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死んでもないのに乙女ゲーム世界に転生しました

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 『蘭』という字がよく似合う美貌の持ち主だけれど、表情のせいだろうか。可愛いのだ。
 赤茶色の髪は、無造作にはねていて、可愛らしい顔立ちを引き立てている。
 
「びっくりするでしょ、そんなの……」
 
 蘭那らんなは微笑んで、私の隣に座った。
 
「入学式サボって、こんなところで何してるの? 桐亜きりあちゃん」
 
 そう言って、私のノートを覗き込もうとしてきたので、私は慌ててノートを閉じて背中に隠した。
 
「入学式は……」
 
 答えようとして、そこで気が付いた。これは、入学式をサボったときの会話イベントだということに。
 蘭那の好感度を上げる返答は、何だったっけ……? 確か、「笑ってごまかす」ではなかったはずだ。
 これがゲームなら、返答の選択肢があるのに……!! そして、正解の返答を選べば確実に好感度が上がるのに……!! 
 
 視線をそらして、答えを考えていた私だったが、うっかりしていた。
 
「もういい! 桐亜ちゃんなんて知らない!!」
 
 突然蘭那は立ち上がって、怒ってどこかへ行ってしまった。
 ゲームでも、返答には制限時間が設けられていて、それを過ぎれば自動的に好感度が下がってしまう。
 私は本命の柊季しゅうきの好感度だけ上げていれば良いというものではない。柊季のベストエンディングを見る前にこちらの世界に転生してしまった以上、私は確実に柊季の好感度を上げる選択肢を知らない。ゆえに、ベストエンディングを目指すなら、柊季だけに絞ることができない。それに、6人の攻略対象にあまりにも嫌われてしまうと、いじめに遭って学園を卒業できないというバッドエンドを迎えることになるのだ。
 
 私は、ある程度6人の攻略対象の好感度を上げながら、柊季の好感度をMAXまで上げる必要があるのだ。そんじょそこらの悪役令嬢に転生したなんて人生ともどっこいどっこいの難易度のゲームをリアル体験しているのが私なのだ。
 
 
 
 ともかく、ここにただ座っていても仕方がない。入学式は終わってしまっただろうから、まずは教室に行かないと。クラス分けの張り紙では、『クラス・マグノリア』に配属されているみたいだから、まずはその教室へ行こう。
 
 ……と。まずい。『フラワリング・パラドックス』では、教室の移動は自動転送で行われていたので、このばかでかい建物のどこをどう通ったら教室へ行けるのかがわからない……!! 
 
 
 今いるのは中庭だけれど、ここだってフラッと来たところだから、建物の入り口に戻ることもできない……!!  

 
 え、これ、私、もしかして大ピンチ……!? 
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