24 / 109
6.手順もあるんです
手順もあるんです③
しおりを挟む
槙野はその扉を手で押さえて、おばあさんに笑顔を向ける。
「押さえてますから、ごゆっくり気を付けて」
「まあ……ありがとうございます」
見上げるほど大きい男性で、スーツ姿も迫力があるのにおばあさんは槙野ににっこりと笑った。
その後も何階ですか?と尋ねたりして槙野はとても親切だ。
美冬は見直してしまった。
……というか、少しカッコいい、と思ってしまったのだ。
途中の階で降りたおばあさんに槙野は、
「まあー、歌舞伎役者さんみたいにいい男ねえ、ありがとうねー」
と言われていた。
おばあさん的には最上級の誉め言葉だっただろうが、美冬は歌舞伎の隈取が思い浮かんでしまって笑いをこらえるのに必死だ。
──だって、似合い過ぎる!!
それを見た槙野に美冬はほっぺたを軽く引っ張られた。
「ひゃん! なにすんのっ」
「お前の笑い方、たまに腹が立つのはなんでだろうなあ?」
「いやー誉められてたよ。誉められてたってば」
ほっぺたを引っ張られて、さらに頭をがしがしと撫でられ、髪までぐしゃぐしゃにされる。
──もう!いじめっこか!
そこで満足したのか、槙野にふん、と笑顔を向けられた。
その笑顔に少しだけドキッとしたのは内緒なのだ。
エレベーターを降りたところで身だしなみを整えて、二人は病室に向かった。
今日は、槙野に祖父に挨拶をしてもらうのだ。
病室の前で美冬は先ほどぐしゃぐしゃにされた髪を整えた。
槙野も美冬に向かい合った。
「おい、チェックしてくれ。大丈夫か? ネクタイとか曲がってないか?」
「うん。大丈夫」
まさか緊張しているのだろうか?
何にも動じなさそうなのに?
「緊張する?」
「まあ、多少は? ここが一番のヤマ場だと思っているからな」
それでも二人ともこの契約婚を失敗したくないのは共有の思いだ。
「応援してるし、私でできるフォローはちゃんとするから、頑張って!」
そんな風に美冬に言われるとは思っていなかった槙野は、一瞬目を見開いた。
そうして笑顔を美冬に向ける。
「おう!」
どきっていうか、きゅんとした。
やっぱり顔は意外と整っているかもしれない。無防備な笑顔……割とかわいいんだけど。
美冬は息を整えて、病室の入り口のインターフォンを押す。
『はいはい』
のんきな祖父の声が聞こえた。
「私、美冬」
『美冬か、入りなさい』
美冬は引き戸を開けて中をのぞく。開けた扉は槙野が押さえてくれていた。
大事なものを見るかのようなその瞳に勘違いしそうになる。
「ありがとう」
美冬は槙野を見上げて笑顔を向けた。
祖父はにこにこしながらじっと二人を見ている。
「今日はどうした?」
「結婚相手を連れてきたのよ」
「ん? 結婚相手?」
祖父は後ろにいる槙野を覗き込む。槙野が頭を下げたのが美冬の視界にも入った。
「おじいちゃんが言ったんじゃないの。結婚しないのか、彼氏はどうしたってこの二年で私百回は聞いたわよ!?」
「お前百回は盛り過ぎだろう……」
「盛ったわ。でも五十回くらいは言ってるでしょう」
「それで? 連れてきたわけだ?」
祖父は面白そうな顔をして美冬と槙野を見ていて、全く信じていないように見える。
槙野はまるで好青年のような笑顔を祖父に向けた。
それには美冬は感心してしまう。
(すごいわ、やればできるのね)
「はじめまして。槙野と申します」
「美冬の祖父です」
にこりと笑った槙野は祖父に名刺を渡す。祖父は名刺に目を走らせて槙野に向かって笑った。
「押さえてますから、ごゆっくり気を付けて」
「まあ……ありがとうございます」
見上げるほど大きい男性で、スーツ姿も迫力があるのにおばあさんは槙野ににっこりと笑った。
その後も何階ですか?と尋ねたりして槙野はとても親切だ。
美冬は見直してしまった。
……というか、少しカッコいい、と思ってしまったのだ。
途中の階で降りたおばあさんに槙野は、
「まあー、歌舞伎役者さんみたいにいい男ねえ、ありがとうねー」
と言われていた。
おばあさん的には最上級の誉め言葉だっただろうが、美冬は歌舞伎の隈取が思い浮かんでしまって笑いをこらえるのに必死だ。
──だって、似合い過ぎる!!
それを見た槙野に美冬はほっぺたを軽く引っ張られた。
「ひゃん! なにすんのっ」
「お前の笑い方、たまに腹が立つのはなんでだろうなあ?」
「いやー誉められてたよ。誉められてたってば」
ほっぺたを引っ張られて、さらに頭をがしがしと撫でられ、髪までぐしゃぐしゃにされる。
──もう!いじめっこか!
そこで満足したのか、槙野にふん、と笑顔を向けられた。
その笑顔に少しだけドキッとしたのは内緒なのだ。
エレベーターを降りたところで身だしなみを整えて、二人は病室に向かった。
今日は、槙野に祖父に挨拶をしてもらうのだ。
病室の前で美冬は先ほどぐしゃぐしゃにされた髪を整えた。
槙野も美冬に向かい合った。
「おい、チェックしてくれ。大丈夫か? ネクタイとか曲がってないか?」
「うん。大丈夫」
まさか緊張しているのだろうか?
何にも動じなさそうなのに?
「緊張する?」
「まあ、多少は? ここが一番のヤマ場だと思っているからな」
それでも二人ともこの契約婚を失敗したくないのは共有の思いだ。
「応援してるし、私でできるフォローはちゃんとするから、頑張って!」
そんな風に美冬に言われるとは思っていなかった槙野は、一瞬目を見開いた。
そうして笑顔を美冬に向ける。
「おう!」
どきっていうか、きゅんとした。
やっぱり顔は意外と整っているかもしれない。無防備な笑顔……割とかわいいんだけど。
美冬は息を整えて、病室の入り口のインターフォンを押す。
『はいはい』
のんきな祖父の声が聞こえた。
「私、美冬」
『美冬か、入りなさい』
美冬は引き戸を開けて中をのぞく。開けた扉は槙野が押さえてくれていた。
大事なものを見るかのようなその瞳に勘違いしそうになる。
「ありがとう」
美冬は槙野を見上げて笑顔を向けた。
祖父はにこにこしながらじっと二人を見ている。
「今日はどうした?」
「結婚相手を連れてきたのよ」
「ん? 結婚相手?」
祖父は後ろにいる槙野を覗き込む。槙野が頭を下げたのが美冬の視界にも入った。
「おじいちゃんが言ったんじゃないの。結婚しないのか、彼氏はどうしたってこの二年で私百回は聞いたわよ!?」
「お前百回は盛り過ぎだろう……」
「盛ったわ。でも五十回くらいは言ってるでしょう」
「それで? 連れてきたわけだ?」
祖父は面白そうな顔をして美冬と槙野を見ていて、全く信じていないように見える。
槙野はまるで好青年のような笑顔を祖父に向けた。
それには美冬は感心してしまう。
(すごいわ、やればできるのね)
「はじめまして。槙野と申します」
「美冬の祖父です」
にこりと笑った槙野は祖父に名刺を渡す。祖父は名刺に目を走らせて槙野に向かって笑った。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
363
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる