フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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3.帰ります

帰ります④

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はふ、とため息をついて、ようやく宝条はタクシーの座席の背もたれに身体を預けた。
先程まで張り詰めていた空気が、ふと和らぐ。

「本当に分かりにくい方なんですね」
何が楽しかったのかくすくすと笑って、宝条は大人しく車に揺られていた。

「本当。結衣ちゃんの言うことは正しいわ。ちゃんと話さなきゃですね」
「分かりにくいのは事実ですよ。みんながそう言いますから。僕としては事を難解にしているつもりはないんですが」

「ごめんなさい」
突然謝られて、倉橋は驚いた。
「はい?」

「感じが悪いとか言ってしまってごめんなさい。感情的になってしまっていたかもしれません」
「ああ」

ちょうどタクシーが止まったので、精算をして倉橋は宝条と車を降りる。
「どうして、こんなところに連れてきたんです?」

「君が、僕のことを嫌いだと言うし……それに話をしなければと思って」
「私はあなたが私のことを嫌いなのだと思っていたので」

「そんなこと、いつ言いましたか?」
宝条は少し考える顔だ。

「言ってないですね。でも嫌いだから、態度が悪いんだって思いました。けどそれも私の誤解だって分かりましたし、お詫びもしましたよね」

ん?
「本当に心から申し訳ないって思っています。あの、私帰ります」
ホテルの前に止まっていたタクシーにささっと宝条は乗り込んで、去っていった。

その場に残された倉橋は、唖然とそれを見送る。
ここまで来て、帰るか!?


「山手ホテルへ」
いつものように淡々と倉橋が言うのに、翠咲はぎくんとする。

さっき『嫌いだ』と言ってしまってから、怒るかと思った倉橋は、怒るよりむしろ驚いていたようで、一瞬目を見開いて固まっていた。

ただその後の持ち直しがさすがで、気づいたら荷物と一緒にタクシーに乗せられていたのだ。

いつの間に、こんなことになったのだろう。
考えても酔っているせいか、よく分からない。

倉橋のその整った横顔は、いつも通りひんやりとしていて淡々としていて横顔からだけでは、その真意を汲み取れない。
きっと、怒っているのよね?

「行きつけのラウンジがあるんですよ」
唐突にそう言われて、
「ラウンジ……はぁ……」
としか翠咲は返せなかった。

(どうしてあえてラウンジなんて? そうか。行先がホテルだから)
「連れ込まれたかったんですか?」

さらりと、なんて事を言うのだ⁉︎この人は‼︎
「っ……‼︎ そんな訳ないですっ!」
つ、連れ込まれたいとか、どんな女子よ?!

咄嗟にそう返したものの、倉橋が翠咲をじっと見ているのに気づく。

そう言えば、いつも打ち合わせや相談の時は、倉橋も翠咲も書類に目を落としている事が多くて、ほとんど目を見て話すことはない。
まして、こんな近い距離で顔を合わせるようなことは。

観察するでもなく、いつものような冷静すぎる雰囲気でもなく、凪いだような表情で自分を見てくるから翠咲はどうすれば良いか分からなかった。

タクシーの窓から入る外の光に照らされた横顔をなんとなく見る。
ああ、顔が整っていて綺麗な人なんだなとは思う。
さらりと柔らかそうな髪と、切れ長で涼し気と言う表現がピッタリの目元と、通った鼻筋、それに重ねて理知的な雰囲気に、なによりスーツの襟元のバッジは好きな人にはたまらないアイテムだろう。

一部の女性社員がイケメン弁護士だ!と騒いでいたのは知っている。

けれども印象が悪過ぎて、翠咲にはそんな風にも思えなかったのだが、やっぱり綺麗な人なのねと思った。
性格は別として、イケメンであることは認める。

まあ、これなら連れ込まれちゃいたーいっ!と思う女子がいてもおかしくはない。
しかし、私はそうは思わないからっ。

なのに、なんで、そんな顔でこっち見てるのよ!?
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