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12.嵐がやってくる
嵐がやってくる③
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もちろんそんな事態にはなってほしくはないが、常に最悪な場合どうすれば良いのかを考えることが翠咲の癖になっている。
いちばん最悪を考えておくことが最善なのだ。
そうすれば、ほとんどの場合に対応できると翠咲は分かっているから。
そういえば、彼氏との付き合いもそんな風に考えてしまうところがあった気がする。
だからいつも別れ話を切り出されても、翠咲は正直それほど動揺はしないように見えただろう。
内心はどうして⁉︎なんで⁉︎と思っても、そういうこともありうるのかも知れないと思うと否定することはできなくて『わかった』と割とサッパリ言っていた。
自分の気持ちは自分でなんとかなるけれど、人の気持ちを変えることは困難だと翠咲は思っているから。
元カレの
『翠咲は引き止めないんだな』
と言う言葉には、少なからず傷ついていたとしても。
泣いてすがれば気持ちが変わるのであれば、そうするけれど、きっとそんなことをしても、気持ちは変わらないと思うと翠咲にはできないのだ。
元カレは一体どうしてほしかったんだろう……が翠咲の中ではよく分からない。
泣いて、すがってほしかったんだろうか……?
そうしたら、何か変わったの?は翠咲の心の中でずっと問い続けていることだ。
その点いろんなことを合理的に考えて行動する倉橋とは、同じ時間を過ごしても、愛想がなくても気にならない。
倉橋の言葉には基本的に嘘がない。
正しいことをはっきりと伝えることが、彼の中の誠意で正義なのだということがよく分かる。
翠咲は倉橋の部屋の寝室の一角に荷物を置かせてもらい、シャワーを浴びて部屋着に着替えた。
主不在の部屋というのは、なんとなく落ち着かなくて翠咲は荷物の中からノートパソコンを取り出し、先日倉橋がしていたようにラグに座って、ダイニングテーブルの上にパソコンを広げる。
災害時の対応マニュアルなどを改めて確認していた時だ。
カチャカチャ、と玄関で鍵の音がした。
翠咲は玄関に向かう。
「陽平さん、お帰りなさい。ありがとうございます。遠慮なく……」
「あなた、誰?」
──はえ⁉︎
玄関にいたのは、お人形のような美人さんだったのだ。
「なんで勝手に入り込んでいるの?」
「え……いや、私は鍵を預かって……」
勝手に入り込んだら、もう犯罪ではないか。
「勝手に入り込んだら、不法侵入なのよ!」
確かに。そうでしょうとも。
「ですから、鍵を……」
……て言うか一体誰なのだろうか?
「鍵ってなに? お兄ちゃんからもらったとでも言うの?!」
あ!
「ホットケーキの妹さんだ!」
「なんで知ってんのよ」
「確かに、似てますね! 可愛い。美人だわ」
「分かりきってること言わないで。……ていうか、あなた誰なの?」
おお!これは間違いなく兄妹だわ!
納得の翠咲だ。
だが翠咲が果てしなく納得しているのに反し、妹である彼女は全く納得していない雰囲気だった。
「だからっ! 誰なのよ?!」
お兄ちゃんが女の人に鍵なんて渡すわけないっ!とか聞いてない!とかを、心の中で、そーでしょうねぇと同意していた翠咲はお客様のクレーム対応に慣れている。
「分かりますよー。倉橋先生は他人に鍵なんて渡さないタイプですもんねぇ」
いちばん最悪を考えておくことが最善なのだ。
そうすれば、ほとんどの場合に対応できると翠咲は分かっているから。
そういえば、彼氏との付き合いもそんな風に考えてしまうところがあった気がする。
だからいつも別れ話を切り出されても、翠咲は正直それほど動揺はしないように見えただろう。
内心はどうして⁉︎なんで⁉︎と思っても、そういうこともありうるのかも知れないと思うと否定することはできなくて『わかった』と割とサッパリ言っていた。
自分の気持ちは自分でなんとかなるけれど、人の気持ちを変えることは困難だと翠咲は思っているから。
元カレの
『翠咲は引き止めないんだな』
と言う言葉には、少なからず傷ついていたとしても。
泣いてすがれば気持ちが変わるのであれば、そうするけれど、きっとそんなことをしても、気持ちは変わらないと思うと翠咲にはできないのだ。
元カレは一体どうしてほしかったんだろう……が翠咲の中ではよく分からない。
泣いて、すがってほしかったんだろうか……?
そうしたら、何か変わったの?は翠咲の心の中でずっと問い続けていることだ。
その点いろんなことを合理的に考えて行動する倉橋とは、同じ時間を過ごしても、愛想がなくても気にならない。
倉橋の言葉には基本的に嘘がない。
正しいことをはっきりと伝えることが、彼の中の誠意で正義なのだということがよく分かる。
翠咲は倉橋の部屋の寝室の一角に荷物を置かせてもらい、シャワーを浴びて部屋着に着替えた。
主不在の部屋というのは、なんとなく落ち着かなくて翠咲は荷物の中からノートパソコンを取り出し、先日倉橋がしていたようにラグに座って、ダイニングテーブルの上にパソコンを広げる。
災害時の対応マニュアルなどを改めて確認していた時だ。
カチャカチャ、と玄関で鍵の音がした。
翠咲は玄関に向かう。
「陽平さん、お帰りなさい。ありがとうございます。遠慮なく……」
「あなた、誰?」
──はえ⁉︎
玄関にいたのは、お人形のような美人さんだったのだ。
「なんで勝手に入り込んでいるの?」
「え……いや、私は鍵を預かって……」
勝手に入り込んだら、もう犯罪ではないか。
「勝手に入り込んだら、不法侵入なのよ!」
確かに。そうでしょうとも。
「ですから、鍵を……」
……て言うか一体誰なのだろうか?
「鍵ってなに? お兄ちゃんからもらったとでも言うの?!」
あ!
「ホットケーキの妹さんだ!」
「なんで知ってんのよ」
「確かに、似てますね! 可愛い。美人だわ」
「分かりきってること言わないで。……ていうか、あなた誰なの?」
おお!これは間違いなく兄妹だわ!
納得の翠咲だ。
だが翠咲が果てしなく納得しているのに反し、妹である彼女は全く納得していない雰囲気だった。
「だからっ! 誰なのよ?!」
お兄ちゃんが女の人に鍵なんて渡すわけないっ!とか聞いてない!とかを、心の中で、そーでしょうねぇと同意していた翠咲はお客様のクレーム対応に慣れている。
「分かりますよー。倉橋先生は他人に鍵なんて渡さないタイプですもんねぇ」
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