顔を逸らした煌月の首筋が赤くなっているような気がした。
「そろそろ出番か」
「そうですね」
先ほどまで祭りに詰めかけているたくさんの人のことを考えると、緊張しておかしくなりそうだったのに、今はこんなに落ち着いていることが不思議だった。
それほどまでに煌月の力は大きい。
(この人がいれば大丈夫)
「また舞台で」
「はい」
うなずいた蓮花から名残惜しげに離れ、それでも一瞬だけ腕を引かれたので、体勢を崩して煌月にもたれかかってしまった身体を軽く受け止められる。
こめかみに唇の感触があったような気がした。
「名残惜しい」
まるで手に入ったおもちゃを手放したくない子供のようだ。
拗ねたような顔はきっと蓮花にしか見せない。
「お祭りが終わったら、避暑なのですよね?」
「そうだな」
「楽しみにしています」
「蓮花様ー!」
いよいよ蓮花を探す侍女の声は切羽詰まってきた。二人は顔を見合わせてくすくすと笑う。
「そろそろ行ってやらないと大変なことになりそうだな」
「そうしましょう。では煌月様、また舞台で」
煌月がその場を去ったあと、蓮花は侍女に向かって声を掛ける。
「私はここよ」
「蓮花様! もう! どこに行ってしまったかと。もうすぐ出番です。さぁ、お化粧とお衣装を直しましょう」
とても美しい主は芙蓉宮の侍女達にとっても自慢だ。蓮花は芙蓉宮の主ではないけれど、預かっている以上それに近い立場なのだし、噂の天女として宮中の話題にも上がるほどの女性だ。
侍女達が張り切るのも無理はなかった。
宮中のいちばん広い庭には祭事のための舞台が用意されていた。
舞はそこで披露される。
高い笛の音が響き、その澄んだ高い音は虚空にまでも吸い込まれそうだ。
その音を聞き、舞台の端にいた蓮花は大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
──こういう時こそ正しい呼吸をするの。
ゆっくりと吐いていくうちに気持ちが落ち着いてきた。身体から余計な力が抜けて、自然体に近づく。
舞台の向こう側にいる煌月と一瞬目が合う。軽くうなずいたのが見えたような気がした。
緩やかな笛の音に合わせて、二人が登壇する。奉典のための舞のはずだが、観客からはわあぁっと華やかな声が上がった。
面を伏せたまま蓮花は静かに配置につく。
観客からはまだ面が伏せられたままの蓮花の顔を見ることはできない。
序は鳳が飛翔している様子を表すため主に煌月が舞う。そのあまりの神々しさに最初こそ囃し立てるような声が聞こえたりもしたが、だんだんと静かになり、練習の頃のように煌月の衣擦れの音が聞こえるようになった。
たくさんの人がいるはずなのに、息をのんでその舞に見入っている。タン!という軽い太鼓の音の後目が覚めたかのように蓮花が顔を上げるとまたわあっと喝采が上がった。
けれど、その頃には舞の世界に入り込んでいて、蓮花には黒曜石のような煌月の瞳しか目に入っていなかった。
「蒼暉様」
隣で控えていた使者に『蒼暉様』と呼ばれた白蓮皇国の皇子はシャラッと音をさせた冕冠の奥の瞳を微笑ませる。
侍女が蓮花を探して呼んでいる声がする。
ハッと二人は離れた。
──私今、なにを……!
顔を逸らした煌月の首筋が赤くなっているような気がした。
「そろそろ出番か」
「そうですね」
先ほどまで祭りに詰めかけているたくさんの人のことを考えると、緊張しておかしくなりそうだったのに、今はこんなに落ち着いていることが不思議だった。
それほどまでに煌月の力は大きい。
(この人がいれば大丈夫)
「また舞台で」
「はい」
うなずいた蓮花から名残惜しげに離れ、それでも一瞬だけ腕を引かれたので、体勢を崩して煌月にもたれかかってしまった身体を軽く受け止められる。
こめかみに唇の感触があったような気がした。
「名残惜しい」
まるで手に入ったおもちゃを手放したくない子供のようだ。
拗ねたような顔はきっと蓮花にしか見せない。
「お祭りが終わったら、避暑なのですよね?」
「そうだな」
「楽しみにしています」
「蓮花様ー!」
いよいよ蓮花を探す侍女の声は切羽詰まってきた。二人は顔を見合わせてくすくすと笑う。
「そろそろ行ってやらないと大変なことになりそうだな」
「そうしましょう。では煌月様、また舞台で」
煌月がその場を去ったあと、蓮花は侍女に向かって声を掛ける。
「私はここよ」
「蓮花様! もう! どこに行ってしまったかと。もうすぐ出番です。さぁ、お化粧とお衣装を直しましょう」
とても美しい主は芙蓉宮の侍女達にとっても自慢だ。蓮花は芙蓉宮の主ではないけれど、預かっている以上それに近い立場なのだし、噂の天女として宮中の話題にも上がるほどの女性だ。
侍女達が張り切るのも無理はなかった。
宮中のいちばん広い庭には祭事のための舞台が用意されていた。
舞はそこで披露される。
高い笛の音が響き、その澄んだ高い音は虚空にまでも吸い込まれそうだ。
その音を聞き、舞台の端にいた蓮花は大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
──こういう時こそ正しい呼吸をするの。
ゆっくりと吐いていくうちに気持ちが落ち着いてきた。身体から余計な力が抜けて、自然体に近づく。
舞台の向こう側にいる煌月と一瞬目が合う。軽くうなずいたのが見えたような気がした。
緩やかな笛の音に合わせて、二人が登壇する。奉典のための舞のはずだが、観客からはわあぁっと華やかな声が上がった。
面を伏せたまま蓮花は静かに配置につく。
観客からはまだ面が伏せられたままの蓮花の顔を見ることはできない。
序は鳳が飛翔している様子を表すため主に煌月が舞う。そのあまりの神々しさに最初こそ囃し立てるような声が聞こえたりもしたが、だんだんと静かになり、練習の頃のように煌月の衣擦れの音が聞こえるようになった。
たくさんの人がいるはずなのに、息をのんでその舞に見入っている。タン!という軽い太鼓の音の後目が覚めたかのように蓮花が顔を上げるとまたわあっと喝采が上がった。
けれど、その頃には舞の世界に入り込んでいて、蓮花には黒曜石のような煌月の瞳しか目に入っていなかった。
「蒼暉様」
隣で控えていた使者に『蒼暉様』と呼ばれた白蓮皇国の皇子はシャラッと音をさせた冕冠の奥の瞳を微笑ませる。
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