6 / 92
006 その行動、霊体にて
しおりを挟む
これは……どうだ? チャンスか? お祓いなんてされたら堪ったものじゃないが、この老婆になら俺の意思が伝えられそうだ。
「あんたお腹の子を大事にせにゃならんのにどんな変なところへ行ったんだい? 未練のありそうな男があんたの後ろにいるよ」
老婆は母に告げる。変なところへ言っていないと母は返すが、俺は必死に老婆にアピールした。
「未練も何も俺はまだ生まれてないんだって! お婆さん! このお母さんにお腹の子を強くするようなものたくさん食べろって伝えてくれない!?」
「ええ? 幽霊がなんか変なこと言ってるよ奥さん。お腹の子を強く生めってさ」
「はぁ……幽霊なのにお腹の子の心配してくれてるんですか……」
「肉だ! 多分肉がいい! きっと! だから肉食べて元気な子を生んでくれ!」
俺は必死に続ける。母は幽霊なんて信じていないのか、老婆がボケたと思っているのか。ただただ困ったように眉を曲げていた。
ダメだ、これどうにもできない!!
「肉を食べろって……いや、肉は赤子に悪いから食べちゃダメだと村では言われとるが」
「え、肉?」
「よく火を通せば大丈夫なんだよ! 生とか半生はダメだけど、火を通せば大丈夫なんだよ!」
「火を通せば大丈夫と……はぁー、あんた幽霊なのによく知っとるのう」
「婆さん感心してないで! 母さんに伝えてくれ!!」
母さんは昔、肉を食べると胎児に悪いと聞いて食べなかった。小さい頃そう教えられたことがある。村の外からやってきた行商人曰く火を通せば大丈夫だというから、それを伝えれば母さんは多少でも肉を食べてくれるはず。
それで未来が変わるかは知らんが!!
「奥さん、幽霊が必死に肉を食べてくれと頼んどる。そりゃもう必死に頼んどるよ」
「え、ええ……そうなんですか……」
母は疑いに満ちた目で老婆を見た後、その目線の先の俺を見た。
俺は空中で土下座して叫ぶ。
「お願いします! あなたの息子の頼みです! 名前は決まってますか!? リドゥールの頼みです! 婆さん、母さんにこれを伝えてくださいいいい!!」
「お、奥さん。幽霊があんたの息子を名乗っとる。リドゥールだとか……」
「!!?」
ここに来て俺は初めて手ごたえを感じた。名前だ。名前に母は反応した。
「男の子ならそう名付けようと思ってたんです……誰にも伝えてないのに」
「どんな逆境にも負けないように、どんな時も強い音を出せるようにって、胎内から感じる鼓動から名前をつけたんだよね!!」
老婆は俺の言葉を復唱する。
母は驚いて声を上げ、その場に座り込んだ。
「お、奥さん大丈夫か!?」
「ぜ、全部当たってます……由来なんて、本当に、旦那にも伝えてないのに……」
座り込んだまま、彼女は誰もいない空を見た。いや、俺とはバッチリ目が合っている。
「……信じてみます。息子がここにいるかもしれないってこと」
「そ、そうか……」
「よっしゃ!!」
母の言葉に俺は拳を握る。これでこのひ弱な体で生まれなくても済むかもしれない!!
俺は急いで画面を開く。現在までスクロールバーを移動し、選択する。
「現在の世界への影響値0.46%……なんか増えてるけど大丈夫だろ。よし!」
光が溢れる。
俺は現在の部屋へ辿り着く。直後脳内に大量の景色が雪崩れ込んでくる。
「ぐ……っう……なんっだこれ……!」
それは思い出のようだった。幼少期から今までの記憶。痛みはない。だが大量の景色に意識が朦朧とする。
そして理解する。思い出が書き変わっていく。生まれてから今までの、全てが変わっていく。
「はぁ……はぁ……」
俺は壁に手を付きながら部屋の鏡の前へやって来る。
「これ、俺か……?」
そこにはやや俺の面影を残した大男が立っていた。
「あんたお腹の子を大事にせにゃならんのにどんな変なところへ行ったんだい? 未練のありそうな男があんたの後ろにいるよ」
老婆は母に告げる。変なところへ言っていないと母は返すが、俺は必死に老婆にアピールした。
「未練も何も俺はまだ生まれてないんだって! お婆さん! このお母さんにお腹の子を強くするようなものたくさん食べろって伝えてくれない!?」
「ええ? 幽霊がなんか変なこと言ってるよ奥さん。お腹の子を強く生めってさ」
「はぁ……幽霊なのにお腹の子の心配してくれてるんですか……」
「肉だ! 多分肉がいい! きっと! だから肉食べて元気な子を生んでくれ!」
俺は必死に続ける。母は幽霊なんて信じていないのか、老婆がボケたと思っているのか。ただただ困ったように眉を曲げていた。
ダメだ、これどうにもできない!!
「肉を食べろって……いや、肉は赤子に悪いから食べちゃダメだと村では言われとるが」
「え、肉?」
「よく火を通せば大丈夫なんだよ! 生とか半生はダメだけど、火を通せば大丈夫なんだよ!」
「火を通せば大丈夫と……はぁー、あんた幽霊なのによく知っとるのう」
「婆さん感心してないで! 母さんに伝えてくれ!!」
母さんは昔、肉を食べると胎児に悪いと聞いて食べなかった。小さい頃そう教えられたことがある。村の外からやってきた行商人曰く火を通せば大丈夫だというから、それを伝えれば母さんは多少でも肉を食べてくれるはず。
それで未来が変わるかは知らんが!!
「奥さん、幽霊が必死に肉を食べてくれと頼んどる。そりゃもう必死に頼んどるよ」
「え、ええ……そうなんですか……」
母は疑いに満ちた目で老婆を見た後、その目線の先の俺を見た。
俺は空中で土下座して叫ぶ。
「お願いします! あなたの息子の頼みです! 名前は決まってますか!? リドゥールの頼みです! 婆さん、母さんにこれを伝えてくださいいいい!!」
「お、奥さん。幽霊があんたの息子を名乗っとる。リドゥールだとか……」
「!!?」
ここに来て俺は初めて手ごたえを感じた。名前だ。名前に母は反応した。
「男の子ならそう名付けようと思ってたんです……誰にも伝えてないのに」
「どんな逆境にも負けないように、どんな時も強い音を出せるようにって、胎内から感じる鼓動から名前をつけたんだよね!!」
老婆は俺の言葉を復唱する。
母は驚いて声を上げ、その場に座り込んだ。
「お、奥さん大丈夫か!?」
「ぜ、全部当たってます……由来なんて、本当に、旦那にも伝えてないのに……」
座り込んだまま、彼女は誰もいない空を見た。いや、俺とはバッチリ目が合っている。
「……信じてみます。息子がここにいるかもしれないってこと」
「そ、そうか……」
「よっしゃ!!」
母の言葉に俺は拳を握る。これでこのひ弱な体で生まれなくても済むかもしれない!!
俺は急いで画面を開く。現在までスクロールバーを移動し、選択する。
「現在の世界への影響値0.46%……なんか増えてるけど大丈夫だろ。よし!」
光が溢れる。
俺は現在の部屋へ辿り着く。直後脳内に大量の景色が雪崩れ込んでくる。
「ぐ……っう……なんっだこれ……!」
それは思い出のようだった。幼少期から今までの記憶。痛みはない。だが大量の景色に意識が朦朧とする。
そして理解する。思い出が書き変わっていく。生まれてから今までの、全てが変わっていく。
「はぁ……はぁ……」
俺は壁に手を付きながら部屋の鏡の前へやって来る。
「これ、俺か……?」
そこにはやや俺の面影を残した大男が立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる