輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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第十二章 書簡

第十二章①

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「赫州国に挙兵して向かうのは許されないだろうか」
 争いが終結したばかりだ。

 ため息をつきながら煌月は劉の方を向く。
「最近は落ち着いておりましたし、祭の時も途中で席を立ったとはいえ、赫州国より使者は来ていましたから」

 軍神と呼ばれる煌月だが、戦をしたいわけではない。今までだって国や民を守るための戦いをしてきただけだ。
 戦が起これば田畑は荒れ、働き盛りの男を徴兵しなくてはいけない。いつまでもそんなことをしていたら、国は一向に富むことがない。

 最近は大きな戦も起きてはおらず、少しずつみんな平和を享受し始めていた。こんな時に国を荒らすことはできれば避けたい。
 今は平和への道を進んでいると、煌月自身も実感しているのだ。

「消えた兵はもう一人いたと言っていたな」
「はい」
 劉はうなずく。

「夜衡という者で、弓の名手で雇われたということでした。ただ、口が利けず……」
「口が利けない?」
「だから、おとなしいというのが当てはまるのかは分かりませんが、おとなしく割と穏やかな性格の者だったようです」
 口が利けない人物が兵として雇用されていたのは意外だ。

 その煌月の表情を読んで、劉が口を添えた。
「とにかく弓が天才的だったそうなのです。耳が聞こえれば、指示は聞けますから」
 なるほどと煌月は頷く。

「配下か?」
「直属ではありません。いくつかあるうちの部隊の一つに配属されていました。どこか辺境の県令の推挙で兵に取り立てられたと聞いています」
「どちらにしても同時に姿を消したというのはどういうことなのか。その者の行方は追えないのか?」
「追ってはいますが……」
 珍しく劉の口調がすっきりしない。

「見つからない、か。蓮花と一緒にかどわかされた可能性もあるな」
「現場では我が軍で支給されている矢が発見されています。蓮花様が拐かされた時に一緒にいて、抵抗したのではないかと」
 いずれにせよ馬の足跡からすると、南に向かったことは間違いないようだ。

 煌月は少し考える。
「南方直轄領の警戒を強める。赫州国からの使いがあれば、即座に報告するように。あとは随時対応しよう。待てなくなれば……」
 煌月の目がギラリと光った。

「挙兵する。俺の全てを賭けて蓮花を取り戻す」
「御意にございます」
 煌月は今すぐにでも駆けつけたい、逸る気持ちと国とのしがらみ、また戦を仕掛ける先の国に蓮花がいるという焦れるような気持ちが胸の中で交錯する。
 慎重な判断を試されていた。

 情報を集めていく中で、蓮花らしき女性を乗せた馬が南の国境を越えたことは掴んだ。
 蓮花をさらったのは赫州国。間違いはないのに、攻め入ることもできない。

 蓮花が攫われたことは、当然芙蓉宮の中でも内密にしていたし、どこにも漏らすわけにはいかなかった。
 なのにこの日、突然朝議が終わりかけた時に丞相じょうそうがうやうやしく口を開いた。
「煌月さま、ひとつ確認をさせていただいてよろしいでしょうか?」
「なんだ?」

「天女が拐かされたというのは本当のことなのでしょうか」
 突然の発言に煌月が反射的に顔を上げる。
「一体誰がそんなことを……!」
 漏れないはずの出来事だ。

 その様子を見て、勝ち誇ったようにはん司徒しとが続けた。
「天女が去ったということであれば、婚約はなかったもの、ということですかな」
「去ったわけではない」

 勝手なことを言う官吏かんりたちに煌月はイライラとした気持ちを隠せない。我慢に我慢を重ねており、もう限界が近い。
(本当に宮廷というところは、俺には向いてない!)
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