Re Do 〜やり直しの祝福を授かった俺は英雄を目指す人生を歩みたい。あわよくば勇者より先に魔王を倒したい〜

アキレサンタ

文字の大きさ
51 / 92

050 ステラとクエスト、マージベア

しおりを挟む

「リドゥ、一人で来てくれたの」

 待ち合わせ場所は街の門の前。先に付いて待っていた俺に、ステラが声を掛けた。
 ターバンにマントに、懐のゆるい服。砂漠の時でも街の中でも、彼女の服装は変わらないらしかった。

「うん。俺の名前しか書いてなかったから、ルーンが一人で行って来いってさ。やっぱり二人を連れてきた方が良かった?」
「ううん。リドゥだけがいい」

 そういうとステラは薄らと口の端を緩めた。基本的に無表情から変わらない彼女だ。少しの表情の変化を見逃すわけにはいかない。
 多分軽く微笑んでいるのだと思う。
 俺は彼女の背にある大きなリュックを見ると、声を掛ける。

「ステラ、それ持つよ」
「ありがとう。でも大丈夫。リドゥは戦うことが多いかもしれないから、身軽でいてもらった方がいい」
「そっか」
「そう」

 頷くと、ステラは荷物を探り、地図を取り出した。今回の目的地が記載されているようだ。方角は南。山を越え、谷を越え、その奥。二つ目の山にメモが書いてある。鉱石発掘……これが今回の目的だったな。
 兎にも角にも、俺とステラは街を出る。
 道中彼女が俺の剣を見ると、それを見せるように言ってきた。

「前から思っていたけど、この剣はかなりボロボロ。いつから使ってるの」
「ああ、これはソリスに貰ったやつなんだ。なんでも彼女が稽古用に長年使っていたらしくて、捨てるのもなんだかなあって持っていたものを、俺が貰ったんだよ」
「そう……手入れが完璧なのは、ソリスだから」

 そういえば、と俺は思う。剣士にとって、剣ってどの程度の思い入れがあるのだろうか。俺にとってこの剣はソリスのものだから大事にしたいし、彼女が丹念に手入れしてきたのもわかるので、俺も同じように手入れを教えてもらった。
 だけどこの間の戦いで剣が壊れかけているのをソリスに謝った所、あっさりと許してくれた。曰く、長年使ってきたものだからいつ壊れても仕方なかった、とのことで。
 ステラはそれをじっくりと観察してから、刃と柄を指さして告げた。

「こことここが多分もうすぐ壊れる。リドゥは魔術とも剣術とも違う技術を使うから、剣の寿命を大幅に削っていると思う」
「練術のことか。あれ、ステラって俺が練術で戦ってるとこ見たことあったっけ」
「この間のトーナメントは見てた。頑張ってて凄かった」

 その言葉に少し頬が緩む。

「練術と剣術の混合技はまだ上手く使えないんだ。実際その負荷が剣にのしかかってるから、どうにかしたいんだけど」
「知ってる」

 そう言うと、ステラは剣を俺に押し付けてつかつかと先を歩く。大きな荷物を背負ってるのに歩くのが早い。
 何を知っているのか訊ねたが、彼女はそれには答えてくれなかった。
 直に道が山へ入っていき、整備されていない方へステラは進んでいく。そちらの方が近いから、と彼女は言うが……。

「リドゥ、大変なことになった」
「あー……そうだな」

 山中。木々に囲まれた土の上で、ステラがこちらへ引き返してきて俺の背に回り込んだ。
 目の前には黒い巨体。立ち上がれば恐らく俺の倍は高いだろうという姿。

「グルルルラァッ!」

 異常に発達した爪と、真っ赤に光る目。確かマージベアと呼ばれる魔物だ。
 冬には冬眠しており出会う機会の少ないこの魔物は、今の季節、徘徊していることは珍しくもなんともない。獣道を進む中で、どうやらこいつの縄張りに入ってしまったらしい俺たちは、威嚇による歓迎を受けていた。
 俺の背にしがみついたステラがポツリと告げる。

「リドゥ、聞いたことがある。山の中で熊に出会ったら死んだふりをするといいらしい」
「いや、熊だけど。でも多分、死んだふりしても意味ない気がするな……」
「やってみないと分からない」

 そういうとステラは俺の背から手を離し、リュックを下敷きにして仰向けに倒れた。……死んだふりらしい。
 精一杯目をつむり、プルプル震える様子は、可愛らしいが死んだようには見えない。牙を剥いたマージベアも、一瞬その牙を引っ込める程に困惑している。

「ステラ、危ないから少し下がろうか……」
「死んでるから話しかけないで」
「……」

 俺はマージベアと目を合わせる。互いに頷き合うと、ステラから距離を取り向かい合った。
 彼女が見える範囲で出来る限り離れると、マージベアが立ち上がって両手を上にあげた。巨体の影が俺を覆う。
 返す俺も練術を込めた拳を握り、構える。

「グルルルァ!!」
「魔物め! 倒してやるぞ!!」

 マージベアが俺へ爪を振る。……めちゃくちゃ遅い。
 俺もそれに対して拳を振るが、どうにも本気で殴る気になれない。
 熊の手と人間の拳がぺちりとぶつかる。

「…………」
「……グル」
「…………」
「…………」
「……やめとくか」
「……グル」

 暫しの沈黙の後、マージベアがその巨体を下ろし四足でくるりと振り返る。俺とマージベアはステラの元へ戻る。
 熊の魔物は鼻でステラをつつく。

「やめて、私は死んでいる」

 目をつむったまま彼女は空へ告げる。
 もう一度つつく。

「リドゥ、やめて。早く魔物を倒してほしい」
「あー……いや……」

 マージベアが三度目のつっつきをすると、不機嫌そうにステラが目を開けた。

「いい加減にしないと流石の私も怒る。いつ襲ってくるかわからないケダモノなんて、早く倒してくれないと――キャアアアア!!」

 つついていた主を見た彼女は叫びを上げた。まあ、マージベアに対してあの怯えようだったんだ。目を開けて顔面いっぱいにその魔物の顔があれば驚くのも無理はない。
 驚いた彼女が暴れると、魔物の鼻を殴りつける。
 急な衝撃に跳び上がった熊に、俺も慌てて駆け寄り様子を見る。

「だ、大丈夫かマージベア!」
「グルル……」
「そ、そうか。痛くはないけどびっくりしたんだな。ステラがごめんな」
「グルっ!」

 撫でてやると、熊は嬉しそうに声を上げた。

「リドゥ、何故魔物と仲良くなってるの」

 空に向かってステラが言う。
 何故って……。ステラがリュックの上で仰向けになり、プルプル震えている様子に熊も俺も毒気を抜かれてしまったから?
 と、説明するのも何となく面倒くさくなってしまい。

「……なんでだろうなあ」
「襲われないのならそれに越したことはない。無傷で目的地に向かえるのならなんだっていい」

 彼女の言葉に俺と熊は頷く。
 マージベアに守ってもらえたら山だって簡単に超えられそうだ。
 熊にそう言ってみると、了解と言うように頷いてくれた。

「よし、じゃあ行こうかステラ」
「うん。……でも、助けてほしい」

 俺たちは振り返る。そこには巨大なリュックから降りられず、空中に手足をばたつかせるステラの姿があった。
 俺と熊はまた目を合わせて頷き、しばらくそれを眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

処理中です...