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5.事情があるんです
事情があるんです⑤
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なんだ?大事なものじゃないのか?
「どうした?」
「……いえ、なんでもないです」
名刺入れから名刺を出し美冬に渡すと美冬はバッグを足元に置いて、名刺を受け取った。その所作が綺麗できちんとしているんだな、と槙野は微笑ましくなる。
名刺を確認した美冬はただでさえ零れそうな瞳をさらに大きく見開いていた。
その顔には副社長だったの!?と大きく書かれてあるのだ。
おびえるにしても、驚くにしても美冬は表情が本当に感情豊かで見ていて飽きない。
「全部、感情が顔に出ているぞ」
そう言うと、美冬は慌てて頭を下げた。
「す……すみません」
「まあ、とっても怯えてたみたいだが? 一応こんな肩書きなんで良かったら見るけど? その胸に大事に抱えてる企画書」
見てほしいなら来いと言った。美冬は断るかと思ったら、ててっと槙野についてきたのだ。
企画書からは一生懸命な美冬の性格が見て取れた。
槙野はそれ以外にも企業情報を事前に入手して確認しているのだ。美冬は若いながらもしっかり社長としても責任を果たしていると思っていた。
しかし今回はおそらくコンペの対象にはならない。
それは美冬の経営がダメなのではなくて、コンペの意向と合わないからだ。
実際にそういうことはよくあることで、その後もフォローできるようならフォローしてゆくケースもある。
書類をすべて確認した槙野はそれをどうやって伝えようか考えていた。
「悪くはない」
そう言ったのに、美冬はお前を殺すと言われたかのような顔をしていて、槙野はこいつ腹芸とかできないのか?とちょっとあきれたような声が出てしまう。
「だから、顔に出てるっつーの」
本当ですか?顔に書いてありますか?どの辺ですか?と言いたげに一生懸命顔を触っている美冬は見ていて和む。
コンペの時も今回企画書を持って来た時も、美冬はとても真剣で槙野のことが苦手でも、仕事のために話を聞くという態度はとても好ましい。
「真剣だな」
「え?」
そう話しかけたらきょとんとして槙野のことを真っ直ぐ見つめてくる。
年より若く見える顔立ちで、色素が薄いのか焦げ茶色の髪と焦げ茶色の瞳がとても綺麗だ。
いつも元気で明るそうな美冬のきょとんとした目をくりっとさせた顔はやけに愛らしかった。
よくよく見ると目だけではなくて、ちょん、とした鼻も綺麗に口紅を付けた唇も配置が素晴らしく整った顔の部類に入るのではないだろうか。
ふっと美冬はうつむいた。
その綺麗な顔が見えないのは残念なように槙野は思う。
「そうですね。いろいろ事情もあるんですけど。今まであまり経営とか考えてこなかったんだなって今回ひしひしと思います。私はミルヴェイユのお洋服が好きなので」
「へえ? どの辺が?」
「金額設定が高いってことは分かっているんです。でもちょっと特別な時にちょっと特別なおしゃれがしたいって絶対にあると思うから。そんな時に気分を上げるファッションであってほしいの。それに価格に見合うだけの作りなんです」
好きなもののことを瞳をキラキラと輝かせながら話をするのについ槙野は目を引かれる。
「なるほどな」
槙野は少し口角を上げる。そうしてテーブル越しに美冬を真っ直ぐ見た。
「事情ってのはなんだ?」
「どうした?」
「……いえ、なんでもないです」
名刺入れから名刺を出し美冬に渡すと美冬はバッグを足元に置いて、名刺を受け取った。その所作が綺麗できちんとしているんだな、と槙野は微笑ましくなる。
名刺を確認した美冬はただでさえ零れそうな瞳をさらに大きく見開いていた。
その顔には副社長だったの!?と大きく書かれてあるのだ。
おびえるにしても、驚くにしても美冬は表情が本当に感情豊かで見ていて飽きない。
「全部、感情が顔に出ているぞ」
そう言うと、美冬は慌てて頭を下げた。
「す……すみません」
「まあ、とっても怯えてたみたいだが? 一応こんな肩書きなんで良かったら見るけど? その胸に大事に抱えてる企画書」
見てほしいなら来いと言った。美冬は断るかと思ったら、ててっと槙野についてきたのだ。
企画書からは一生懸命な美冬の性格が見て取れた。
槙野はそれ以外にも企業情報を事前に入手して確認しているのだ。美冬は若いながらもしっかり社長としても責任を果たしていると思っていた。
しかし今回はおそらくコンペの対象にはならない。
それは美冬の経営がダメなのではなくて、コンペの意向と合わないからだ。
実際にそういうことはよくあることで、その後もフォローできるようならフォローしてゆくケースもある。
書類をすべて確認した槙野はそれをどうやって伝えようか考えていた。
「悪くはない」
そう言ったのに、美冬はお前を殺すと言われたかのような顔をしていて、槙野はこいつ腹芸とかできないのか?とちょっとあきれたような声が出てしまう。
「だから、顔に出てるっつーの」
本当ですか?顔に書いてありますか?どの辺ですか?と言いたげに一生懸命顔を触っている美冬は見ていて和む。
コンペの時も今回企画書を持って来た時も、美冬はとても真剣で槙野のことが苦手でも、仕事のために話を聞くという態度はとても好ましい。
「真剣だな」
「え?」
そう話しかけたらきょとんとして槙野のことを真っ直ぐ見つめてくる。
年より若く見える顔立ちで、色素が薄いのか焦げ茶色の髪と焦げ茶色の瞳がとても綺麗だ。
いつも元気で明るそうな美冬のきょとんとした目をくりっとさせた顔はやけに愛らしかった。
よくよく見ると目だけではなくて、ちょん、とした鼻も綺麗に口紅を付けた唇も配置が素晴らしく整った顔の部類に入るのではないだろうか。
ふっと美冬はうつむいた。
その綺麗な顔が見えないのは残念なように槙野は思う。
「そうですね。いろいろ事情もあるんですけど。今まであまり経営とか考えてこなかったんだなって今回ひしひしと思います。私はミルヴェイユのお洋服が好きなので」
「へえ? どの辺が?」
「金額設定が高いってことは分かっているんです。でもちょっと特別な時にちょっと特別なおしゃれがしたいって絶対にあると思うから。そんな時に気分を上げるファッションであってほしいの。それに価格に見合うだけの作りなんです」
好きなもののことを瞳をキラキラと輝かせながら話をするのについ槙野は目を引かれる。
「なるほどな」
槙野は少し口角を上げる。そうしてテーブル越しに美冬を真っ直ぐ見た。
「事情ってのはなんだ?」
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