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第23話 事務所設立
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「……ほぉ」
久しぶりに見た銀行の預金。
スーツやら時計やらと必要経費と割り切って色々買ったため爺から貰った金は半分以下になっていた。
だが、それがどうだろうか。
「40万円増えているな」
ここ最近の出費を考えると微々たる金額だ。
だが、この世界で初めて自分で稼いだ金だと考えると中々感傷深いものがある。
さて、何を買おうか。
読みたい漫画は大体電子書籍で購入済みだ。
ありがたいことに漫画というのは基本的に安い。
大体500円前後だ。つまり大よそ800冊買える計算だ。
食費やらホテル代なんかもあるため全部漫画に突っ込むことは出来ないが、十分な収入だ。
「フフフフ」
焼けた伸びるチーズを堪能しながらまた一つピザを頬張る。
思わず笑みがこぼれる。やはりピザは至高の料理。
マルゲリータもお気に入りだが、このソーセージピザも捨てがたい。
本当にこのサイゼリヤのピザはうまい。
値段も安く味も馬鹿に出来ない。道を歩いていて気になり思わず入った店だが正解だったようだ。
それにこの店はピザ以外も結構美味い。
今後通おうかな。
「――あの、お待たせしてすみません!」
「お待たせ、礼土君」
目の前に二人の女性と一人の男性が来た。
山城利奈と山城栞。
先日、宿命の敵とも言える田嶋との依頼をこなした後にこの二人から連絡があったのだ。
「やあ、礼土君。先日はありがとう。彰のやつ随分君の事をほめていたよ」
山城和人。
背信業を生業としている商会のトップ。
油断してはならない、正直何をやっているのかさっぱり分からないが、敵に回すわけには行かないだろう。
何、俺なら出来る。
かつてあの性悪合理主義聖女に仕返しするためだけに、神聖騎士団をまとめて全員ボコボコにしてやったじゃないか。
何かあっても俺の力があればッ!
いやだめだ。
この世界で不当な暴力は捕まってしまう。
やはり仲良くなる方向で行くとしよう。
「いえいえ、何やらお話があると聞いていましたからね。それよりすみません、俺だけ飯を食べていて」
「気にしないでくれ。というか、せっかくだから本格イタリアンピザを出す店とか紹介しようか?」
「それはありがたい。ぜひお願いします」
個人的には今食べている安価なピザも好きだが、そういう窯で焼くピザも実にうまい。
同じ料理であるはずが、提供する店によって随分味が違うのは興味深いが、それも飽きなくて実にいいと思う。
「それで話とは?」
マジで何の話だ。
まさか俺を背信させる気なのか?
あいにくと信じる神なんていない。
かつての世界でさえ、創造神なんて信じていなかった。
実在しない偶像の類だと思っていた。いや、実際にはいてただの糞爺だったんだが……
「ああ。多分礼土君には良い話だと思うんだけどね。どうだろうか、――君の事務所を作らないか?」
「……事務所?」
何か事務仕事をする場所という事か?
イマイチわからんな。
「簡単に言えばだ。礼土君が所長の心霊事務所を立ち上げないか?」
「事務所ですか……」
「そうです。正直目に見えないものは信じない僕ですが、貴方は本物だと断言できる。それゆえ、今後仕事が立て込む事を考えると事務所が必要になると思ったんです」
「ふむ、それはなぜでしょうか?」
正直インチキ感満載なのだが、一応今のところ対処に問題はないようだ。
ならば、これで今後金銭を稼ぐ手段としては使えるだろう。
だが、そのために事務所というものが必要という理由がわからんな。
「確定申告面倒ですよ?」
「……確かに」
そうだ。この国のルールとして所得を得た分だけそういった申請をしなければならないのだった。
はっきりって細かい事は全然分からないのだが、やらないとまずいらしい。
「税理士を雇ったり色々段取りがあるんですが、正直に聞きましょう。その辺り分かりますか?」
「さっぱりですね」
「ええ、馬鹿にしているわけではなく本当に面倒な手続きが多いですからね。だから僕が準備しましょう。必要な場所も人も書類なんかもすべてです。どうでしょう、一緒にやりませんか?」
なるほど、どうしたもんか。
はっきり言って和人の意図が読めん。
ただの親切心?
いや、そんな玉じゃないだろう。
仮にも人の上に立っている人間なのだ。
そうも都合の良い話なんてあるはずがないだろう。
「……ははは。さすがにいきなり返事は期待していません。出来ればよく考えてほしいですけどね」
「理由を聞いてもいいですか? 和人さんにメリットはないと思うんですけど」
「――沙織はね。霊能力があるって話をした事があるでしょ?」
沙織。一度だけ会った事がある和人の妻か。
確かに妙な力を纏っていたのは感じたが……
それと何か関係あるのか?
「沙織の実家はそれなりに有名な名家でね。正直そっち系のトラブルが多いんだ。事件に巻き込まれる事も結構多い。――だから、正直君とそれなりに関係を強くしたいというのが本音だ」
いつもヘラヘラ笑っている印象の和人だが、その目は非常に真剣な様子だ。
それにしてもなるほどね……。
手で口を覆いながら考える振りをする。
正直な話、面倒な事が押し付けられるので断る理由はない。
それになにより……
おもしろそうだな。
「――わかりました。色々面倒を掛けますがよろしくお願いします」
「そうですか! では、さっそく段取りをとりますね。礼土君、どうぞよろしく」
そういって和人は身を乗り出し、右手を差し出してきた。
それを見て、俺はすぐに手を伸ばし応えた。
「ええ、こちらこそ」
数週間後、都内某所。
「お久しぶりですね、礼土さん」
「……ええ。お久しぶりです。田嶋さん」
なぜ貴様がここにいる?
いや、わかってる。この事務所は田嶋不動産から紹介された物件なのだ。
だが、なぜ不動産の近くの家なんだ?
くそ、なんの嫌がらせや。
「礼土さん。とりあえずこちらを」
「おや、これは……?」
「コーヒー豆です。後引っ越し祝いにコーヒーメーカーも用意しましたよ」
血が出るほど拳を握ってしまう。
たじまぁぁ
お前はやはり俺の敵なのか?
なぁにが悲しくてそんな苦い液体を飲まねばならんのだ。
「ありがとうございます。うれしいですよ……えぇ、本当に」
そんな敵襲を受けながらもここに【勇実心霊相談所】が立ち上がった。
久しぶりに見た銀行の預金。
スーツやら時計やらと必要経費と割り切って色々買ったため爺から貰った金は半分以下になっていた。
だが、それがどうだろうか。
「40万円増えているな」
ここ最近の出費を考えると微々たる金額だ。
だが、この世界で初めて自分で稼いだ金だと考えると中々感傷深いものがある。
さて、何を買おうか。
読みたい漫画は大体電子書籍で購入済みだ。
ありがたいことに漫画というのは基本的に安い。
大体500円前後だ。つまり大よそ800冊買える計算だ。
食費やらホテル代なんかもあるため全部漫画に突っ込むことは出来ないが、十分な収入だ。
「フフフフ」
焼けた伸びるチーズを堪能しながらまた一つピザを頬張る。
思わず笑みがこぼれる。やはりピザは至高の料理。
マルゲリータもお気に入りだが、このソーセージピザも捨てがたい。
本当にこのサイゼリヤのピザはうまい。
値段も安く味も馬鹿に出来ない。道を歩いていて気になり思わず入った店だが正解だったようだ。
それにこの店はピザ以外も結構美味い。
今後通おうかな。
「――あの、お待たせしてすみません!」
「お待たせ、礼土君」
目の前に二人の女性と一人の男性が来た。
山城利奈と山城栞。
先日、宿命の敵とも言える田嶋との依頼をこなした後にこの二人から連絡があったのだ。
「やあ、礼土君。先日はありがとう。彰のやつ随分君の事をほめていたよ」
山城和人。
背信業を生業としている商会のトップ。
油断してはならない、正直何をやっているのかさっぱり分からないが、敵に回すわけには行かないだろう。
何、俺なら出来る。
かつてあの性悪合理主義聖女に仕返しするためだけに、神聖騎士団をまとめて全員ボコボコにしてやったじゃないか。
何かあっても俺の力があればッ!
いやだめだ。
この世界で不当な暴力は捕まってしまう。
やはり仲良くなる方向で行くとしよう。
「いえいえ、何やらお話があると聞いていましたからね。それよりすみません、俺だけ飯を食べていて」
「気にしないでくれ。というか、せっかくだから本格イタリアンピザを出す店とか紹介しようか?」
「それはありがたい。ぜひお願いします」
個人的には今食べている安価なピザも好きだが、そういう窯で焼くピザも実にうまい。
同じ料理であるはずが、提供する店によって随分味が違うのは興味深いが、それも飽きなくて実にいいと思う。
「それで話とは?」
マジで何の話だ。
まさか俺を背信させる気なのか?
あいにくと信じる神なんていない。
かつての世界でさえ、創造神なんて信じていなかった。
実在しない偶像の類だと思っていた。いや、実際にはいてただの糞爺だったんだが……
「ああ。多分礼土君には良い話だと思うんだけどね。どうだろうか、――君の事務所を作らないか?」
「……事務所?」
何か事務仕事をする場所という事か?
イマイチわからんな。
「簡単に言えばだ。礼土君が所長の心霊事務所を立ち上げないか?」
「事務所ですか……」
「そうです。正直目に見えないものは信じない僕ですが、貴方は本物だと断言できる。それゆえ、今後仕事が立て込む事を考えると事務所が必要になると思ったんです」
「ふむ、それはなぜでしょうか?」
正直インチキ感満載なのだが、一応今のところ対処に問題はないようだ。
ならば、これで今後金銭を稼ぐ手段としては使えるだろう。
だが、そのために事務所というものが必要という理由がわからんな。
「確定申告面倒ですよ?」
「……確かに」
そうだ。この国のルールとして所得を得た分だけそういった申請をしなければならないのだった。
はっきりって細かい事は全然分からないのだが、やらないとまずいらしい。
「税理士を雇ったり色々段取りがあるんですが、正直に聞きましょう。その辺り分かりますか?」
「さっぱりですね」
「ええ、馬鹿にしているわけではなく本当に面倒な手続きが多いですからね。だから僕が準備しましょう。必要な場所も人も書類なんかもすべてです。どうでしょう、一緒にやりませんか?」
なるほど、どうしたもんか。
はっきり言って和人の意図が読めん。
ただの親切心?
いや、そんな玉じゃないだろう。
仮にも人の上に立っている人間なのだ。
そうも都合の良い話なんてあるはずがないだろう。
「……ははは。さすがにいきなり返事は期待していません。出来ればよく考えてほしいですけどね」
「理由を聞いてもいいですか? 和人さんにメリットはないと思うんですけど」
「――沙織はね。霊能力があるって話をした事があるでしょ?」
沙織。一度だけ会った事がある和人の妻か。
確かに妙な力を纏っていたのは感じたが……
それと何か関係あるのか?
「沙織の実家はそれなりに有名な名家でね。正直そっち系のトラブルが多いんだ。事件に巻き込まれる事も結構多い。――だから、正直君とそれなりに関係を強くしたいというのが本音だ」
いつもヘラヘラ笑っている印象の和人だが、その目は非常に真剣な様子だ。
それにしてもなるほどね……。
手で口を覆いながら考える振りをする。
正直な話、面倒な事が押し付けられるので断る理由はない。
それになにより……
おもしろそうだな。
「――わかりました。色々面倒を掛けますがよろしくお願いします」
「そうですか! では、さっそく段取りをとりますね。礼土君、どうぞよろしく」
そういって和人は身を乗り出し、右手を差し出してきた。
それを見て、俺はすぐに手を伸ばし応えた。
「ええ、こちらこそ」
数週間後、都内某所。
「お久しぶりですね、礼土さん」
「……ええ。お久しぶりです。田嶋さん」
なぜ貴様がここにいる?
いや、わかってる。この事務所は田嶋不動産から紹介された物件なのだ。
だが、なぜ不動産の近くの家なんだ?
くそ、なんの嫌がらせや。
「礼土さん。とりあえずこちらを」
「おや、これは……?」
「コーヒー豆です。後引っ越し祝いにコーヒーメーカーも用意しましたよ」
血が出るほど拳を握ってしまう。
たじまぁぁ
お前はやはり俺の敵なのか?
なぁにが悲しくてそんな苦い液体を飲まねばならんのだ。
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