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038 戦闘アスラ、情報を掴め
しおりを挟む皆が一斉に咳き込む。まずい、熱波を吸い込んでしまったのか……!
「アイスストーム!」
氷魔法が俺たちを覆う。空中に浮かんだ無数の氷が一瞬にして溶けていく。その後一陣の風が通り過ぎていく。
空気が冷え、風により大部分の熱はどこかへ押し退けられたようだった。
俺はマントから手を離し周囲を見回す。防火のマントによって炎は四方へ散っていったようだった。ルーンの結界もあり、ギルドメンバーたちに被害はないように見えるが、肺が焼けた者が数名いるかもしれない。
「ルーン、彼らを任せていいか!」
「ああ、回復魔法をかけておく!」
彼の返事を聞きつつ、俺は走る。砂が吹き飛んでおり、地面が露呈している。そのどれもが焼け焦げたような跡を残しており、どれほどの威力が放たれたのかがわかる。
アスラに向かって走っていた男がいたはずだ、彼の姿が見えない。
「リドゥ! 受け取りなさい!」
上空からソリスの声。直後落下してくる男性。足が焼けただれている。しかしそれ以外は思ったほど重傷は負っていない。恐らくソリスが彼を救ったんだ。
当の彼女は長い跳躍から着地すると剣を構えてアスラへと向かっていく。マントが焼け焦げボロボロになっているが、彼女自身に傷はなさそうだ。
再び弓矢が輝く。今度はソリスを狙っており、察した彼女は俺たちへ流れ弾がいかないように大きく旋回しつつ距離を詰め始める。またも火柱が起きる。炎を突き破ってソリスが飛び出す。
ええええ……何故無傷なんだ、ソリス……。
「はああああああ!!」
彼女が剣を振る。しかし男が後方に跳躍し、それを避ける。しかも避けつつ矢を放っている。今度の光は雷撃魔法。
ソリスはそれを上に弾くと、その魔法を剣で絡めとる。相手の雷撃魔法を剣に纏わせたのだ。
アスラの着地を狙ってソリスが斬り込む。いつの間にか弓から二刀に持ち変えていた男は、空中で身を翻し彼女の剣を受け止める。地上から斬り込むソリスと、その剣で逆立ちするように男が鍔迫り合いになっている。
あまりにレベルが違い過ぎる。俺の入り込む隙がない。
「アンタ、英雄だったんでしょ! 何があって人を襲ったのよ!」
「……」
男は答えない。体勢を逆立ちからグイと捻り、彼女の右肩に蹴りを入れる。恐ろしい程の体幹と人間離れした攻撃に、俺は息を呑む。
ソリスが吹き飛ばされ、砂に剣を突き立てて勢いを殺す。アスラが目の前に迫っている。
アスラの剣は半月刀だ。刃が半月のように曲がっており、通常の剣より間合いがわかりづらい。それを両手で振り下ろすと、ソリスが刃で受け止める。
互いの剣から火花が散る。
「ライトニング!」
ルーンの雷撃が二人を襲う。同時に二人が避け、稲妻は砂に飲み込まれてしまう。ルーンの方を振り向くと、顎をくいと向けられた。俺にいけと言っている。
そうだ、俺たちは三人なんだ。数の利を活かせなくてどうする。
「練術……!」
気を集めて自分のものにする。身体能力が大幅に向上し、跳び退いた男の着地地点へと駆けていく。
アスラがこちらに気付き、弓をつがえている。いつの間に持ち変えているんだ……!
極限状態に陥った俺は動きがスローになった感覚になる。アスラが俺の歩の先を見ている。完全に狙いを付けられてしまっているんだ。俺はソリスのように高速でかく乱することが出来ない。ましてや砂の上だ。その足取りは通常よりも更に重くなっている。
足が勝手に進んでいく。アスラの弓が放たれる。避けられない。だが、全力の練術を右手に集中させる。
「リドゥ!!」
気が増幅されると攻撃力は当然のこと、ちょっとした鎧のように防御力も増加する。アスラは矢を放つ。流石に高速で刀から弓に持ち変えたとはいえ、そこに魔法を乗せるほどの余裕はなかったらしい。
俺の胸を矢は貫いた物の、そこにそれ以上の威力はなかった。
「ぐ……がはッ!」
血を大量に吐き出す。ルーンがこちらを見ており、ソリスは怒りに目を赤くして剣を振っている。
急激に意識が遠のいていく。目線を下げると、ただの矢のはずなのに体の前面が吹き飛んでいる。このままじゃヤバイ。失敗した! やり直せ!
光が溢れる。
「リドゥ!!」
矢が放たれている。相変わらず体は極限状態らしく、スローな世界で全てが見えている。足は言うことを聞かないが、右手は多少ならスローな世界に対応している。
俺は右手を突き出し、この胸に飛んでくる矢を――掴んだ。
「っ!」
アスラが一瞬目を見開く。着地と同時に剣を構え直している。その隙に俺はアスラへと到達する。
「今度はお前が矢をくらえ!」
俺は男の鳩尾へ向けて、矢を握ったままの右手を振る。もうすぐ届くかと言う一瞬手前、男が体をねじり曲げて回避する。
さっきソリスを蹴った時もそうだったが、この男の体が異常に柔らかい。
避けられた後、俺は顎を思いきり蹴り上げられたらしく、後方へ景色が流れていく。
「くそ……!」
見ると右手が流血している。矢を受け止めただけなのに一体どういうことだ……! しかも練術で防御力も上げていたというのに! さっき体に受けた時もそうだったが、ただの矢なのに威力が桁違いだ。
これが女神の声を聞いた男の攻撃なのか……!
ソリスが再び斬り込んでいる。男が跳び避け、追撃を二刀で弾く。更に彼女が斬り込むのをかわし、反撃まで行う。ソリスも回避しつつ、両手の攻撃を一本の剣で処理していく。
俺は動きを追うので精いっぱいだ。
「リドゥ、目に練術を使うんだ。君は目が良いから今まで素の視力で戦ってこれたけど、これにはもう付いていけないだろ」
「そ、そうか。その手があった」
練術を目に集中する。先程より情報処理が早くなり、全ての攻撃と動きを目で追えるようになる。これならもう少し戦える。
俺はもう少し自然エネルギーを集めて己の気へと変換する。あまり集めすぎると暴発するかもしれないが、今はそれでなければ付いていけない。
「練術――」
ソリスが斬り込み、ルーンが魔法で牽制すると、男が跳び退きつつルーンに矢を放った。次いで俺にも矢を放つが、ルーンは魔法でそれを焼き尽くし、俺は向上した身体能力でかわしきる。
狙うは着地だ。男は跳んで回避する傾向にある。ジャンプ力がかなりある為、毎回相当な距離を追いかけなければならない。
しかし今度も着地に追いつく。俺とソリスが両側からアスラに追いついた。
アスラは両手の半月刀でそれぞれを斬る。ソリスがそれを受け止めると、彼女の足が数センチ砂に埋もれる。恐ろしい程の衝撃だ。
俺はかわしも受けもしない。とにかく刀の軌道を目で追う。それが俺の左肩を斬り破ると、強烈な痛みが襲い掛かって来る。
「……?」
「リドゥ、なんで避けないの!」
ソリスが怒鳴り、男が不気味なものを見るようにこちらを見る。俺は思わず頬を引き上げて笑う。
二人の感情の揺れが、大変愉快なものに見えたのだ。
「情報は得たぞ……!」
光が溢れる。
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