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1.契約結婚する!

契約結婚する!

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「それなら、いっそ契約婚でもするか?」
 突然聞こえたその言葉に美冬は身体を動かすことができなかった。

 ──契約婚⁉︎

 ドラマやコミックスでは見たことがある。
 結婚前に様々な条件を決めて婚姻することだ。
 確かに事前に契約がある分、利害関係もハッキリしやすいのかもしれない。

「契約婚……?」
 お互いが条件をハッキリさせているのなら、面倒も少ないのかも。
 悪くはない、と美冬は判断したのだ。

「ま、お前には無理だろうけどな」
 そう言った彼は美冬の顔を見て、ふっと余裕のある笑みを浮かべ、立ち上がり書類を手にして美冬に背中を向けた。

(行っちゃう!)
 美冬はガシッと彼の仕立てのいいスーツを後ろから掴む。

「なんだ?」
 その顔は不機嫌そうだ。

 ぎゅっとスーツを握った美冬の手元を見ている。
 分かるわよ。高級スーツなんでしょ。シワになったって知らないわよ!

「……待って……」
 つい、引き止めてしまった。

「なに?」
 緩く髪をかきあげた彼は美冬を見る。

 その先、美冬が口にする言葉なんて想像してもいないんだろう。
 小馬鹿にしているのか見下しているのか、身長が高いだけなのか、その全部なのか、上から見られて美冬は一瞬怯みそうになった。

 怖い!でも負けないからっ!
「するわ……」
「は?」

 いつも人を睥睨へいげいするような彼の瞳が一瞬大きく見開かれた。
「するわって言ったのよ。契約婚、する」
「お前……なに考えて……っ」
「自分が言ったのよ! 責任とってもらうから」

 チッと舌打ちの音が聞こえて、美冬はその大きな身体に息もできないくらいに抱きしめられた。

「全くお前は……。覚えてろよ」
 え……と美冬が思う間もなく、情熱的に唇を塞がれる。

 それは美冬が知っている今までのどんなキスとも違って、肉食獣のような彼にふさわしい食べられてしまうかと思うようなものだったのだ。

 唇を重ねるだけなんてことは許さないと言わんばかりに遠慮なく、美冬の口の中に舌が侵入してきて、逃げてももう逃さないと絡ませられる。

 口の中で擦れる舌の感触が妙に官能的で、腰がぞくんとするのを止めることはできなかった。
 無理に奪うようにされているはずなのに、求めているかのように彼に身体を預けてしまう。

「だったら、お前が持っているその重荷は……俺にも渡してもらうからな!」
 息を継ぐ合間に囁くように、けれど強く言われたその言葉は、キスで頭がぼうっとしてしまっている美冬には聞こえていなかった。

 ──な、なに……?今、なんて言ったの?


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