奇跡を呼ぶ旋律

桜水城

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「ディン……ディン……ほら、見て、綺麗」
 ティナが笑って、微笑んで、私に何かを見せてくる。
 ああ……。ティナ……。
 ようやく名前を思い出せたのに、もう君は人妻になってしまっていた……。
 私だけに笑っていてくれれば良かったのに……。
 私だけにその声を聴かせてくれれば良かったのに……。
 ティナが見せてくれたそれは、一輪の花だった。
 花よりも何よりも美しいのは君なのに……。
 どうして結婚してしまったの……? 
 どうして私を待っていてくれなかったの……? 
 そんなことを考えても仕方ないのはわかっているのに……。
 私はティナのことを忘れることができなかった……。

 * * * * *

「ああ、ディンくん。目が覚めたかい?」
 ぼんやりと聞くその声は、どこで聞いた声だっただろうか。覚えがある声のような気もするのだが、思い出せない。
 目が覚めた……。目が覚めたのか、私は……。
 ということは、まだ生きている……? あんなに高いところから墜とされたのに……? 
「よう、おっさん。リューシンさんが助けてくれたんだぜ」
 横から聞こえるのはカルの声だ。それは気付いたのだが、まだ起き上がれない。
 身体が重い……。この間風邪をひいたときのように、自分の身体が自由にならなかった。
「ディンくーん? 起きたかい?」
 顔を近付けて更に訊いて来たのはリューシンだった。そうだ。思い出した。いにしへの森で出会った半パサコーフだ。
 だんだん意識がはっきりしてきた。そして、ゆっくりと私は起き上がった。
「起きた……と思う。ここは?」
 ぼんやりとした視界を見渡してみると、どうやら昨日泊まったセシルさんの家のようだった。
 昨日と同じ部屋に寝かされていたようだった。……という私の認識は、リューシンの言葉で否定されることになる。
「セシルさんの家だよ。三日も眠ってたんだよ、ディンくん。身体大丈夫?」
 その言葉で私のぼんやりとしていた意識が急激にはっきりした。三日!? 三日も眠っていた!? 
「三日も眠ってた!? 私が!?」
「そうだよ。カルくんは次の日に目を覚ましたのに、ディンくんはなかなか目覚めなくて……。心配したよ」
 そう言いながら、リューシンは何か飲み物を作っているようだった。嗅いだことのない爽やかな香りが鼻をくすぐる。それは私に飲ませてくれるのだろうか? 是非とも賞味してみたいところだが。
「そうなんですか……」
 と、ここで気付いた。天馬琴はどこだろう。確か天馬に驚いて放り投げてしまったはず……。
 そうだ! 天馬琴はあそこに置き去りにしてしまったのではないか……!? 
 背筋が冷えていく。あれを失くしてしまったら、ミラに合わせる顔がない……!! 
 
 * * * * *
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