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1.始まりナディア連行
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華やかな衣服と剣と魔法の時代。
絶対的な力が世を支配する中でも、女神への信仰は薄れることはなかった。
建国の歴史が浅いロンダル王国でも、女神の能力を顕現する聖女は尊き存在である。
聖なる祈りは厄災を鎮め、あらゆる大病を癒やし悪神をも退け、余すことなく国中に平和をもたらすと云われてきた。
しかし、いつしか王家の政争の駒や、お飾りとなり、国の宝どころか王家の使い捨てのアイテム扱いとなっていく──
「こんな夜更けに、ご冗談は、よしてください⋯⋯」
──ロンダル王家への叛逆罪──
突然、私は兵士を引き連れた役人に叩き起こされ、全く身に覚えすらない、罪状の数々を書かれた逮捕状を見せられた。
「あのう、部屋をお間違いでは?」
「チッ」
その役人は、私の反応に被せるように舌打ちする。
気が短いのか落ち着きもなく、右足を貧乏ゆすりし、ギョロ目で睨む。
「ええぃ、繰り返す。お前は畏れ多くも殿下の婚約者であり、聖女でありながら、敵国に通じていたのは明白である。ナディア・フェレス。さぁ神妙に縛につけ」
一寸の反論さえ許さない勢いで役人はまくし立てた。
まるでもう罪人のように、大柄な数人の兵士に肩や両腕を掴まれる。
強引に仮の自室から引っ張りだされ、無防備で地味な夜着のまま、後ろ手を荒縄で縛られてしまう。
「これは何かの間違いです⋯⋯アレイシ殿下に申し⋯⋯」
「うるさい! 今の聖女は文字も読めんのか!」
私の黒い瞳に数人の告発者と、命令者にアレイシ王太子の名前が飛び込んでくる。
「⋯⋯嘘」
全く信じられなかった。
脳内に衝撃となって押し寄せる疑問。
ほんの昨晩も、王太子に抱きしめられ、おでこに優しい口づけをしてもらった。あの柔らかな唇の感触はまだ残っている。
けれど、確定された逮捕状。
王太子の命令は今や実質王命であり、罪人は即捕縛されても、即日投獄されても、裁判でなければ罪に問う告発者などへの反論はできない。
「よし。引っ立てい」
愕然とする私の背中を無理やりギョロ目の役人は押した。長い黒髪が乱れると隣の兵士が手で触り、大げさに鼻を広げ匂いを嗅ぐ。その笑顔はいやらしく見え、何も言い返せなかった。
(ううぅ⋯⋯)
そもそもロンダル王家と隣国であり、縁戚でもあるミネルーセ王家との争いとは──
お互い海に面し海上貿易が盛んで栄えていたが、連年の飢饉により関係が悪化。もともとあった些細な貿易利権だったが、海産物の値の釣り上げ、漁域侵犯など争いの火種はあらゆる所に広がり泥沼化した。
争いは互いの国の王族や公爵家など、高位貴族の暗殺事件にも影響を及ぼし始めた。
さらには、国境の小規模な軍事衝突から全面戦争へと発展していき、両王国の被害は甚大だった。
それが先月、ミネルーセの聖女が亡くなったことにより、ミネルーセ側を大いに支えていた数々の奇蹟は消え失せた。
ここぞとばかりに、アレイシ王太子は攻勢をかける。
この勝機を逃さない大攻勢により、全地域でロンダル側の有利となった。
ロンダル王国はミネルーセ王国との長年の戦争に区切りをつけ、もはや王都を陥落させるのみとなっている。
けれど、私は聖女の力を失わないため、婚約者であるアレイシ王太子とは清い関係を続けていた。
なのに罪状には敵国への密通の他多数。
ましてマートン伯爵との不義密通など事実無根だった──
──取調室につながる廊下の角で腕を組み、待ち構えていた王太子直属の親衛隊員。
その男は私を一瞥し、ギョロ目の役人の前に立ちはだかる。
「おい、アレイシ殿下が直々に尋問するので、聖女を寝室にお連れせよ。直近の火急命令である」
「へっ!? 殿下が直に⋯⋯は、ははっ」
突然、声をかけられて驚く役人は余計に目をギョロギョロさせる。それは、明らかな王太子命令のブッキングだった。
しかし、ロンダル王家の紋章板を持つ親衛隊及び側近が優先。
結局は役人は突然の王太子命令でも従うしかなく、私を彼の寝室に連行していく。
(よかった。アレイシ様に直接、無罪を主張できる。きっと私を信じてくださるわ)
絶対的な力が世を支配する中でも、女神への信仰は薄れることはなかった。
建国の歴史が浅いロンダル王国でも、女神の能力を顕現する聖女は尊き存在である。
聖なる祈りは厄災を鎮め、あらゆる大病を癒やし悪神をも退け、余すことなく国中に平和をもたらすと云われてきた。
しかし、いつしか王家の政争の駒や、お飾りとなり、国の宝どころか王家の使い捨てのアイテム扱いとなっていく──
「こんな夜更けに、ご冗談は、よしてください⋯⋯」
──ロンダル王家への叛逆罪──
突然、私は兵士を引き連れた役人に叩き起こされ、全く身に覚えすらない、罪状の数々を書かれた逮捕状を見せられた。
「あのう、部屋をお間違いでは?」
「チッ」
その役人は、私の反応に被せるように舌打ちする。
気が短いのか落ち着きもなく、右足を貧乏ゆすりし、ギョロ目で睨む。
「ええぃ、繰り返す。お前は畏れ多くも殿下の婚約者であり、聖女でありながら、敵国に通じていたのは明白である。ナディア・フェレス。さぁ神妙に縛につけ」
一寸の反論さえ許さない勢いで役人はまくし立てた。
まるでもう罪人のように、大柄な数人の兵士に肩や両腕を掴まれる。
強引に仮の自室から引っ張りだされ、無防備で地味な夜着のまま、後ろ手を荒縄で縛られてしまう。
「これは何かの間違いです⋯⋯アレイシ殿下に申し⋯⋯」
「うるさい! 今の聖女は文字も読めんのか!」
私の黒い瞳に数人の告発者と、命令者にアレイシ王太子の名前が飛び込んでくる。
「⋯⋯嘘」
全く信じられなかった。
脳内に衝撃となって押し寄せる疑問。
ほんの昨晩も、王太子に抱きしめられ、おでこに優しい口づけをしてもらった。あの柔らかな唇の感触はまだ残っている。
けれど、確定された逮捕状。
王太子の命令は今や実質王命であり、罪人は即捕縛されても、即日投獄されても、裁判でなければ罪に問う告発者などへの反論はできない。
「よし。引っ立てい」
愕然とする私の背中を無理やりギョロ目の役人は押した。長い黒髪が乱れると隣の兵士が手で触り、大げさに鼻を広げ匂いを嗅ぐ。その笑顔はいやらしく見え、何も言い返せなかった。
(ううぅ⋯⋯)
そもそもロンダル王家と隣国であり、縁戚でもあるミネルーセ王家との争いとは──
お互い海に面し海上貿易が盛んで栄えていたが、連年の飢饉により関係が悪化。もともとあった些細な貿易利権だったが、海産物の値の釣り上げ、漁域侵犯など争いの火種はあらゆる所に広がり泥沼化した。
争いは互いの国の王族や公爵家など、高位貴族の暗殺事件にも影響を及ぼし始めた。
さらには、国境の小規模な軍事衝突から全面戦争へと発展していき、両王国の被害は甚大だった。
それが先月、ミネルーセの聖女が亡くなったことにより、ミネルーセ側を大いに支えていた数々の奇蹟は消え失せた。
ここぞとばかりに、アレイシ王太子は攻勢をかける。
この勝機を逃さない大攻勢により、全地域でロンダル側の有利となった。
ロンダル王国はミネルーセ王国との長年の戦争に区切りをつけ、もはや王都を陥落させるのみとなっている。
けれど、私は聖女の力を失わないため、婚約者であるアレイシ王太子とは清い関係を続けていた。
なのに罪状には敵国への密通の他多数。
ましてマートン伯爵との不義密通など事実無根だった──
──取調室につながる廊下の角で腕を組み、待ち構えていた王太子直属の親衛隊員。
その男は私を一瞥し、ギョロ目の役人の前に立ちはだかる。
「おい、アレイシ殿下が直々に尋問するので、聖女を寝室にお連れせよ。直近の火急命令である」
「へっ!? 殿下が直に⋯⋯は、ははっ」
突然、声をかけられて驚く役人は余計に目をギョロギョロさせる。それは、明らかな王太子命令のブッキングだった。
しかし、ロンダル王家の紋章板を持つ親衛隊及び側近が優先。
結局は役人は突然の王太子命令でも従うしかなく、私を彼の寝室に連行していく。
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