フォンダンショコラな恋人

如月 そら

文字の大きさ
13 / 74
3.帰ります

帰ります②

しおりを挟む

書類からも、よく分かった宝条の性格。
真面目で正義感が強いのだ。

「酔いそう。お水、もらってくる」
「一緒にいきましょうか?」
「ん、平気……」
ふわりと宝条が立った気配がしたので、倉橋も席を立った。

大将に水を依頼した宝条は奥の御手洗に向かったようだったので、倉橋はその場に立って待つことにした。

待ってどうするんだろう……。
そんなことも一瞬考える。

何だか分からないけれど、とにかくショックだったり、少し腹立たしい気持ちだったり言い訳したいような……いや、むしろ宝条の見解を聞きたいと思ったのだ。

大将からお水をもらった宝条は、本当にかなり深酔いしているように見えた。

あまり考えたくはないが、それが自分のせいだとしたら、
……せいだとしたら、なんだろう。

そんなことをとりとめなく考えていたら、大将から水をもらった宝条が隣でこくこくと水を飲んでいるのが目の端に映った。

と言うか気付かないものだろうか?

「ありがとう」
そう言ってコップをカウンターに置いた宝条が席に戻ろうとするのに、つい前に立ってしまった。

ん?となった宝条が避ける。
さらに、その前に立つ。

さすがに違和感を感じたのか、宝条が顔を上げた。

「あ、すみませ……」
顔を上げた宝条が、目を大きく開く。

「宝条さん、でした? 僕、そんなに感じ悪いですか?」

あ、これは言っておかなくては。
「ちなみに、吹いたくらいじゃ折れませんから」

どこから聞いてたの?何を聞いてたの?と顔に書いてある。
とても、正直な人だ。

倉橋はそれを読み取ったように、話を続けた。
「別件で別の席にいたんですけど、同席の方がここに知り合いがいると言うので、端の方に紛れさせて頂いていたんですが」

はわはわしている宝条が言葉をなくしたような、何かを言わなければという顔をしている。

それは倉橋にとっては、いつもきりりとしていて隙のないような人の妙に隙のある慌てたようなその姿は、不思議とアンバランスな気がして可愛らしさを感じたのだ。

倉橋は宝条の言葉を待つ。
「ご……ごめんなさい」
やっと発した言葉はそれだった。

すみませんとか、ごめんなさいとか、喧嘩腰でなければお詫びの言葉しか聞けないのだろうか。
少しがっかりする。

「何に対して? 事実ではないことですか? 事実確認をしないで中傷しようとしたこと?」
もっと他のことを、宝条の口から聞けないものなのだろうか。

そう思った倉橋の語調は知らずきつくなっていたかもしれない。

「中傷とか……そういうことでは……っ」
確かに中傷、という表現は少し大袈裟だ。正しくない。

「そうですね。その言い方も適正ではなかった。別に僕の名誉を傷つけられたとかではないので。単なる悪口ですかね」

宝条が下唇を噛み締めたのを見て、しまった、言い過ぎたかもしれないと思ったその瞬間だ。

「あなたのそういう所が嫌いなのよ」
「え……」
自分が鳩なら、豆鉄砲を食らうとこんな顔になるのではないか。

口にした宝条もしまったという顔をしている。

自分は感じが良いとは思わないが、それでも嫌いだと正面切って言われたことはない。
咄嗟に倉橋は宝条の腕を掴んで壁に押し付けた。

「僕はね……あなたのことを嫌いではないですよ」

なにを考えているのか、それとも考えていないのか静かな眼で見返してくる宝条が無防備で、こんな無防備な宝条の姿は見たことがなかった。

「全く、そういうところ……ね。詳細に聞きたいですね、宝条さん」
一瞬で立ち直った倉橋に比べて、酔っているのか宝条はキョトンとしたままだ。

倉橋は宝条の手を掴んで「荷物はどこです?」と尋ねる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同級生がCEO―クールな彼は夢見るように愛に溺れたい(らしい)【番外編非公開中】

光月海愛(こうつきみあ)
恋愛
「二度となつみ以外の女を抱けないと思ったら虚しくて」  なつみは、二年前婚約破棄してから派遣社員として働く三十歳。  女として自信を失ったまま、新しい派遣先の職場見学に。  そこで同じ中学だった神城と再会。  CEOである神城は、地味な自分とは正反対。秀才&冷淡な印象であまり昔から話をしたこともなかった。  それなのに、就くはずだった事務ではなく、神城の秘書に抜擢されてしまう。 ✜✜目標ポイントに達成しましたら、ショートストーリーを追加致します。ぜひお気に入り登録&しおりをお願いします✜✜  

サディスティックなプリテンダー

櫻井音衣
恋愛
容姿端麗、頭脳明晰。 6か国語を巧みに操る帰国子女で 所作の美しさから育ちの良さが窺える、 若くして出世した超エリート。 仕事に関しては細かく厳しい、デキる上司。 それなのに 社内でその人はこう呼ばれている。 『この上なく残念な上司』と。

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

ズボラ上司の甘い罠

松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

この溺愛は契約外です~恋焦がれた外科医から愛し愛されるまで~

水羽 凛
恋愛
不幸な境遇を生きる健気な女性花名は母親の治療費と引き換えに外科医である純正の身の回りの世話をすることになる。恋心を隠せない花名に純正は……。

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

処理中です...