輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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第九章 新しい国

第九章①

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「劉から報告があるそうだぞ」
 煌月が言うと、劉はうなずいて蓮花の方を向いた。

「先日の祭りはお疲れ様でございました。蓮花様の舞はまさに天女だったと白蓮皇国の皇子からもお言葉がございましたし、国民にも好評でお二人のご婚姻を待ち望む声が広がっていると聞いています」

「それは良かったわ」
「国民からはなんてか……」
 そこで劉は言葉を止める。
「か……?」

「か、可憐な……ひ、姫君なのか、と……」
 笑いを必死にこらえつつ劉が真面目な顔をしているのに、蓮花は本当はそんなこと思ってないくせに!と分かって、むうぅっと劉をにらむ。

 そんな様子を見て、煌月もくすくす笑っていた。なおさら蓮花は拗ねてしまう。
「思ってもいないんでしょ? 無理しなくていいのよ」
「いえ。初めてお目にかかった時は本当に天女かと思ったものです。なので皆の気持ちは本当によく分かる」

 その後も蟲毒を宮中に持ち込もうとしたり、それを咎めたら「えへへー」と笑うような姫君だ。
 見た目は可憐でありながら、その中身は何をしでかすか分からないお転婆、が劉の蓮花への印象である。それでも主の命を救い、国民には好意を持たれる人物が主の婚約相手というのは喜ばしいことだった。

 平和だからこそ、こんなことで笑っていられる。
 劉が二人を見ると、今度は避暑の打ち合わせをしながら楽しそうにくすくす笑っていた。微笑ましくて、温かくて美しくて、いつまでも見ていたいような光景だった。

 まさかそれが破られるような事態が起こるとは想像もしていなかったのだ。
 

「困ります……っ」
 芙蓉宮の入口で女官と武官が押し問答になっているのが見えた。
「お取次ぎをお願いいたします! 至急なんです!」
 切羽詰まった声が聞こえる。

 蓮花と煌月、劉の三人は顔を見合わせた。サッと劉が立ち上がる。煌月と蓮花もそれに続いた。
「お前、ここをどこだと心得る!? 後宮だぞ!」
「ああっ! 劉将軍! よいところに!」
 跪拝していたのは劉の部下でもある武官だった。

「どうしたのだ?」
「南部にて争いが発生しております」
 ──南部……!
 劉と煌月が顔を見合わせた。

「それが南方直轄領付近なのです」
「く……っそ! 野生の虎めが!」
 いきり立った劉の肩に手を置いて、煌月が止める。

「待て! 劉将軍、直轄領ならば俺が行く」
「お供いたします」
 立ち上がった煌月に劉が拱手して、二人は蓮花を振り返った。
「ここまでは戦禍は及ばない。蓮花は後宮に残るように」

 見たことのない二人の昂りに蓮花は圧倒されるばかりだ。このまま戦に向かうというのだろうか。
「煌月さま……」
 縋るような声が漏れてしまった。煌月ならばきっと大丈夫、そう思うのにどこか不安で。
「ああ」

 背を向けかけた煌月が心配そうに見ていた蓮花の元に駆け戻ってくる。
「心配するな。いつものことなのだ。すぐに平定して戻ってくる」
 安心させるように煌月は蓮花の両頬を手でそっと包み、こつんと額を合わせた。
「絶対ですよ?」
「絶対だ」
 揺るぎない煌月の表情を見て、蓮花はやっと安心する。

「どうぞご無事で」
 こくりと頷いた煌月は今度こそ蓮花に背を向けて足早に去っていった。
 蓮花はなんだか嫌な予感を抱えながら、煌月の後ろ姿を見送った。


 南方直轄領では国境での諍いが起きているというのに、蓮花は後宮の中で平和な日々を過ごしている。
 そのくせ南方の諍いの状況が全く分からず、まんじりともしない日々でもあった。

 四阿の方からざわざわとした気配を感じ、蓮花はもしかして煌月が戻ってきたのかもしれないと向かうと、そこには醒雪が姿を見せていた。
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