フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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12.嵐がやってくる

嵐がやってくる②

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「分かってはいても、頭が下がる」
「後手に回っては意味がないですから」

そんな渡真利と沢村の会話をなんとなく聞いていた翠咲だったのだが、無表情な倉橋に
「ちょっといいですか」
と呼ばれた。
「はい」
倉橋にはエレベーターホールから少し離れた場所に連れて行かれる。

「忙しそうだな?」
「そうね、対策室が立ち上がっているから。でも、すぐじゃないのよ。通り過ぎたあと、一斉に対応が始まるって感じ」
「早くから対応するものなんだな」

「課長も言っていたけど、後手には回れないから」
「さっきの部署では泊まり込みもあると聞いたけれど」
確かに昔はそんなこともあったようだが、今はそういうことはない。

それでも倉橋の薄い表情の中に翠咲を心配する色が見えて、翠咲は大丈夫と微笑んだ。

「今はないわよ。ただ終電とかにはなったりするわね。私はそこまでじゃないと思うけど、なんとも言えないかな。でも残業にはなるかもね」
そう言って翠咲は笑った。

「うちで寝泊まりすれば?」
唐突な倉橋からの言葉だ。

思わず翠咲は聞き返してしまった。
「え?」
「翠咲の家からよりはうちの方が会社に近いだろう」

確かに翠咲が電車に乗っている時間は乗り換え合わせて30分で、それでも近い方なのだ。
倉橋のところからなら電車で15分だ。

「確かに近い……けど……」
倉橋からは今までそんな気配はなくて、唐突過ぎて戸惑う。

かばんの中から、鍵を取り出した倉橋は鍵を翠咲に押し付けた。
「僕の部屋の鍵だから、自由に使っていい」

「え? あのっ……」
「合理的だ」

確かにそうではあるのだけれど。
全てを合理性で判断するのってどうなの⁉︎

「翠咲なら構わない」
相変わらず、淡々としているくせして、翠咲には甘いのだ。

大事な部屋の鍵をポン、と渡してしまうくらいに。

「今日は僕は仕事で遅くなるし、荷物を持ってきて明日から、うちから行けばいい」

倉橋先生!と渡真利に呼ばれて、倉橋は翠咲をエレベーターの方に押しやる。

「あの……っえ……」
「反論は聞かない」

ズルい!
けど……その顔に逆らえる訳もなく、翠咲はエレベーター前でお見送りのお辞儀するフリをして、上げられない顔の赤さを誤魔化した。

ズルいよ……あの顔。
『反論は聞かない』と口角をキュッと上げたりするから。

倉橋は翠咲の方を向いていたから、その表情はおそらく誰も見ていないのだろうけれど、それにしても翠咲としては、あまり他の人には見せたくない。

ほんと……ズルい。
硬い鍵の感触が妙に嬉しい。
それは倉橋が翠咲を心配して甘やかしてくれている印でもあるから。翠咲はその鍵を胸の前でぎゅっと握りしめた。

少し迷ったけれど、仕事を終えた翠咲は一旦自宅に戻り、簡単に2、3日泊まれる準備をして倉橋のマンションに向かった。

確かに合理的ではある。
翠咲の自宅からだと電車が使えなくなったりした場合、タクシーを使うには思い切りがいる距離だが、倉橋のところからならば万が一のことがあっても気兼ねなくタクシーでも出社できる。
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