輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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第十六章 二十年前の真実

第十六章④

 夜のとばりが降りる頃、無数の灯篭に火がつけられ、わあっと声が上がった。
「こっちよ!」

 花瑶は黒峻の手を引いて村人の誰もいない丘へ連れていく。二人で丘に座ってしばらくすると、無数の灯篭が淡く光を纏って揺れながら夜空へと舞い上がっていくのが見えた。
 その橙色の光は風に揺れながら星々と溶け合うようにして空に花を咲かせていく

 黒峻が花瑶の手をそっと握った。
 花瑶にはそのぬくもりが灯篭の光のように胸を温かく照らす。
「花瑶に会えてよかった」
「私も……」

 二人の視線が絡み合う。自然に顔が近づいて、優しく唇が重なった。黒峻が花瑶を強く抱き締める。花瑶もその背中に手を回した。
「花瑶……愛している」
「私も、好き」
 空に舞う灯篭は一瞬明るく二人を照らし、夜空に咲いた花は幸せな二人を優しく見守っていた。


 二人きりで目覚めた朝、花瑶ははだけた胸元を慌てて隠して服を着た。
「花瑶、おはよう」
「あ、おはよ……」

 なんというか照れくさくて、黒峻の顔が見られない。ふっと笑った黒峻は花瑶の頬に指の背で優しく触れた。
「とても可愛かった。大丈夫? つらくはないか?」
「平気! 全然、大丈夫」

 花瑶に笑顔を向けて、黒峻は自分でも服を着る。
「名残惜しいが、いつまでもこうしてはいられないだろうな」
「お母さまに怒られちゃうわ。朝のお勤めはどうしたのかって言われちゃう」
 飼っている動物への餌やりや家の水汲みなど、朝はやらなければいけないことが山積みだ。

 それに……黒峻が来た頃は近づいてはいけないと言っていた。今でこそ、花瑶の好奇心にそれほどうるさくは言わないけれど、どこか二人が仲良くすることには賛成していない気配を感じる。
 好きな人と結ばれてとても幸せな気持ちだったけれど、たった一人の家族によく思われないのは寂しくも感じた。

 花瑶が服を着終わると、黒峻は自分の首にかけていた首飾りを外す。
「花瑶、これを……」
 躊躇ためらいもなく、黒峻は花瑶の首へ手にしていた首飾りを掛けた。

 首にずっしりと重く、飾り部分には羽ばたく鳳凰が彫られていて、羽には五色の宝石が細かく飾られており、尾は金でできていた。見事な首飾りだ。
 美しさもさることながら、一目見て高価なものであることが分かった。

「ダメよ! これは黒峻の大事なものなのではないの?」
 困ったように眉を寄せて、黒峻は首を振った。
「俺が渡せるものは今、これくらいしかないんだ。受け取ってくれ」
「だって……」

「今後、俺に万が一のことがあっても、これがあればしばらくは暮らしていける。もちろん花瑶が桃園房にいれば安心だが、何かがあったときのために持っていてほしい。それが俺を安心させる。頼む」
 頼むとまで言われてしまっては、花瑶に断ることはできなかった。

「では、一応預かるけれど」
「うん。花瑶が持っていてくれ」
 
 それから二カ月ほどが経過していた。黒峻はすっかり傷もよくなり、村にも馴染んでいた頃だ。
 花瑶が森へ果実を取りに行くと言っていたので、それを追って黒峻も森の中へ入った。

 そのとき馬の鳴き声がしたのだ。馬の鳴き声に聞き覚えがあるように思い、黒峻が声の方へ向かうと青く澄んだ湖の横で黒い馬が水を飲んでいた。
黒曜こくよう……」
 口をついて自然と出た名前だ。名前を呼ばれたことに気づいたのか、馬は黒峻に近寄ってきた。

「お前、生きていたんだな」
 嬉しそうに鼻をすり寄せてくる馬に腕を伸ばして撫でる。
 その瞬間、頭の中にいろんな光景が幻影のように流れてきた。

 かすむ月影、地を揺らす蹄の音や矢が唸る音。飛び交う怒号は味方のものか敵のものかも分からなくなる戦場の幻影だ。
「黒の皇子! ここが墓場だ!」
 声と同時に脇腹に向かって鋭く槍が突き出される。咄嗟に避けたものの刃が脇腹の鎧の隙間をかすめ、馬から落ちた。
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