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11.ナディア救出

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──コンコン。

私がドアに近づく決心を固めた後。
またドアから、今度は音を抑えたようなノック音がした。

「ナディア様。ご無事ですか?」

低い声が私の名を呼ぶと、レオナールとともに肩が跳ね上がった。

「⋯⋯だだだ、誰ですか?」

(あれ、なんか声が出ちゃってる!?)

心臓がバクバクする。
振り返ると、レオナールが手をクロスさせバツを作っていた。どうやら、動いた私の位置が消音ミュートの範囲外だったらしく、首も激しく横に振っている。

「おぉ。第五騎士団のパージです。今すぐ逃げる準備をしてください」

「あぁ⋯⋯パージ団長。今、いま脱獄!? で、でも私は裁判で真実を告発します」

「う、団長の代行です」

知っている名前を聞き、安心した。
もう不思議と声がパージ団長代行と認識し、聞こえてくる。

「おいおい⋯⋯陰謀くさいのに正当な裁判になるのか?」

レオナールが口に手をあて小声で指摘してきた。心配そうに眉根を寄せている。

「えっ、あ、たぶ⋯⋯ん」

(あうう、自信なくなるような)

ロンダル王国の裁判は主に、重犯罪を取り扱う上級裁判と、軽犯罪の下級裁判とに別れていた。

私のは上級裁判だと思うけど、その場合必ず弁護人や複数の証人を立てれる。
きっと無実だと証明できると考えていた。

「無駄です。普通、取り調べは司法官ですが、ナディア様の場合は殿下の親衛隊員です。まともな裁判すら開かれず、見せしめの公開処刑でしょう」

「そんな⋯⋯私が、処刑される⋯⋯」

改めて自分の甘さを痛感した。
レオナールが隣で、ほらねとばかりに頷いている。

確かにパージ団長代行の言う通りだった。
取り調べがアレイシ王太子の側近なら即有罪しかない。

それに裁判官は王から指名された中立な役人が務めるが、今ならば確実に王太子側の役人だ。必ずしも公正な裁判とはならず、重い刑罰だろう。

あと、もしも証拠に乏しい場合、合議や判決に困った時には、運任せな神明裁判も行なわれていた。しかし、それも判決確定の理由づけにすぎなかった。

「どうか生き伸びることだけ考えてください。聖女救出の有志を集いました。安全な場所までお連れいたします」

「⋯⋯わかりました」

「では、扉から少し離れてください」

ゴンゴンと体当たりのあと扉が破壊される。
パージ団長代行を含め、それぞれ顔に見覚えのある五人の騎士が控えていた。銀色の鎧姿が安心感を与えてくれる。

この先のことを考えると不安が押し寄せて来るけれど、今は重い憂鬱が晴れた開放感があった。
城の狭い一室に長い時間監禁されていたから、余計に外が広く感じる。
両手を広げるだけで骨が軋んだ。
伸びをして澄んだ空気を吸い込む。

「んんん、空気が澄んでる」

「そうだね。美味しいね」

隣で伸びをするレオナールが、満面の笑みで頷く。
拘束されていた同志──私より長い日々牢屋にいた彼の気持ちが伝わってくる。
心からの笑顔、誰にも縛られない自由が愛おしい。

「三日間よく耐えましたね。さぁ、行きましょう」

「え? はい⋯⋯ありがとうございます」

「「「そんな、もったいない」」」

私のパージ団長代行へのお礼に、何人かの騎士の声がハモった。
一番背が高くガタイのいいパージさんが、じろりと睨むとみんな静かになる。

「で、彼は誰ですか?」

「彼!?」

パージ団長代行の言葉に一同の視線が自然と、レオナールに集まっていた。

「俺はナディア様の従者です」

「あ、うん。彼も一緒にお願いします」

笑顔で私にウインクするレオナール。
明らかな嘘だけど、パージ団長代行たちには、今は説明がうまくできないので、とっさに頷く。

ああ、でも悪夢の夜から──

あれから三日も経ったのが実感がない。
レオナールに魔法を教わったのも、ほんのつかの間のことなのに、まるで靄がかかったように記憶もはっきりしなかった。

「右から、ナルチカ、ハラル、ビーフ、ポークです」

パージ団長代行が騎士を順に紹介すると、背後から鋭い声が飛ぶ。

「ちょっ、ビーフじゃね。オレはビリーだ!」

ビーフと言われていた長髪の優男。
年は私と同じくらいに見える。

「ポークだと? わしはポンプだ。団長代行はホースだろ」

ポークと言われ怒る、少し薄毛なドワーフみたいな体型のポンプさん。

「俺がホースね。って、牧場騎士団か!?」

本当に牛や豚のような顔マネをしてふたりは怒り、部下を紹介したパージ団長代行も馬の顔をして応えた。

「ふふっ、あぁ、ごめんなさい。ふふふっ」

いきなり口論が始まって、最初は呆気にとられたけど、思わずふきだしてしまう。

ナルチカさんもハラルさんも笑っている。私に気を遣って、この場を和ませているのが分かる。
温かい。

「すぐ足枷は壊します。動かないでください」

「はい」

短髪のナルチカさんが鎖切りの大バサミで切断する。牛マネのビリーさんと豚マネのポンプさんが私を支えてくれた。
パージ団長代行と左目が眼帯のハラルさんが周りを警戒した。

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