Re Do 〜やり直しの祝福を授かった俺は英雄を目指す人生を歩みたい。あわよくば勇者より先に魔王を倒したい〜

アキレサンタ

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029 やり直し、商人救出

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「何者だ! お前たち!」

 商人のグループに怒号が響き、山賊が現れる。山賊は答えない。ニヤニヤと笑ってサーベルを彼らに突きつける。
 炎がゆらゆらと燃え、彼らの影を映す。不安そうに後退る者、棍棒を手に持ち抵抗を試みる者。ジリジリと山賊たちに囲まれていき、逃げ場はほとんどなくなる。
 商人の一人が叫びを上げながら棍棒を振る。山賊にそんな攻撃は通じない。簡単に薙ぎ払われてしまう。
 山賊がサーベルを構えた。これが開戦の合図だ。彼が胸を貫かれた時、山賊たちの蹂躙が始まる。

「ハッ! 死にな!!」
「ひいいいいい!! …………?」

 腕で顔を覆った商人が、いつまでも来ない凶刃の衝撃に違和感を覚える。彼は見ただろう。驚愕の表情を浮かべる山賊と、その手に持つ折れた刃を。
 彼の姿を影が隠す。宣言する。

「お前たちを倒すために、俺はやり直してきたぞォッ!!」

 横から叩き割った刃の先が、地面に突き刺さった。

「なんだ……このガキ……?」

 俺は周囲を見る。山賊の開戦の合図がこの商人の殺害であるのなら、未だそれは鳴っていない。
 突然現れた7歳のガキを、大の大人が取り囲んで様子を窺っている。全員が警戒している。商人も、山賊も。
 張り詰めた糸のような時間の中、俺だけが動く。足に力を込める。爆発的な推進力で移動、急停止の為に地面がめくれ上がる。

「いつの間に……!」
「練術――」

 男は折れたサーベルを振り上げる。俺は右腕をガードするように顔の横に持ってくる。振り下ろされた刃の横に滑り込むと、裏拳の要領でそれに気を流し込む。

「――一刀砕き」
「なにぃ!?」

 俺は更に他の山賊のサーベルを砕く。全部で五人の武器は破壊した。武器持ちの山賊も残り五人。
 無力化された山賊を認識した商人たちは、慌てて棒を手に持った。開戦の合図は刃を砕く音になった。無力化されたとはいえ山賊は容赦がない。商人は死亡することは無くなったものの、怪我は負ってしまうだろう。
 武器を持った山賊たちは俺に襲い掛かる。今一番彼らが警戒するのは俺なのだ。今の内にステラが逃げてくれるだろうか。
 二人が俺の両脇からやって来る。あんなにも苦戦したのが嘘のようだ。彼らの動きが遅く見える。
 容赦なく俺の体を切り裂こうと剣を振るが、既にそこに俺はいない。右側の男の背後に回り込んでその背を蹴る。俺が15歳の時何度もトーキさんにされたように、その体が物凄い勢いで地面に突き刺さる。

「練術」

 次いで俺はもう一人の男の腕を掴む。俺を引き寄せようとするが、俺の体は動かない。逆にこっちに引っ張ると面白いくらいの勢いで飛んでくる。その勢いを利用してグルグル振り回してから、またも地面に叩き付ける。
 さっきの男の横に、同様に突き刺す。獲れ過ぎた根菜を土の中で保存するときのような気分だ。

「土中保存……なんちゃて」
「このガキがぁぁぁああ!!」

 更に山賊が俺に襲い掛かる。正面から二人。横に避けるか、跳んで避けるか。選択肢は多い。
 片方の男をその刃ごと蹴り砕く。跳び蹴りから一転、男の胸を蹴り、もう一人の男の後頭部を蹴りつける。俺の前後にそれぞれの体は吹っ飛んでいき、地面に埋もれている。
 練術は7歳の俺の攻撃力を大幅に向上させている。むしろ攻撃力のみに限れば、威力の向上は簡単な技術だ。15歳の時にトーキさんが、いかに手加減して俺を殴っていたのかがわかった。殺すほどの威力を出さないように俺もかなり手加減している。

「これで全員無力化か……ステラはどこだ」

 俺は辺りを見回す。武器を失った山賊たちが力ずくで商人を襲っているので、それぞれ地面に埋めて無力化する。怪我を負った人は多いようだが、重傷と言うほどでもない。これで彼らを救えただろう。
 だがステラが見当たらない。テントをめくり、中を覗くがどこにもあの少女の姿がない。胸騒ぎがする。嫌な予感を覚えると共に背中にひやりと汗が流れる。
 周囲の商人に聞きまわるも、パニックの中でその姿を見た者はいない。やり直して確認するべきか……!? いや、でも同じことを繰り返しては意味がない! 周りを落ち着いて見なければ。傷付いた商人、壊されてしまったテント、荒された荷物。そして俺が無力化した山賊が全部で九人。……九人?

「一人いないぞ……!」

 無力化していない山賊が一人、どこかにいる。ここにいないステラとその父親、未だ武装した山賊。嫌な予感が形になっていく。
 最後に男を見かけたのはキャンプから離れたテント前。そこに少女が隠れていた可能性は高い。彼女を連れ去った山賊と、それに気付いた父親が彼女を救うべく追いかけたか。山賊が子供を抱えて逃げるとするならどの道を通るだろうか。
 テントの横に来て気付く。山の中に続く草場が踏まれて萎れている。この先で間違いないはずだ。
 俺は木の枝に飛び乗ると、その後を追いかけて進んでいく。夜の闇に溶けているとはいえ、木の上からなら彼らの進んだ形跡が十分見える。かなりの距離を彼らは移動している。移動に時間を費やしたのなら、まだ最悪の事態になっていないのかもしれない。
 木々が開けて池が現れる。

「お願いします! 娘を解放してください!!」

 ……いた。ステラの父親だ。彼が懇願する視線の先、池を背にした山賊がステラの首にサーベルを当てている。追い詰められてやぶれかぶれに少女を攫ってここまで来た、という状況か。悪党ってのはいつの時代もやることが似たようなものだ。
 心の中で冷静にそう思う一方、頭が沸騰しそうなほどの怒りの感情が胸の内から押し寄せてくる。

「俺たちは終わりだ! あのよくわからねえガキに滅茶苦茶にされちまった!!」
「お願いします、お願いします……!!」

 俺のせいだとでも言うつもりか、こいつは。怒りによって気の増幅が抑えられない。練術はこの状態で使うべきではないと、トーキさんは言っていた。加減が出来なくて事態を悪化させるかもしれないからだ。
 深く、深く呼吸をする。落ち着け、チャンスは一度。とはいえ俺にはやり直しの力がある。落ち着いて彼女を救え。

「終わりだ! だからテメエも終わらせてやらぁあああ!!」
「うわあああああ!!」

 俺は木を蹴って山賊の元へ飛び出す。と、同時に山賊がステラに向けて剣を振りかぶる。彼女を救うべく一心不乱に声を上げながら、彼女の父親が特攻していく。
 空中で向きは変えられない。飛び出してしまった俺は父親の勇気を計算に入れていなかった。このままではマズイ……! 彼に攻撃してしまう!
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