追放された異世界勇者 ―地球に転移しインチキ霊能者になる―

かーる

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第13話 初めての依頼2

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 妙なエンカウントをしてしまったが、そのまま栞と一緒に夜の道を歩き続ける。
この辺りになると、以前利奈に案内された宿が多く並んだ場所の近くだ。
さらにその近くに薄着の女性やスーツ姿の男性などが道行く男性に声を掛けているようだ。

 なるほど、客寄せか。
その辺はどの世界でも一緒なのかもしれない。
同業他社が多い世の中だ、少しでも客を捕まえようと皆が必死になっているのだろう。
しかし、何の店なんだろうか。
妙に目が痛い看板が多い。

「あの礼土さん。さっきはありがとうございまいた」
「大丈夫、大きな問題にならなくてよかったよ」
「私も余所見してしまっていたので気をつけますね」
「余所見していた、というより彼らが避けなかったっていう感じだったけどね。それよりもしかてあの角を曲がった所?」


 気配を感じる。
魔物というよりは、何か人ならざる気配、という奴だ。
それも複数体。
マジでゴブリンじゃねぇだろうな。

「流石ですね。仕事柄、霊能者と自称する人にはお会いした事があるんですが、どうも皆さん偽者臭いというか、うそ臭いというか」
「……へぇそうなんだ。そういえば、栞さんって何の仕事してるの?」

 ダメだ。話題を変えよう。
俺なんて霊能力なんてなくて、魔法で霊を倒してるだけだし……


「へへへ。なんだと思う?」

 知らんがな。

「うーん、巫女とか?」
「ぶっぶーはずれ。でも何で巫女? もしかしてそういうの好きとか?」

 ちくしょう。
一度巫女には会った事あるが、神託を受けるとか何とかいって、恐ろしく頭の固い奴だった。
今考えるとあの爺の言葉を聞いていたっていう事になるな。
もしや俺を殺せっていう神託でもあったんじゃないだろうか。
よく考えたらアルトたちと組んだ時に受けた依頼主不明だったな。
くそ、教会ごと滅ぼすべきだったのか。


「正解は、声優をやってるんです! まぁ売れない声優ですけどね……」
「声優? ごめんね。どういう仕事なの?」
「あ、分からないか。そうだね、アニメとか見る?」
「いや、見た事ないんだ」
「あぁそっか。はははは……まだ一作品しか出たことないからね。何でか知らないけど、本職の声優よりモデルの仕事ばっかり来るのよね」
「ちなみにアニメってなんて作品?」
「プリーチっていう死神の――」
「ファンです!」


 驚いた。
栞はあの師匠の作品であるプリーチの声優らしい。
主人公の家族である3女役だそうだ。
作品的には最初の方しか出ていないが、主人公の壱御いちこが死神の力をなくして泣いてグレた時のビンタは中々強烈だった印象だ。


「そうなんだ、漫画は読んでるんだね!」
「ああ、一日の殆どは満喫にいるからさ」
「……え? それって大丈夫なの?」

 どういう意味だろうか。
この世界で本を読む素晴らしさを学んだあの聖域に何か問題があるのか。
以前の世界では写本を読むだけで馬鹿みたいな金がかかった。
しかも誤字してる奴も多く逆に写本を呼んで解読するというよく分からないことも多くあったくらいだ。


「礼土君。仕事は……?」
「ここにきたばかりで仕事を仲介してくれる場所を知らないんだ」

 何でもハローワークという斡旋所があるらしい。
行ってみたほうがいいのかもしれない。
霊能関係の仕事あるかな。


「うーんそっか。オッケー! 任せてよ。この件が終わったらマネージメントしてあげちゃう!」
「え? どいうこと?」
「いい、礼土君。今の時代はね待っていても仕事は来ないの。私も同じなんだけど自分から動かないとお客さんは取れないよ。だからバンバン宣伝しないとね! 幸い礼土君はルックス最高だから絶対食いつくと思うんだよね!」
「ありがたいけど、栞も仕事あるでしょ?」
「私は事務所に所属してるからオーディションを只管受けるって感じだからさ。基本仕事振られるまでは待ちになる事が多いの。だからバイトでモデルやってるんだけど……最近はそっちばっかり仕事来るのよね」


 モデルか。
そういえば、冒険者の誰々が使っている装備だってよく武器屋のオヤジがよく言ってたな。
まったく興味が湧かないというのと、基本魔法ばっかりだったから武器なんて飾りで一本あればよかったからな。
あぁそういやあのサンドバック吸血鬼の心臓を抉ったときに使ったのが最後だったか。
あの女、元気だろうか。
思えば向こうに居た時の俺は荒れていた。
仲間を組んでも数日で追い出され、外に出ても魔物は俺から逃げる。
攻撃してくるのは全部上位の魔物ばかりで本当に暇だった。
その鬱憤を晴らすようにあのヴァンパイアを殺したけど、思えば悪いことをしたな。


 なんて過去を振り返っていたら、いよいよついたようだ。
3階建ての廃墟。入り口の自動ドアと思われる部分は壊れており、中が見える。
他にも小さな窓がいくつか割れているので進入は楽そうだ。
かすかに人間の反応がある。
どうやら利奈の予想通りに、その明菜という子はここにいるようだ。
急ぐとしますかね。





「栞は大丈夫? やっぱりここで待ってるかい?」
「ううん。ここで待ってた方が怖そう。それにさっきみたいに守ってくれるよね?」
「そりゃもちろんだ」

 仮にも魔王を3回殺してるんだ。
ゴブリンごときに負けるつもりは一切ないさ。

 入り口と思われる壊れた自動ドアから中に入った。
見た感じ、俺が昨日泊まった宿と同じ構造のようだ。
造りと統一する決まりがあるのかもしれない。

「ど、どう礼土君。いる? ここに入ったらなんか寒気がさ……」
「いや、見えるところにはいないね。でも寒気か」

 あれか? 魔力というか霊力というのか。
そういう力が濃いのは確かだ。
ならば耐性が低い者には少々きついか。
光魔法で結界を張ってもいいんだが、この夜だと悪目立ちしそうだしな。
よし、こうするか。

 俺は栞の頭に手を置き、まるで水のように魔力を流した。
淡い光のオーラのようなものが栞を包み込む。
俺の魔力を籠めた光を周囲に漂わせて害意ある力をカットするのが目的だ。
これなら、仮に襲われても問題ないだろう。
触れることすら出来ないはずだ。

「す、すごい! 何これ!?」
「俺の力で栞の周囲を覆ったんだ。これなら寒くないだろ?」
「うんうん! 凄い! 寧ろ暖かい感じがするよ!!」

 好評のようだ。
よし、今日の夜にでもこの魔法に名前を付けよう。
それにしてもここの霊をゴブリンと一緒といったのは間違いだったようだ。
ゴブリンであれば俺が近付いた時点で巣から逃げ出すはずなのだ。
だというのに、ここの霊は俺が巣に入ったというのに逃げるそぶりを見せない。
なるほど、面白いじゃないか。
コボルト程度には考えてもいいか。
まぁコボルトも俺から逃げるのには変わらないのだが。


 俺は受付の場所から近くにある扉に手を掛けた。
そこは管理室のようだ。
壁には鍵が掛かっている。
恐らくこれからいく場所の鍵があると思うのだが、回収するべきだろうか。
これだけ壊れている場所があるなら気にする必要はないか?

「あの、ここに何か?」
「一応見ただけだよ。じゃ行こうか」


 不要と判断した。
最悪斬ればいいだろう。
廊下を歩く、思いのほかくらいがこの程度ならば慣れている。
寧ろもっと暗い場所なんていくらでもあるから余裕なほどだ。
廊下に並ぶいくつもの扉。
その一つに手を当て、魔力を扉の向こうの部屋に流した。

『ギィアアアアア』

「ひぃ! で、出た!?」

 廊下の壁から3体の人型の霊が出現する。
思った通り俺の魔力に驚いて出てきたようだ。
現れた霊の影響なのか、近くにあるガラスや割れた瓶、折れた木材などが浮き始める。
俺はそれを見ながら、右手を挙げ、親指と薬指をくっつけるように力を籠め、それを滑らせた。

 パチンッ

 今日の朝に漫画を読みながら必死に練習した指パッチンを成功させ、そのタイミングで俺から光の膜のようなものを出現させる。
それを廊下の奥まで一気に走らせる。
刹那もない一瞬の出来事。
だが、これで詰みだ。

「“閃光の斬撃フラッシュ・ブレイド”」


 青白い光の閃光が幾重も出現する。
それは霊を、そして操っていた瓦礫なども含め、すべてが眩い光によって、一瞬で斬り刻まれた。


 これは走らせた閃光で光の粒子をマーキング。
そして付着した魔力が含まれたその粒子に熱を加え、斬撃へと転化させる術。
以前オークの群れを殲滅した時にも使用した技。
これの利点は一度マーキングする事によって攻撃対象を俺が選別できるという点だ。
そうする事によって乱戦状態でも敵味方を区別し、正確に敵のみを攻撃する事が可能。
また、最初の光速で移動する光の膜はまず回避不能のために見える場所にさえ居ればほぼ必中する中々便利な技なのだ。


「す、すごい……です」
「3階へ急ごうか。そこに利奈の友達がいるようだ」

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