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046 因縁の相手
しおりを挟む「あのねぇ! アンタねぇ! あんなもんで油断してんじゃないわよ! ねぇ!?」
ソリスの声が降り注ぐ。村では雷は天の恵みとして捉えられ、稲穂を実らせる為に必要だとして、有難いものとさられていた。だから村育ちの俺としても、その轟音や眩い光はそれ程怖いものという印象はなかった。今の今までは。
「バッカじゃないの! ほんと、バッッッッカじゃないの!!?」
その怒声、雷鳴轟くが如し。その眼光、雷光炸裂するが如く。
雨の降らない日にあれほど待ち望み、乞い仰ぎたもうた雷は、もはや恐怖の対象でしかなく。
今、俺は地面の上に正座させられてその怒号を浴びていた。
「すみません……此の方大変思春期なものでして。不純な欲の芽生える年頃につきまして、ひいてはその欲に逆らえぬ年の頃でありまして」
「はぁ!?」
「いえ、すみません」
丁寧に話したつもりだったが火に油を注いだようだった。隣ではいつの間にか帰ってきたルーンが俺の様子を見てニヤニヤしている。
おいなんだ、さっきは焼け石に水でしかなかった男が何ニヤついている。ルーンが水を注いだように俺は油を注いだぞ。言うなれば水と油。俺とお前は相容れないんだあっちいけ。
「ふっ……くく……! ソリスに怯えたリドゥは面白いねぇ~」
「冗談じゃないよ……! 俺をからかってる暇あったらソリスを抑えてくれよ!」
「ああそれは無理だよ」
早口にそう言うとルーンはふいと向こうを向いた。やはり水と油。所詮そんなもんだと思ったよ!!
しばらくソリスは怒鳴り散らした後、ようやく落ち着いてらしく。
「……次、アンタの因縁の相手なんでしょ。負けたら承知しないから」
と、目を合わさずに言ってくれた。
俺は苦笑しつつ立ち上がり、彼女の突き出す手に自分の手を重ねた。
しれっとルーンもその手を重ねる。次ルーンが怒られてる時、絶対助け舟出さないからな。
「行ってきなさい! 負けんじゃないわよ!!」
「ああ!」
「いってらっしゃ~い」
二人に見送られて俺は演習場の中心へと歩む。
ブリーが既に俺を待ち構えていた。その体躯は俺よりも遥かにデカく、180には満たないだろうが相当デカい。昔は太っていた体系も冒険者を三年も続ければ引き締まったらしく、それなりの体格になっていた。
奴はこちらを見る。その眼光は先のソリスに負けず劣らず鋭く、昨日とは比べ物にならない程何か負の感情を俺にぶつけている。
昨日殴り飛ばしたのが相当頭に来ているのか……? それにしても、この目どこかで見た気が……。
「リドゥール……てめぇは俺が、必ず……」
「……」
ブリーが低く呟くように告げる。筋肉が隆起し、浮いた血管がぴくぴくと震えている。
俺の方はというと、昨日こいつを殴り飛ばしたおかげか、以前のトラウマのような震えはほとんどない。
三回戦。とは言え相手はブリーだ。俺の感情のコントロールがきちんと出来るまでは剣を抜かないようにする。誤って大怪我を負わせるのも、増してや殺してしまってはいけない。
ブリーが大きなハンマーを構えると、ギルドの職員が俺たちを見て頷いた。
「はじめ!!」
開始の合図。同時にブリーが地面を叩いた。
大きく土が捲れ上がり、砂埃によって姿が見えなくなる。あいつ、怒り狂ったように見えて意外と冷静な行動を取って来る……!
だが視界が塞がれたところでそれは奴も同じ。俺は元居た場所をすぐに移動し、砂埃から逃げようと走る。
しかし。
「うらァッ!!」
「なにィ!?」
ブリーの大槌が俺の正面からやって来る。俺は諸に直撃してしまい、大きく吹き飛ばされる。
地面に何度も打ち転がされていると、駆け寄る足音が聞こえる。追撃が来る。
俺は慌てて立ち上がるが、衝撃により脳が揺れていたようでクラリと膝から力が抜ける。ブリーが次は俺の脇腹を思いきり吹き飛ばした。
「ぐっ……おえぇぇ!!」
肋骨が折れた。強すぎる衝撃で血を吐く。
剣を抜いていなかった、練術を使っていなかった。だけど油断していたわけじゃない。それでこんな窮地に立たされている。
俺は本気で戦わなければならない。ブリーは力を抜いて勝てる相手じゃない。
「リドゥールァァア!!!」
「やり直すぞ、俺は!!」
走り寄って来るブリーを背景に、俺は画面を表示させる。
光が溢れる。
「うらァッ!!」
正面から大槌が迫る。俺はそれを避けると即座に剣を抜き、手元と思われる方向へ斬り込む。
流石に距離を詰めれば、砂埃の中でもブリーの姿を捉えられる。俺が剣を振ると、奴は肩の装備でそれを受けた。
鉄が入っているのか! 俺の手に痺れが伝わる。
「リドゥールァァア!!!」
ブリーは大きくハンマーを振るが、この動きなら読める。
俺が回避行動を取ろうとした瞬間、奴は右足を突き出し、蹴りを繰り出してくる。
「!?」
咄嗟のことに驚いてしまい、動きが止まる。ダメだ、避けろ!
右足を避け、更に後方へ跳ぶ。しかし距離が稼げなかった。再び砂が舞い上がり、砕けた土が俺を襲う。
俺は顔面を腕で覆い礫を防ぐが、痛みで顔をしかめてしまう。ブリーをまた見失う。
「くそ……! どうする……!」
ブリーは意外と素早く動く。周囲を覆われてしまった俺は完全に格好の的だろう。
あいつは、どうやっているのか分からないが俺の位置を捕捉している。今もきっとどこからか襲い掛かろうと狙っているのだろう。
俺は目を瞑り、耳に意識を向ける。
音だ。音を聞き分けろ。あいつの音が聞こえた瞬間動かないと、恐らく今の俺では間に合わない。
「!!」
ざり、と右の方から砂を踏む音が聞こえた。俺はすぐにそちらの方を向き、剣を振る。
しかし空振る。直後俺の左方から大槌が迫る。
「なにぃぃぃいい!?」
こいつ、俺の行動を読んでフェイクまで……!
剣で正面から受ける。火花が散る。手が痺れて一瞬だけ力が抜ける。その隙を突いて奴の大槌がグリグリとこちらに迫る。押し負けている、完全に!
だが剣術は押し勝つことだけが技ではない。ソリスに教えてもらったことを思い出せ。ネメアの攻撃を避けた時のことを思い出せ。力に対して真っすぐぶつけるんじゃない。受け流せ!
俺は大槌に刃を滑らせると、そのまま奴の武器を地面へ叩き付ける。
「こいつ……!」
「俺の勝ちだ、ブリー!!」
地面へ叩き付けられた大槌はすぐには動かせない。俺は勝利を確信した。
奴の装備の硬そうな部分へ刃を滑らせる。殺すことも怪我させることも目的じゃない。こいつに負けたと思わせればいいんだ。装備を破壊出来れば十分だ!
余裕すら感じる数瞬の中で俺は奴と目が合う。赤く血走った目、頬。血管が浮いて明らかに異常な状態に見える。瞳の奥に破壊衝動と理性の崩壊を感じる。そうだ、この目は。
この目は。
「アスラと同じ――」
そう気付いた直後、黒いオーラがブリーの体から噴き出した。
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