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5.今度こそ運命の出逢い
今度こそ運命の出逢い②
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一条が姿を消したあと、亜由美は大きくため息をつく。
「ごめんね、杉原さん。一条さんの剣幕がすごくて口がはさめなくて」
亜由美の向かいにいた先輩がそっと声をかけてくれた。
「いえ……」
確かに突然来て、まくしたてるようにして帰っていったのだ。なかなか口を差し挟めなかったとしても、仕方がないことだろう。
「一条さんが言うことにも一理あるわよ」
亜由美の後ろから一人の女性社員が声を掛けてくる。
穏やかではない雰囲気だ。腕を組んで亜由美を睨むように見ていた。
営業課担当ではなく、おそらく一条のファンの一人なのだろう。
「営業社員は忙しいんだし、忙しい社員のために計上を手伝うくらいはいいんじゃないの? 杉原さん、融通が利かないって言われてるの、知ってる? 少しは気を利かせてもいいんじゃない?」
「じゃあ、あなたが計上を手伝えば?」
亜由美に向かって言い募っていた女性社員の、さらに後ろから奥村の低い声が聞こえた。
打ち合わせで席を外していたが戻ってきたものらしい。奥村は手の上にパソコンを乗せて立ったまま、冷ややかに女性社員に向かって口を開いた。
「一人にそれを許したら、みんなの分もやらなきゃ不公平でしょ? システム計上でさえいい加減で科目の間違いも多いし、それを訂正する作業だけでも大変なのよ。知っているでしょ?」
奥村は声を荒らげる訳ではないが、淡々と亜由美の前に立っていた女性社員に向かって話す。
「一箇所訂正するとすべてを訂正しなくてはいけない。あなたが受けるの? それならそのように課長に言います」
それは非常に手間のかかる作業だ。この女性社員が対応するとはとても思えなかった。
奥村は真っすぐにそう言い切って、静かに見つめ返す。その言葉を聞いて、女性はぐっと黙った。
亜由美は二年目の社員だが、奥村の社歴は十年を超えている。
亜由美に文句を言っていた社員よりも、ずっと先輩なのだ。見た目は若く見えるけれども。
「それは、いいです」
「杉原さんは私が指導社員なので言いたいことがあるなら、私に言ってくださいね」
きっぱりとそう言う奥村に、女性社員は「すみませんでした」と言って席に戻っていった。
「全く……」
隣の席から大きなため息が聞こえて、亜由美は「申し訳ありませんでした」と声をかける。
「どうして? 杉原さんは悪くないわよ。指導の通りにやってくれてる。通達は出してもらっているんだけど、なかなかね……こちらこそごめんなさいね、席にいない間に嫌な思いをさせてしまって」
奥村は先輩として尊敬できる。本当はとても怖かった。
つい目元が熱くなってしまったけれど一生懸命それを我慢して、亜由美は首を横に振った。
泣きそうだったのは、二人から責められたことではなくて、奥村が亜由美のことを理解してくれていることだ。
こういう先輩になりたいと亜由美は強く思った。
午前中、亜由美は何とか仕事をこなしたものの、誰かとお昼に行く気にはなれなくて、少し時間を外して、外へランチに出ることにする。
会社の入っているビルを出ると、やっと息が出来るような気がした。
やはり気分転換は大事だ。
亜由美の塞ぐような気持ちとはうらはらに、外は気持ちの良い青空だった。その爽やかさに少し気分も晴れたように思う。
せめてランチくらい今日は奮発しようと亜由美は近くのビルに向かった。
「杉原!」
突然、名前を呼ばれて振り返ると一条がいて、亜由美に向かってつかつかと歩いてきたのだ。
怖くて、一瞬で血の気が引くような気持ちになった。
「な……なんですか?」
一条は亜由美の目の前まで歩いてきて、立ちふさがる。
「お前、何で俺のことばっかり目の敵にするわけ? それで気を引いているつもりかよ?」
気を引いている? 何を言っているのだろうか。
「気なんか引いてませんけど」
バッグを肩から下げて、オフィスカジュアルの亜由美を上から下まで見た一条が口を開く。
そして、軽く笑った。
「ごめんね、杉原さん。一条さんの剣幕がすごくて口がはさめなくて」
亜由美の向かいにいた先輩がそっと声をかけてくれた。
「いえ……」
確かに突然来て、まくしたてるようにして帰っていったのだ。なかなか口を差し挟めなかったとしても、仕方がないことだろう。
「一条さんが言うことにも一理あるわよ」
亜由美の後ろから一人の女性社員が声を掛けてくる。
穏やかではない雰囲気だ。腕を組んで亜由美を睨むように見ていた。
営業課担当ではなく、おそらく一条のファンの一人なのだろう。
「営業社員は忙しいんだし、忙しい社員のために計上を手伝うくらいはいいんじゃないの? 杉原さん、融通が利かないって言われてるの、知ってる? 少しは気を利かせてもいいんじゃない?」
「じゃあ、あなたが計上を手伝えば?」
亜由美に向かって言い募っていた女性社員の、さらに後ろから奥村の低い声が聞こえた。
打ち合わせで席を外していたが戻ってきたものらしい。奥村は手の上にパソコンを乗せて立ったまま、冷ややかに女性社員に向かって口を開いた。
「一人にそれを許したら、みんなの分もやらなきゃ不公平でしょ? システム計上でさえいい加減で科目の間違いも多いし、それを訂正する作業だけでも大変なのよ。知っているでしょ?」
奥村は声を荒らげる訳ではないが、淡々と亜由美の前に立っていた女性社員に向かって話す。
「一箇所訂正するとすべてを訂正しなくてはいけない。あなたが受けるの? それならそのように課長に言います」
それは非常に手間のかかる作業だ。この女性社員が対応するとはとても思えなかった。
奥村は真っすぐにそう言い切って、静かに見つめ返す。その言葉を聞いて、女性はぐっと黙った。
亜由美は二年目の社員だが、奥村の社歴は十年を超えている。
亜由美に文句を言っていた社員よりも、ずっと先輩なのだ。見た目は若く見えるけれども。
「それは、いいです」
「杉原さんは私が指導社員なので言いたいことがあるなら、私に言ってくださいね」
きっぱりとそう言う奥村に、女性社員は「すみませんでした」と言って席に戻っていった。
「全く……」
隣の席から大きなため息が聞こえて、亜由美は「申し訳ありませんでした」と声をかける。
「どうして? 杉原さんは悪くないわよ。指導の通りにやってくれてる。通達は出してもらっているんだけど、なかなかね……こちらこそごめんなさいね、席にいない間に嫌な思いをさせてしまって」
奥村は先輩として尊敬できる。本当はとても怖かった。
つい目元が熱くなってしまったけれど一生懸命それを我慢して、亜由美は首を横に振った。
泣きそうだったのは、二人から責められたことではなくて、奥村が亜由美のことを理解してくれていることだ。
こういう先輩になりたいと亜由美は強く思った。
午前中、亜由美は何とか仕事をこなしたものの、誰かとお昼に行く気にはなれなくて、少し時間を外して、外へランチに出ることにする。
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やはり気分転換は大事だ。
亜由美の塞ぐような気持ちとはうらはらに、外は気持ちの良い青空だった。その爽やかさに少し気分も晴れたように思う。
せめてランチくらい今日は奮発しようと亜由美は近くのビルに向かった。
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突然、名前を呼ばれて振り返ると一条がいて、亜由美に向かってつかつかと歩いてきたのだ。
怖くて、一瞬で血の気が引くような気持ちになった。
「な……なんですか?」
一条は亜由美の目の前まで歩いてきて、立ちふさがる。
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気を引いている? 何を言っているのだろうか。
「気なんか引いてませんけど」
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そして、軽く笑った。
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