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5.初めてのデート
初めてのデート②
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「あ……」
頬を撫でた手は顎に添えられて、ゆっくりと顔を仰のかせられた。端正な五十里の顔が近づいてくる。思わず莉緒は目を閉じていた。
いつものグリーンとムスクの香りがした。
柔らかく唇が重なる感触があり、肩から背中へと触れた手に抱き寄せられる。
ハグのような感じで軽く抱きしめられたことは何度かあったけれど、キスは初めてで、その唇が重なる感触に鼓動が大きくなるのを感じた。
そっと唇が離れたあと「明日の夜、また迎えに来る」と耳元でささやかれて、こくりと莉緒は頷いたのだった。
「うーん……」
五十里に送ってもらった翌日のことだ。
今日は夜、五十里と一緒に食事へ行く約束になっていた。
莉緒はベッドの上に持っている服をたくさん広げて悩んでいたのだ。
五十里は仕事帰りなのだろうから、スーツだろう。
そうするとあまりカジュアルな服ではちぐはぐでおかしくなってしまう。
かといって気合いが入りすぎていても恥ずかしいような気もする。
「これかな」
悩んだ末に、シフォン素材の重なっている濃紺のワンピースを選択する。
シンプルなデザインなのだが、シフォン素材で華やかさもある。デートには最適なのではないだろうか。
十八時過ぎに五十里からメッセージがきて『一時間後程にマンションの下で』と連絡があった。
いつもはきっちりとまとめているロングヘアだが、今日はコテで巻いてふんわりとさせている。
メイクも明るめのカラーとラメでいつもよりも華やかな印象だ。
(五十里さん、似合うって思ってくれるかな?)
胸を高鳴らせながら莉緒は準備を済ませた。
一時間後にマンションの前まで降りていくと、程なくして黒塗りの車が停まる。
後部座席から出てきたのは五十里だった。昨日お迎えに来てくれた時は自分で運転してきていたが、今日は運転手付きの車らしい。
「お疲れ様です」
近寄ってきてくれた五十里に笑顔を向けると、五十里も笑顔を返してくれる。
「お疲れ様」
自然な動作で後部座席のドアを開けてくれた。手のひらで座席を示されて「失礼します」と莉緒は後部座席に座る。いつも五十里は紳士だ。
隣に五十里が乗ってくる。
「ではソシアルグランドホテルまで」
五十里が運転席に向かって言うと「承知しました」と返ってくる。
それから運転席と後部座席の間は自動のパーテーションで仕切られた。プライベートを確保できるようになっているらしい。
「今日はご自分の車ではないんですね?」
「そう。専属の運転手ではあるけれどもね。食事はソシアルグランドだが、それでよかったかな?」
よかったもなにも、ソシアルグランドホテルは五つ星のホテルだ。
「そんなの……いいに決まっています」
「いや、莉緒は客室乗務員だし、こうやって誘われることも多いのかと思って」
「お声はかけていただきますけど、一緒に行くことはないですよ」
確かに客室乗務員は機内で声をかけられることもなくはない。一緒に現地で食事に行きませんかとか、名刺をもらったりすることもある。
だからといって気軽にお客さまと出かけるなんて思われると困る。
「そうなのか?」
五十里は意外そうな顔をしていた。莉緒はやり返すことにする。
「五十里さんだって街中でお声をかけられることが多いんじゃありませんか? 誰彼構わず一緒にお食事へ行かれるんですか?」
一瞬目を見開いた五十里はそれを聞いて笑い出した。
「それはそうだな。君の言う通りだ。俺だって気軽には行かない。ではお客様とはこうして出かけることはないんだな」
「ないです。ステイ先でも会社の同僚か……同僚が都合悪い時は一人でふらっとお店に入ることもありますよ」
「一人で? それはすごいな。女性だと一人で店に入ることすらできない人もいると聞くが」
「私は割と平気です。CAは独り歩きも平気な人、結構多いですよ」
実際にステイ先などでは同僚と一緒でなくてもさっさと予定を決めて現地の名所を回ってしまう人なんかもいる。
頬を撫でた手は顎に添えられて、ゆっくりと顔を仰のかせられた。端正な五十里の顔が近づいてくる。思わず莉緒は目を閉じていた。
いつものグリーンとムスクの香りがした。
柔らかく唇が重なる感触があり、肩から背中へと触れた手に抱き寄せられる。
ハグのような感じで軽く抱きしめられたことは何度かあったけれど、キスは初めてで、その唇が重なる感触に鼓動が大きくなるのを感じた。
そっと唇が離れたあと「明日の夜、また迎えに来る」と耳元でささやかれて、こくりと莉緒は頷いたのだった。
「うーん……」
五十里に送ってもらった翌日のことだ。
今日は夜、五十里と一緒に食事へ行く約束になっていた。
莉緒はベッドの上に持っている服をたくさん広げて悩んでいたのだ。
五十里は仕事帰りなのだろうから、スーツだろう。
そうするとあまりカジュアルな服ではちぐはぐでおかしくなってしまう。
かといって気合いが入りすぎていても恥ずかしいような気もする。
「これかな」
悩んだ末に、シフォン素材の重なっている濃紺のワンピースを選択する。
シンプルなデザインなのだが、シフォン素材で華やかさもある。デートには最適なのではないだろうか。
十八時過ぎに五十里からメッセージがきて『一時間後程にマンションの下で』と連絡があった。
いつもはきっちりとまとめているロングヘアだが、今日はコテで巻いてふんわりとさせている。
メイクも明るめのカラーとラメでいつもよりも華やかな印象だ。
(五十里さん、似合うって思ってくれるかな?)
胸を高鳴らせながら莉緒は準備を済ませた。
一時間後にマンションの前まで降りていくと、程なくして黒塗りの車が停まる。
後部座席から出てきたのは五十里だった。昨日お迎えに来てくれた時は自分で運転してきていたが、今日は運転手付きの車らしい。
「お疲れ様です」
近寄ってきてくれた五十里に笑顔を向けると、五十里も笑顔を返してくれる。
「お疲れ様」
自然な動作で後部座席のドアを開けてくれた。手のひらで座席を示されて「失礼します」と莉緒は後部座席に座る。いつも五十里は紳士だ。
隣に五十里が乗ってくる。
「ではソシアルグランドホテルまで」
五十里が運転席に向かって言うと「承知しました」と返ってくる。
それから運転席と後部座席の間は自動のパーテーションで仕切られた。プライベートを確保できるようになっているらしい。
「今日はご自分の車ではないんですね?」
「そう。専属の運転手ではあるけれどもね。食事はソシアルグランドだが、それでよかったかな?」
よかったもなにも、ソシアルグランドホテルは五つ星のホテルだ。
「そんなの……いいに決まっています」
「いや、莉緒は客室乗務員だし、こうやって誘われることも多いのかと思って」
「お声はかけていただきますけど、一緒に行くことはないですよ」
確かに客室乗務員は機内で声をかけられることもなくはない。一緒に現地で食事に行きませんかとか、名刺をもらったりすることもある。
だからといって気軽にお客さまと出かけるなんて思われると困る。
「そうなのか?」
五十里は意外そうな顔をしていた。莉緒はやり返すことにする。
「五十里さんだって街中でお声をかけられることが多いんじゃありませんか? 誰彼構わず一緒にお食事へ行かれるんですか?」
一瞬目を見開いた五十里はそれを聞いて笑い出した。
「それはそうだな。君の言う通りだ。俺だって気軽には行かない。ではお客様とはこうして出かけることはないんだな」
「ないです。ステイ先でも会社の同僚か……同僚が都合悪い時は一人でふらっとお店に入ることもありますよ」
「一人で? それはすごいな。女性だと一人で店に入ることすらできない人もいると聞くが」
「私は割と平気です。CAは独り歩きも平気な人、結構多いですよ」
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