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3.帰ります
帰ります①
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その時だ。
「結衣ちゃん、うちの顧問弁護士知ってる?」
宝条の声が聞こえた。
──それって僕のことだろうか。
「はい。お若いですけど、ハキハキされてて、感じの良い方ですよね?」
ハキハキ……?
倉橋への他人からの評価と言えば、淡々としている、冷静、下手したらコミュ障一歩手前か?であり、まかり間違っても、ハキハキではない。
別人だな、それは。
「皆、感じ良いって言うんだけど、私にだけ感じ悪いのかしら」
あ、そうですか?
感じ悪くて悪かったな。
倉橋が斜め後ろにいるとも知らず、二人は会話を続けている。
「ん?感じ悪かったです?体育会っぽい人ですよね。がははって感じの」
がはは……。
間違いない。別人だ。
おそらくそれは、渡真利のことだろう。
「体育会?全然。むっちゃ、線の細い、どっちかって言うと理数系な感じ」
案の定、宝条は即座に否定している。
理数系。どちらかというと、それが普段の倉橋に対する表現だろう。
「細っそい。吹いたら折れそう」
倉橋は危うく、飲みかけたビールを噴き出しそうになった。
一応、時間がある時はジムとか行ったりしているんだがな。
食べても太らないのは体質だ。
吹いたら折れそうはないだろう。
それはすでに悪口ではないのか。
「別人、よね?」
「……ですね。身長どれくらいです?」
話し相手の彼女も人違いにやっと気づいたようだ。
「175センチ前後かなぁ。佐野さんとは対極みたいな人だよ?」
「宝条さん、それ絶対別人ですよ」
「そういう事かあ……」
2人は納得しているようだが、倉橋は何だか納得いかない心地だ。
けれど、こんな風に自分のことを第三者的に聞くことはないので、そのままそこで話を聞くことにした倉橋である。
「確か、私が知っている顧問弁護士さんは、以前からの先生のご子息で、若先生だと聞いています。今はその若先生が、事務所を継いでらっしゃるはずですから、事務所の他の先生が来ていらっしゃるのかも知れませんね」
「なんか、すっごく冷たくあしらわれたわ。話にならない、に近い感じよ」
あしらったつもりはないのだが、そのように取られていたのかと思うと、倉橋は本当に自分は上手くないと苦い気持ちになる。
「確かうちの顧問弁護士は、事務所はそれほど大きくはないんですが、腕利きを揃えていると聞いています。ふうん、そうなんですね」
「すーっごおく冷たくって、表情も全然変わんないの無表情よ? んで、資料出せ資料出せって、もー、あんな案件終わりにしたいのよ、こっちだって。でも……疑義があるのに折れるのは絶対イヤ!」
なにせ本人が背後にいるとも思っていないので、どんどん会話は進んでいく。
すっごぉく冷たくって、と言う宝条は少し酔っているのか、いつもよりも舌っ足らずだし、いつものシャキシャキした雰囲気とは全く違って倉橋は自分を悪く言われているはずなのに腹は立たなかった。
倉橋は目の前にあったビールを軽くあおる。
やけに苦いような気がした。
腹は立たない。
……立たないけど、そんな風に言わなくてもいいのにと残念に思っただけだ。
いつもそうなのだ。
自分は悪い感情を持っていないのに、相手には嫌われる。
倉橋も軽くため息をついたが二人の会話も途切れた。
「何よ……」
「いや、懐かしくて。自分もよくそーやって、叫んでたなあって思い出したんです。宝条さん、私査定って、保険会社の最後の切り札だと思っています。何かあるならここでしか最終的に食い止めることはできないんです」
「うん」
きっと言われたことに納得したのだろう。
大人しく同意する宝条の声が聞こえた。
「結衣ちゃん、うちの顧問弁護士知ってる?」
宝条の声が聞こえた。
──それって僕のことだろうか。
「はい。お若いですけど、ハキハキされてて、感じの良い方ですよね?」
ハキハキ……?
倉橋への他人からの評価と言えば、淡々としている、冷静、下手したらコミュ障一歩手前か?であり、まかり間違っても、ハキハキではない。
別人だな、それは。
「皆、感じ良いって言うんだけど、私にだけ感じ悪いのかしら」
あ、そうですか?
感じ悪くて悪かったな。
倉橋が斜め後ろにいるとも知らず、二人は会話を続けている。
「ん?感じ悪かったです?体育会っぽい人ですよね。がははって感じの」
がはは……。
間違いない。別人だ。
おそらくそれは、渡真利のことだろう。
「体育会?全然。むっちゃ、線の細い、どっちかって言うと理数系な感じ」
案の定、宝条は即座に否定している。
理数系。どちらかというと、それが普段の倉橋に対する表現だろう。
「細っそい。吹いたら折れそう」
倉橋は危うく、飲みかけたビールを噴き出しそうになった。
一応、時間がある時はジムとか行ったりしているんだがな。
食べても太らないのは体質だ。
吹いたら折れそうはないだろう。
それはすでに悪口ではないのか。
「別人、よね?」
「……ですね。身長どれくらいです?」
話し相手の彼女も人違いにやっと気づいたようだ。
「175センチ前後かなぁ。佐野さんとは対極みたいな人だよ?」
「宝条さん、それ絶対別人ですよ」
「そういう事かあ……」
2人は納得しているようだが、倉橋は何だか納得いかない心地だ。
けれど、こんな風に自分のことを第三者的に聞くことはないので、そのままそこで話を聞くことにした倉橋である。
「確か、私が知っている顧問弁護士さんは、以前からの先生のご子息で、若先生だと聞いています。今はその若先生が、事務所を継いでらっしゃるはずですから、事務所の他の先生が来ていらっしゃるのかも知れませんね」
「なんか、すっごく冷たくあしらわれたわ。話にならない、に近い感じよ」
あしらったつもりはないのだが、そのように取られていたのかと思うと、倉橋は本当に自分は上手くないと苦い気持ちになる。
「確かうちの顧問弁護士は、事務所はそれほど大きくはないんですが、腕利きを揃えていると聞いています。ふうん、そうなんですね」
「すーっごおく冷たくって、表情も全然変わんないの無表情よ? んで、資料出せ資料出せって、もー、あんな案件終わりにしたいのよ、こっちだって。でも……疑義があるのに折れるのは絶対イヤ!」
なにせ本人が背後にいるとも思っていないので、どんどん会話は進んでいく。
すっごぉく冷たくって、と言う宝条は少し酔っているのか、いつもよりも舌っ足らずだし、いつものシャキシャキした雰囲気とは全く違って倉橋は自分を悪く言われているはずなのに腹は立たなかった。
倉橋は目の前にあったビールを軽くあおる。
やけに苦いような気がした。
腹は立たない。
……立たないけど、そんな風に言わなくてもいいのにと残念に思っただけだ。
いつもそうなのだ。
自分は悪い感情を持っていないのに、相手には嫌われる。
倉橋も軽くため息をついたが二人の会話も途切れた。
「何よ……」
「いや、懐かしくて。自分もよくそーやって、叫んでたなあって思い出したんです。宝条さん、私査定って、保険会社の最後の切り札だと思っています。何かあるならここでしか最終的に食い止めることはできないんです」
「うん」
きっと言われたことに納得したのだろう。
大人しく同意する宝条の声が聞こえた。
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