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037 砂漠の村の異変
しおりを挟む『ランク6ギルドメンバーの捕獲。報酬:応相談。条件:突如として暴れ、市民を襲った冒険者、アスラを捕えよ』
街を見て歩く。一部騒然とした雰囲気で、話を聞くとアスラと言う男に襲われたという。幸い命に別状はないらしいが、襲われた人数が多い。40人。それだけの人数が命は奪われていないとはいえ血を流したのだから、その辺りに血痕が残っているのは何ら不思議ではなかった。
俺たちは情報を集めながら、商業エリアまでやってくる。ステラはどうやら外に出ているらしく姿は見えなかった。
「ランク6ってどのくらい強いんだろう……」
「ソリスが5。僕が4。冒険し始めたリドゥが3。戦力的には申し分ないと思うけど、いまいち僕らもわかんないんだよね」
俺とルーンが呟くのを、ソリスはにこやかに通り過ぎていく。
俺たちは今、彼女が冒険の支度として色々買っているのを眺めている。どうやらアスラは人を襲った後砂漠の方へ逃げていったらしく、俺たちは再び砂漠へ戻らなければならない。つい先ほど帰って来たばかりだというのに……。
「リドゥは聞いたかい? アスラって男の噂」
「いや、聞いてない。どんな?」
「アスラは女神の声を聞いたことがある、だってさ」
「それは……!」
女神の声を聞くということは、一般人から何かしらの能力が秀でた存在。つまり、ソリスと同程度の実力者ということじゃないか。俺たちで勝てるのか一気に不安になる。
どうりでソリスが楽しそうにするわけだ。彼女の超人的な勘はそれを察知したのか。
ソリスが粗方準備を終えると、俺たちは再び引きずられながら砂漠へ行く。砂漠には他のギルドメンバーも集まっており、俺たちと同じく緊急クエストの為に出て来たらしかった。
暑い。とにかく暑い。
「二人はなんでそんなに平気そうなんだ……」
「修行で慣れたから?」
「魔法で冷やすから?」
「……ルーンずるいぞ!!」
ルーンが苦笑交じりに魔法をかけてくれる。よし、これで幾分マシだ。彼曰く、アキナイ商団やステラにはずっとかけていたらしい。もっと早く言ってくれ!
「さって、探しに行くわよーっ!」
元気に手を上げるソリスに、俺たちは諦めてついていくことにした。
砂漠は広い。だが犯人が逃走してからそう時間は経っていないらしく、わかりやすい足跡が残っている。
他の冒険者が我先にと進む中、意外なまでにゆっくりとソリスは歩を進めていた。
「ソリス、先に追い越されてるけどいいのか?」
「いいのよ、ほら」
ソリスが指を差す。その先に足跡は二手に分かれている。冒険者たちはそこで二つに分断されていたが、右の道を進んだ者たちがボスワームに襲われている。つまり罠だったのか。
「まあね。けど正解は右ルートよ」
「え? なんで……」
そう言っていると今度は左ルートの先で爆発が起きた。……あれも罠なのか。
何故それでも右ルートが正解なのか俺にはわからない。
「人為的に仕掛けた罠と自然を利用した罠には大きな意識の差があるのよ。左は魔法か何かで地雷を設置したタイプ、右はモンスターの住処をあえて通らせるタイプ。後続の私たちは、左ルートの魔法の方が手がかかっている分、その先にいそうと判断できるわよね?」
「あー……まあ確かに」
ソリスは続ける。
「私がもし逃亡しているなら、更にその裏を取って右ルートに進むわ。とにかく自然を利用しながら厄介な方に逃げていく方がいいに決まっているもの。ま、最終的には勘だけどね」
ソリスの場合、勘で決めてから理由付けをしていそうだ。後ろを付いてくるルーンならもっと納得のいく説明をしてくれそうなものだが、今回の件に関して彼は特に見当があるわけではなさそうだった。
更に三人で進む。冒険者たちも途中からソリスについていけば比較的安全なことに気付いたらしく、ぞろぞろと人が並び始める。
先頭を行くソリスが現れる魔物を瞬殺する。俺たちの出番はしばらくなさそうだった。
進み続けると、廃墟と化した村が現れる。砂漠のど真ん中に、村……。
「水が取れるみたいだね。ほら、井戸があそこに。リドゥなら水脈を感知できるんじゃない?」
「やってみる」
俺は目を閉じて集中する。数十メートル下の方まで意識を伸ばす。成程確かに水の流れを感じられる。
俺なら、とルーンは言うが、彼も練術を使えるのなら同じことが出来そうだが。
「僕は練術の才能はないんだ。基礎の基礎だけ出来て、後はトーキさんに埋められるだけの修行をしてた」
ああ、と苦笑する。あの鬼婆師匠はとにかく練術の戦闘を叩き込んでくる。そして俺の体も地面へと叩き込んでくる。
「この破壊のされ方は……モンスターね。しかも結構最近だわ」
「結界を張っていたらしいけど破壊されてるね。誰かが意図的に結界を壊して、魔物に村を破壊させた、っていうのが直感的な事件の概要だけど」
俺たちは荒らされた村へ入る。ギルドメンバーたちが家屋を漁り、金品の類を持ってくると、ソリスが彼らを殴りつけた。滅ぼされた村とは言え、強盗のようなことは許すべきではない。ソリスの正義感が窺い知れた。
しかしそう言った金品の類が村に残されているのは不思議だ。誰かが意図して結界を破壊したにせよ、目的があったと思われる。それが金品ではない……。
死体はないのに血が飛び散った跡があり、明らかにモンスターによって破壊された家屋などが目に付いた。
「リドゥも良い推理をするようになってきたんじゃないかな。そう、この村は不審な点が多い。物が残りすぎていること、人は全員いなくなっていること……ただしここで殺された形跡はある。アスラと言う男が犯人か、あるいは……」
「あれは……?」
村の反対側にやって来る。砂漠とはいえ地面は当然あり、硬い土もある。それが一度掘り返され、盛土か埋め直されたようなものが広がっている。
村の様子。なかった死体。何かを埋めた後の群れ。これは……。
「墓、だね……」
気を探る。穴の中に生き物はいない。ただそこに力の残滓のようなものだけがあり、それが元は生きていた人間の気の残り香だと気付いた時、俺は胸の奥が締め付けられるような気分になった。
軽く50は越える墓のようなもの。それを全て埋めた物がいる。
「アスラはこの村の出身だったんだよ……アイツ、こんな悲劇を隠してやがった……」
ギルドメンバーの一人が呟く。
呟いた彼にソリスが詰め寄る。
「どういうこと? 教えなさい」
「アスラは……村を少しでも良くしようとギルドに所属していたんだ。村と外部を繋ぐのは彼だけだったから、村の様子をいつも彼から聞いていた……。それが数日前にピタリとなくなって、そしたら今日アスラが人を襲ったって」
「アスラは村が壊滅したのを知って茫然自失になっていた……? それで自棄を起こして市民に危害を加えた……」
ルーンが推理する。しかし、彼の言葉を聞いたアスラを知る男は必死に否定する。
「アスラはそんなことする奴じゃない! 村の為に、人の為にいつも頑張っていた男なんだ! 今回の緊急クエストも何かの間違いだって……思って……」
彼の近くにいた数名のギルドメンバーが同様に頷く。彼らの表情は悲痛を物語っている。
アスラと言う男はかなり慕われていたらしい。そんな彼が事件を起こしたと聞いて、信じられなくてここまでやってきたということだった。
一同が神妙な空気になった時、それは訪れる
「! 何かが近付いてくる!」
俺の警戒範囲に敵意を持った人間が近付いてくる。村から墓を見て更に向こう。両手に武器を携えた男のような姿が、ゆらりと揺れながらこちらへ向かって来る。
ソリスがじっとそれを見つめて報告する。
「ターバンを巻いた半裸の男。褐色の体には民族模様……かしら。ターバンの隙間から暗い青の髪が見える……」
「アスラだ! アスラが村の様子を見に帰って来たんだ」
ギルドメンバーが叫ぶ。その表情には笑顔が浮かんでいるが、明らかに場違いだ。
アスラの気は憎悪というか、敵意というか。とにかくそういった悪いものを纏っている。笑顔の彼が期待するような状況ではない。
「いや、逃げるぞ! アスラはまともな精神状態じゃない!」
「大丈夫だ、アスラは俺たちを何度も救ってくれた英雄なんだ!」
「……!」
英雄。
その言葉に俺は息を呑む。胸の奥が揺れる。俺の憧れた姿。人々を救い、誰からも尊敬される姿。
アスラは英雄だったんだ。それが今は……。
「アスラ、俺だ! 事情があったんだろ! 全部聞くから、俺たちが今度はお前を助けるから」
「ダメだ!!」
俺の目にも視認できた。アスラが両手の武器を腰に携える。
ギルドの男が彼に向かって駆け寄ると、英雄と呼ばれた男は担いでいた弓を構えた。
「なんでも話してくれ。俺たちはアスラに救われたんだ! 頼む、俺たちに――」
「逃げろおおおおお!!」
弓が赤く輝く。俺は出来る限りマントを広げる。コマ送りのように世界が見える。
ソリスが飛び出すのが見えた。ルーンが既に結界を張っている。冒険者たちは何が起きるのかわからず、ただ立ち尽くしている。
「――お前を救わせてほしい」
男の声が聞こえたと同時に、爆音と衝撃が俺たちを襲う。
数秒後、そこには大きな火柱が上がっていた。
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