81 / 92
080 祝福の使い方
しおりを挟む「フレア!」
「炎装……!」
ソリスがフレアを纏い、飛び出した。
ルーンはその様子を見ながら、早口で俺に伝える。
「見たところ魔族のように見える。僕も文献でしか知らないけれど、魔大陸にいる強力な魔人の一人かもしれない。あの禍々しい魔力からは絶対に逃れられないから、あいつが現れた時点で僕らの負け。だけどあんな奴が結界を超えて頻繁に出入りしているとも考えられない。きっと何か条件があるはずで、多分それは結晶――!」
ソリスの腕が弾け飛んだ。
目を覆いたくなる光景。なのに、ソリスは歯を食いしばって叫び声すら上げない。
「心を疲労させるな、リドゥ。君はやり直しの力を持っているとはいえ、心へのダメージは直らない。治せない傷を負ってはいけないんだ」
悪魔が何かを呟いた。直後、ソリスの体が炎に包まれた。
「ダメだ、時間切れだリドゥ。今聞いたことを僕に伝えてくれ」
光が溢れる。
「相手は魔族かもしれないとルーンが言っていた! 結界を超えるのはあり得ないから発動条件があって、その条件は多分結晶だって!」
「わかった。考えよう」
「それとソリス! 俺の防火のマントを持っていたら羽織ってくれ! アイツはまず火炎魔法を使ってくる!」
「良い情報よ。もう数秒稼げそうね」
悪魔が出てくるまであと二十秒ほど。ルーンが杖を構えたまま思考している。
ソリスがマントを装着する。赤いマントが、彼女の髪とよく合っていた。
「見付けたぞォ、テメェらが結晶を破壊しやがったんだナァ!」
「炎装!!」
再びソリスが悪魔へ突っ込んでいく。
「結晶の破壊に対して言及していることから、結晶を破壊することが僕たちの間違いだったかもしれない。僕の攻撃とソリスのタッグじゃ全く歯が立たない。他の魔法はどうかな……ライトニング! アイスストーム!」
ソリスの腕が再び弾け飛ぶ。ルーンが彼女を援護して魔法を唱えた。
悪魔は大きく手を広げると、魔法陣を出現させてそれを掻き消す。
その隙にソリスは残った手で剣を拾い直すと、またも悪魔へと向かっていく。
「炎、雷、氷は効かない。ソリスにフレアを掛けるのも無駄かもしれない。光魔法を試すように僕に言ってくれ。魔法陣は掻き消しているだけで吸収はされていないらしい。ということは相手も魔法を打ち消すために魔法を使用しているはずだ。今の僕では圧倒的に魔力量が負けているから出来ないけれど、無限に魔法を当てれば相手の魔力を枯渇させることも可能かもしれない」
悪魔は炎を撃ちだし、ソリスを焼く。
しかし防火のマントによってそれが打ち消された。
「アンタはあの連中とどういう関係なのよ!!」
「あァ? 死にかけのガキのセリフにしちゃ随分理性的な質問だナァ。冥途の土産、って奴かァ?」
ソリスが悪魔に刃を立てながら叫んだ。
奴は爪だけで彼女の剣を受け止めると、ニタニタと笑う。
「アイツらには魔炎を集めさせてんだよ。折角溜まった魔炎を無駄に使うわ、転送装置の結晶まで破壊しやがるから、緊急措置で俺まで召喚されてよォ。どうだ、こんなもんでいいか?」
「まだ、話すことあるでしょ……!」
ギリギリと歯を食いしばらせながら、ソリスがちらと俺を見た。
彼女もどうにか情報を残そうとしてくれている。
「あァん? お前のその戦い方、どっかで見たことあんナァ……」
悪魔がポリポリと頭を掻きながら目を瞑った。
その様子を見ていたルーンが俺の近くで囁く。
「魔炎は恐らく魔大陸の方へ転送されている。魔の導きは魔炎を集め、魔大陸に送るのが仕事かもしれない。やはり結晶を壊すのは悪手だ。結晶を壊さない方法は後で相談してくれ。あの悪魔は会話に答えるくらいには僕たちを下に見ている。ソリスに出来るだけ会話するように伝えるんだ」
「そこの白髪のガキも、黒髪のガキになんか伝えてんだよナァ……やっぱ見たことあるよナァ……」
悪魔と目が合う。ゾワ、としたものが背を這いまわると、直感的に俺は画面を取り出した。
「まさかその動き! 情報を集めようとする戦い方! テメェら、転生者か――!」
「リドゥ! 君の力がバレている! 絶対にバレるな!!」
瞬間、悪魔が俺の右手を潰した。いつの間にか傍に立っているこの力。ソリスとの戦いでは如何に手加減していたかが窺える。
俺は悲鳴を上げそうになるが食いしばり、反対の手で画像に触れた。
ああ、歯を食いしばって分かった。さっきソリスが腕を破壊された時も、こうやって我慢していたんだ。
俺の心に、負担を掛けない為に――
「――厄介だナァ! テメェ!!」
悪魔が俺の顔面を掴み、指を食い込ませてくる。ギリギリと嫌な音を立てて骨が破壊されていくのを感じた。
だが間に合っている。
光が溢れる。
「ルーン、ソリス!!」
俺は先程見たものを二人に伝える。
「見付けたぞォ、テメェらが結晶を破壊しやがったんだナァ!」
「らあああああ!!!」
「光撃魔法、サンレイズ!!」
ソリスが斬りかかると同時に、ルーンが光魔法を唱えた。
杖の先から光の筋が襲い掛かる。俺の練術、煌々練波と似ている。
「ブラックウインド!」
そこで初めて悪魔が防御の為に魔法を唱えるのを見た。
メーネも使っていた魔法で、黒い風が目の前に吹き荒れると、ルーンの光魔法が打ち消される。
「ルーン!」
「ああ、光魔法はもしかしたら有効かもしれない。闇魔法を使用して防いだのは初めてだろ? 光魔法はただ打ち消すことは出来ないのかもしれない。ソリスに直接光魔法を使ってもらうのがいいかもしれないけれど、僕たちはまだ光魔法を剣に纏わせる技術はないんだ」
「アンタ、一体何者よ!!」
ソリスが赤い剣を振りかぶると、悪魔はニタリと笑って爪を向けた。
「俺かァ? 俺ァ、魔王の配下って奴だ。今魔王様は封印されてんのはテメェら人間も知ってんだろォ?」
「易々と受け止めるのね……! ええ、知ってるわ。その封印を解いてアタシが魔王をぶっ飛ばしてやるつもりよ!!」
彼女の剣と悪魔の爪が交差する。
ソリスの額には汗が流れており、必死に押し込んでいるというのに、悪魔は愉快そうに顔を歪めている。
「そりゃいいナァ! お前らが封印を解いてくれるなら俺たちも万々歳だ! ……けど、俺たちの望む復活には魔炎が必要だから、お前たちとは相容れねェナァ」
そして悪魔は腕を振る。
いとも簡単にソリスの体が飛ばされたかと思うと、奴は吹き飛んでいく彼女の腕を掴む。
そしてその肩をグリグリと握ったかと思うと――
「――見るな、リドゥ! 君は情報を集めろ! ソリスが引き出した情報は聞いたな!? 魔炎が僕たちにとって最大の敵だ! 僕に伝えろ!」
「ぐッ……ソリス……!!」
ソリスの腕が弾け飛ぶ。そんな風に破壊されているとは思わなかった。次いで炎が彼女を包むが、それはマントにより無効化される。
彼女が失った肩を抑えて歯を食いしばっている。俺をチラと見る。本当に苦しそうに、しかし俺を安心させようと片目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる