Re Do 〜やり直しの祝福を授かった俺は英雄を目指す人生を歩みたい。あわよくば勇者より先に魔王を倒したい〜

アキレサンタ

文字の大きさ
47 / 92

046 因縁の相手

しおりを挟む

「あのねぇ! アンタねぇ! あんなもんで油断してんじゃないわよ! ねぇ!?」

 ソリスの声が降り注ぐ。村では雷は天の恵みとして捉えられ、稲穂を実らせる為に必要だとして、有難いものとさられていた。だから村育ちの俺としても、その轟音や眩い光はそれ程怖いものという印象はなかった。今の今までは。

「バッカじゃないの! ほんと、バッッッッカじゃないの!!?」

 その怒声、雷鳴轟くが如し。その眼光、雷光炸裂するが如く。
 雨の降らない日にあれほど待ち望み、乞い仰ぎたもうた雷は、もはや恐怖の対象でしかなく。
 今、俺は地面の上に正座させられてその怒号を浴びていた。

「すみません……此の方大変思春期なものでして。不純な欲の芽生える年頃につきまして、ひいてはその欲に逆らえぬ年の頃でありまして」
「はぁ!?」
「いえ、すみません」

 丁寧に話したつもりだったが火に油を注いだようだった。隣ではいつの間にか帰ってきたルーンが俺の様子を見てニヤニヤしている。
 おいなんだ、さっきは焼け石に水でしかなかった男が何ニヤついている。ルーンが水を注いだように俺は油を注いだぞ。言うなれば水と油。俺とお前は相容れないんだあっちいけ。

「ふっ……くく……! ソリスに怯えたリドゥは面白いねぇ~」
「冗談じゃないよ……! 俺をからかってる暇あったらソリスを抑えてくれよ!」
「ああそれは無理だよ」

 早口にそう言うとルーンはふいと向こうを向いた。やはり水と油。所詮そんなもんだと思ったよ!!
 しばらくソリスは怒鳴り散らした後、ようやく落ち着いてらしく。

「……次、アンタの因縁の相手なんでしょ。負けたら承知しないから」

 と、目を合わさずに言ってくれた。
 俺は苦笑しつつ立ち上がり、彼女の突き出す手に自分の手を重ねた。
 しれっとルーンもその手を重ねる。次ルーンが怒られてる時、絶対助け舟出さないからな。

「行ってきなさい! 負けんじゃないわよ!!」
「ああ!」
「いってらっしゃ~い」

 二人に見送られて俺は演習場の中心へと歩む。
 ブリーが既に俺を待ち構えていた。その体躯は俺よりも遥かにデカく、180には満たないだろうが相当デカい。昔は太っていた体系も冒険者を三年も続ければ引き締まったらしく、それなりの体格になっていた。
 奴はこちらを見る。その眼光は先のソリスに負けず劣らず鋭く、昨日とは比べ物にならない程何か負の感情を俺にぶつけている。
 昨日殴り飛ばしたのが相当頭に来ているのか……? それにしても、この目どこかで見た気が……。

「リドゥール……てめぇは俺が、必ず……」
「……」

 ブリーが低く呟くように告げる。筋肉が隆起し、浮いた血管がぴくぴくと震えている。
 俺の方はというと、昨日こいつを殴り飛ばしたおかげか、以前のトラウマのような震えはほとんどない。
 三回戦。とは言え相手はブリーだ。俺の感情のコントロールがきちんと出来るまでは剣を抜かないようにする。誤って大怪我を負わせるのも、増してや殺してしまってはいけない。
 ブリーが大きなハンマーを構えると、ギルドの職員が俺たちを見て頷いた。

「はじめ!!」

 開始の合図。同時にブリーが地面を叩いた。
 大きく土が捲れ上がり、砂埃によって姿が見えなくなる。あいつ、怒り狂ったように見えて意外と冷静な行動を取って来る……!
 だが視界が塞がれたところでそれは奴も同じ。俺は元居た場所をすぐに移動し、砂埃から逃げようと走る。
 しかし。

「うらァッ!!」
「なにィ!?」

 ブリーの大槌が俺の正面からやって来る。俺は諸に直撃してしまい、大きく吹き飛ばされる。
 地面に何度も打ち転がされていると、駆け寄る足音が聞こえる。追撃が来る。
 俺は慌てて立ち上がるが、衝撃により脳が揺れていたようでクラリと膝から力が抜ける。ブリーが次は俺の脇腹を思いきり吹き飛ばした。

「ぐっ……おえぇぇ!!」

 肋骨が折れた。強すぎる衝撃で血を吐く。
 剣を抜いていなかった、練術を使っていなかった。だけど油断していたわけじゃない。それでこんな窮地に立たされている。
 俺は本気で戦わなければならない。ブリーは力を抜いて勝てる相手じゃない。

「リドゥールァァア!!!」
「やり直すぞ、俺は!!」

 走り寄って来るブリーを背景に、俺は画面を表示させる。
 光が溢れる。

「うらァッ!!」

 正面から大槌が迫る。俺はそれを避けると即座に剣を抜き、手元と思われる方向へ斬り込む。
 流石に距離を詰めれば、砂埃の中でもブリーの姿を捉えられる。俺が剣を振ると、奴は肩の装備でそれを受けた。
 鉄が入っているのか! 俺の手に痺れが伝わる。

「リドゥールァァア!!!」

 ブリーは大きくハンマーを振るが、この動きなら読める。
 俺が回避行動を取ろうとした瞬間、奴は右足を突き出し、蹴りを繰り出してくる。

「!?」

 咄嗟のことに驚いてしまい、動きが止まる。ダメだ、避けろ!
 右足を避け、更に後方へ跳ぶ。しかし距離が稼げなかった。再び砂が舞い上がり、砕けた土が俺を襲う。
 俺は顔面を腕で覆い礫を防ぐが、痛みで顔をしかめてしまう。ブリーをまた見失う。

「くそ……! どうする……!」

 ブリーは意外と素早く動く。周囲を覆われてしまった俺は完全に格好の的だろう。
 あいつは、どうやっているのか分からないが俺の位置を捕捉している。今もきっとどこからか襲い掛かろうと狙っているのだろう。
 俺は目を瞑り、耳に意識を向ける。
 音だ。音を聞き分けろ。あいつの音が聞こえた瞬間動かないと、恐らく今の俺では間に合わない。

「!!」

 ざり、と右の方から砂を踏む音が聞こえた。俺はすぐにそちらの方を向き、剣を振る。
 しかし空振る。直後俺の左方から大槌が迫る。

「なにぃぃぃいい!?」

 こいつ、俺の行動を読んでフェイクまで……!
 剣で正面から受ける。火花が散る。手が痺れて一瞬だけ力が抜ける。その隙を突いて奴の大槌がグリグリとこちらに迫る。押し負けている、完全に!
 だが剣術は押し勝つことだけが技ではない。ソリスに教えてもらったことを思い出せ。ネメアの攻撃を避けた時のことを思い出せ。力に対して真っすぐぶつけるんじゃない。受け流せ!
 俺は大槌に刃を滑らせると、そのまま奴の武器を地面へ叩き付ける。

「こいつ……!」
「俺の勝ちだ、ブリー!!」

 地面へ叩き付けられた大槌はすぐには動かせない。俺は勝利を確信した。
 奴の装備の硬そうな部分へ刃を滑らせる。殺すことも怪我させることも目的じゃない。こいつに負けたと思わせればいいんだ。装備を破壊出来れば十分だ!
 余裕すら感じる数瞬の中で俺は奴と目が合う。赤く血走った目、頬。血管が浮いて明らかに異常な状態に見える。瞳の奥に破壊衝動と理性の崩壊を感じる。そうだ、この目は。
 この目は。

「アスラと同じ――」

 そう気付いた直後、黒いオーラがブリーの体から噴き出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...