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023 ステラの過去へ
しおりを挟む「くらえぇぇえええ!!」
俺は剣を振る。ドラゴンの尾を、爪を、咆哮を搔い潜った一撃。この一撃を届かせるためにどれほどの時間がかかったのかわからない。
何度も何度もやり直したんだ。だから必ず届かせる。決意と覚悟を込めた一撃はヤツの首を狙っていく。
「グォオオオオオアアア!!」
「!?」
その首に届く直前、ヤツの長い首がぐにゃりと曲がり、俺の間合いの外へ逃げていく。そして首の先、その目と俺の目が合う。
ドラゴンの口からは炎が溢れており、咆哮と共にこちらに吐き出そうとしている。魔法陣の炎とは違う、直接俺を狙うつもりだ。
「こんな攻撃、まだ隠してたか!!」
悔し紛れに叫ぶ。直後、俺は炎に焼かれながら吹き飛んでいく。洞窟の壁は硬く、しかしその壁にすらめり込むほどの勢いで俺は叩きつけられた。
全身に痛みが駆け抜け、指先に力が入らない。このままでは死んでしまう。
「ぐ……ふっ!」
口から血が噴き出る。俺は壁にめり込んだまま右手の剣を離し、指を顔の前まで持ってくる。画像を表示させる。
「グォオオオオオ!!」
画面越しにドラゴンの炎が迫る。
光が溢れる。
「準備が足りなかったな……」
あと数瞬遅ければ本当に危なかったかもしれない。あくまで冷静に振る舞おうと呟いてみたが、心臓はバクバクと騒ぎ言うことを聞いてくれない。本当に危なかった。
俺は洞窟へ向かう前に立ち寄った宿へ帰ってきていた。
準備が足りなかった。正しくそうだ。爪や翼や尻尾はなんとか出来る。その力はソリスの仕込んでもらっている。しかし炎だけはどうしようもない。やはり商人から買わなければならない。
俺は更に前の画像へスクロールする。
光が溢れる。
「今のあなたは信用がない。有無を知るにしても、情報を教えてほしければ人から信用を勝ち得ないといけない。それはどの商人も同じことを言う」
前日に戻る。商人の少女ステラは無機質な目で俺をじっと見ている。信頼を勝ち得るにはどうすればいいか。今の俺なら、どんな方法を取れるか。
そんなの決まってる。
「やり直そう」
「え?」
正攻法で信用を勝ち得る方法なんて俺には想像もつかない。ただ、俺にはやり直しの力がある。
これを使って彼女の記憶に俺が残れば――残ってはいたか? それだけじゃなくて、恩人であると認識させられればチャンスがあるかもしれない。
「7歳の、俺の村を出る日だと言っていたな。ちょっとやり直してくる」
「あなたは、何を言って……」
困惑する彼女を放って青い画面を表示させる。俺が空中で指を振ると、更に彼女は表情を曇らせた。スクロールバーである程度目星をつけて、俺は画像に触れた。
光が溢れる。
「……?」
7歳の体に戻ると、頭に情報が流れ込んでくる。新しいものではない。むしろ忘れていたことを鮮明に思い出す感覚だ。今まで18歳や15歳など、記憶に新しい年代からしか俺はやり直していなかった。
7歳にまで戻ると流石に忘れていることは多い。それが今掘り起こされたようだ。
「これも祝福のうちの一つか……」
記憶を探る。ステラと遊んだのは何日前だろうか。目を瞑って集中すると、遊んだ時の記憶が蘇る。
なるほど、俺が声を掛けて遊びに誘ったのか。虫を捕まえてみたり、地面に絵を描いたり……子供の遊びって感じだな。
時期は……二週間前だ。そこへ戻ろう。
光が溢れる。
「それじゃあまた遊ぼうね、ステラ」
俺の口が自然に話していた。目の前に幼い頃のステラがいる。幼い方が幾分感情を感じられる。寂しそうに眉を下げ、灰色がかった瞳を潤ませている。
相も変わらずターバンを巻いているが、マスクはしていない。可愛らしい少女が俺の顔を見ながら小さく頷いた。
「また、ねリドゥール。わたし、わすれないから」
「ありがとう」
少女が小さな声でそう言ったので、俺も記憶通りに返しておいた。彼女の父がやってきて手を引かれている。まだ生きているんだ。恐らく今晩襲われる。俺は村の中で時間を過ごすと、彼らが出発するのを後ろから追いかける。
時刻は夜七時と言ったところか。行商人の一団は明日山越えをする為にキャンプを設置していた。
「何者だお前たち!!」
商人の怒声が響く。見つからないように木の陰に隠れていた俺は顔を出す。俺が見付かったわけではない。サーベルを持った男が十人程、商人のキャンプに現れていた。
毛皮の腰巻が特徴的な彼らは、恐らく山賊なのだろう。この辺りの治安が悪いと聞いたことはなかったが、商人が山越えするという情報を聞きつけて襲い掛かったのだと思われる。
商人の内比較的若い男性が棒などで応戦するが、次々と倒れていく。
「やり直す……!」
光が溢れる。
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