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080 祝福の使い方
しおりを挟む「フレア!」
「炎装……!」
ソリスがフレアを纏い、飛び出した。
ルーンはその様子を見ながら、早口で俺に伝える。
「見たところ魔族のように見える。僕も文献でしか知らないけれど、魔大陸にいる強力な魔人の一人かもしれない。あの禍々しい魔力からは絶対に逃れられないから、あいつが現れた時点で僕らの負け。だけどあんな奴が結界を超えて頻繁に出入りしているとも考えられない。きっと何か条件があるはずで、多分それは結晶――!」
ソリスの腕が弾け飛んだ。
目を覆いたくなる光景。なのに、ソリスは歯を食いしばって叫び声すら上げない。
「心を疲労させるな、リドゥ。君はやり直しの力を持っているとはいえ、心へのダメージは直らない。治せない傷を負ってはいけないんだ」
悪魔が何かを呟いた。直後、ソリスの体が炎に包まれた。
「ダメだ、時間切れだリドゥ。今聞いたことを僕に伝えてくれ」
光が溢れる。
「相手は魔族かもしれないとルーンが言っていた! 結界を超えるのはあり得ないから発動条件があって、その条件は多分結晶だって!」
「わかった。考えよう」
「それとソリス! 俺の防火のマントを持っていたら羽織ってくれ! アイツはまず火炎魔法を使ってくる!」
「良い情報よ。もう数秒稼げそうね」
悪魔が出てくるまであと二十秒ほど。ルーンが杖を構えたまま思考している。
ソリスがマントを装着する。赤いマントが、彼女の髪とよく合っていた。
「見付けたぞォ、テメェらが結晶を破壊しやがったんだナァ!」
「炎装!!」
再びソリスが悪魔へ突っ込んでいく。
「結晶の破壊に対して言及していることから、結晶を破壊することが僕たちの間違いだったかもしれない。僕の攻撃とソリスのタッグじゃ全く歯が立たない。他の魔法はどうかな……ライトニング! アイスストーム!」
ソリスの腕が再び弾け飛ぶ。ルーンが彼女を援護して魔法を唱えた。
悪魔は大きく手を広げると、魔法陣を出現させてそれを掻き消す。
その隙にソリスは残った手で剣を拾い直すと、またも悪魔へと向かっていく。
「炎、雷、氷は効かない。ソリスにフレアを掛けるのも無駄かもしれない。光魔法を試すように僕に言ってくれ。魔法陣は掻き消しているだけで吸収はされていないらしい。ということは相手も魔法を打ち消すために魔法を使用しているはずだ。今の僕では圧倒的に魔力量が負けているから出来ないけれど、無限に魔法を当てれば相手の魔力を枯渇させることも可能かもしれない」
悪魔は炎を撃ちだし、ソリスを焼く。
しかし防火のマントによってそれが打ち消された。
「アンタはあの連中とどういう関係なのよ!!」
「あァ? 死にかけのガキのセリフにしちゃ随分理性的な質問だナァ。冥途の土産、って奴かァ?」
ソリスが悪魔に刃を立てながら叫んだ。
奴は爪だけで彼女の剣を受け止めると、ニタニタと笑う。
「アイツらには魔炎を集めさせてんだよ。折角溜まった魔炎を無駄に使うわ、転送装置の結晶まで破壊しやがるから、緊急措置で俺まで召喚されてよォ。どうだ、こんなもんでいいか?」
「まだ、話すことあるでしょ……!」
ギリギリと歯を食いしばらせながら、ソリスがちらと俺を見た。
彼女もどうにか情報を残そうとしてくれている。
「あァん? お前のその戦い方、どっかで見たことあんナァ……」
悪魔がポリポリと頭を掻きながら目を瞑った。
その様子を見ていたルーンが俺の近くで囁く。
「魔炎は恐らく魔大陸の方へ転送されている。魔の導きは魔炎を集め、魔大陸に送るのが仕事かもしれない。やはり結晶を壊すのは悪手だ。結晶を壊さない方法は後で相談してくれ。あの悪魔は会話に答えるくらいには僕たちを下に見ている。ソリスに出来るだけ会話するように伝えるんだ」
「そこの白髪のガキも、黒髪のガキになんか伝えてんだよナァ……やっぱ見たことあるよナァ……」
悪魔と目が合う。ゾワ、としたものが背を這いまわると、直感的に俺は画面を取り出した。
「まさかその動き! 情報を集めようとする戦い方! テメェら、転生者か――!」
「リドゥ! 君の力がバレている! 絶対にバレるな!!」
瞬間、悪魔が俺の右手を潰した。いつの間にか傍に立っているこの力。ソリスとの戦いでは如何に手加減していたかが窺える。
俺は悲鳴を上げそうになるが食いしばり、反対の手で画像に触れた。
ああ、歯を食いしばって分かった。さっきソリスが腕を破壊された時も、こうやって我慢していたんだ。
俺の心に、負担を掛けない為に――
「――厄介だナァ! テメェ!!」
悪魔が俺の顔面を掴み、指を食い込ませてくる。ギリギリと嫌な音を立てて骨が破壊されていくのを感じた。
だが間に合っている。
光が溢れる。
「ルーン、ソリス!!」
俺は先程見たものを二人に伝える。
「見付けたぞォ、テメェらが結晶を破壊しやがったんだナァ!」
「らあああああ!!!」
「光撃魔法、サンレイズ!!」
ソリスが斬りかかると同時に、ルーンが光魔法を唱えた。
杖の先から光の筋が襲い掛かる。俺の練術、煌々練波と似ている。
「ブラックウインド!」
そこで初めて悪魔が防御の為に魔法を唱えるのを見た。
メーネも使っていた魔法で、黒い風が目の前に吹き荒れると、ルーンの光魔法が打ち消される。
「ルーン!」
「ああ、光魔法はもしかしたら有効かもしれない。闇魔法を使用して防いだのは初めてだろ? 光魔法はただ打ち消すことは出来ないのかもしれない。ソリスに直接光魔法を使ってもらうのがいいかもしれないけれど、僕たちはまだ光魔法を剣に纏わせる技術はないんだ」
「アンタ、一体何者よ!!」
ソリスが赤い剣を振りかぶると、悪魔はニタリと笑って爪を向けた。
「俺かァ? 俺ァ、魔王の配下って奴だ。今魔王様は封印されてんのはテメェら人間も知ってんだろォ?」
「易々と受け止めるのね……! ええ、知ってるわ。その封印を解いてアタシが魔王をぶっ飛ばしてやるつもりよ!!」
彼女の剣と悪魔の爪が交差する。
ソリスの額には汗が流れており、必死に押し込んでいるというのに、悪魔は愉快そうに顔を歪めている。
「そりゃいいナァ! お前らが封印を解いてくれるなら俺たちも万々歳だ! ……けど、俺たちの望む復活には魔炎が必要だから、お前たちとは相容れねェナァ」
そして悪魔は腕を振る。
いとも簡単にソリスの体が飛ばされたかと思うと、奴は吹き飛んでいく彼女の腕を掴む。
そしてその肩をグリグリと握ったかと思うと――
「――見るな、リドゥ! 君は情報を集めろ! ソリスが引き出した情報は聞いたな!? 魔炎が僕たちにとって最大の敵だ! 僕に伝えろ!」
「ぐッ……ソリス……!!」
ソリスの腕が弾け飛ぶ。そんな風に破壊されているとは思わなかった。次いで炎が彼女を包むが、それはマントにより無効化される。
彼女が失った肩を抑えて歯を食いしばっている。俺をチラと見る。本当に苦しそうに、しかし俺を安心させようと片目を閉じた。
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