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14.ナディア逃避行
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王城が聖女の脱走で、大騒ぎになっていると思う頃──
すでに私たちは王都から離れていた。
陰に陰へと野良猫のように警戒し、小さな物音に怯えながら夜通し歩いた。
東の空が白みを増し、郊外に出てからは、なるべく大きな街道を避けた。
もちろん警備の厳しい大きな街も迂回する。
聖女の白を基調とした衣服はリュックに詰め込み、私は真逆の黒いローブを纏い旅人を装う──
「ナディア様。これをお使いください」
同じ黒いローブを纏う大柄な男が、私に薄青色のハンカチを差し出す。
背中に大剣を担ぎ、冒険者を装うパージ団長代行だ。歩みを私に合わせてくれる。
「う⋯⋯ううっ⋯⋯ごめんなさい」
瞳にたまった涙が頰を流れた。
「いえ、悲しまないでください。我ら聖女を護衛する騎士として当然です。それに奴らはしぶといから、無事ですよ」
「はい。ハラルさんとナルチカさんの無事を祈ります」
門の見張りを足止めした騎士たちの安否と、慣れない逃亡など、極度の緊張で凝り固まっていた私の心と身体。
それを解きほぐすように、パージ団長代行は優しい言葉をかけてくれる。
「お、帰ってきたな」
ちょうどY字に別れる道に差し掛かると──
辺りを偵察していたビリーさんとポンプさんが戻ってきた。
レオナールを含め灰色のローブを纏い、旅の神官戦士を装っている。
さらに、ザルコさんはマートン伯爵の別邸への早急連絡と、安全を確認するために先行していた。
「どうだった?」
パージ団長代行がポンプさんに尋ねる。
「この先は簡易ながら、関所があったぞい」
ポンプさんは空を恨めしそうに見上げ、近道なのに残念だと首を振る。
「やっぱり、左側の間道は行けそうな感じだった。でさぁ、オレ右側は罠くさいって言ったろ?」
ビリーさんがポンプさんを意味ありげにチラ見し、自信満々に胸を張った。
「うむ、仕方ない。遠回りだが、左に進む」
「はい」
パージ団長代行の判断に私は頷き、左の道に向かう。
「あろ? 最初に左側と、わし言ったろ。ビリーは右側と言ってたろ。だから互いに逆方向を偵察したのを忘れたんか?」
「オレぇ、そうだったっけかな?」
ポンプさんがビリーさんの言葉に食って掛かった。彼のおどけて惚けた態度に、不穏な空気が漂う。
「おいこら、もうやめろ」
パージ団長代行が止める。
黙って見ていたレオナールはフードの奥で溜息をついていた。
「レオナール。疲れた?」
「いいえ。聖女様こそ大丈夫ですか?」
隣から従者の模範のような言葉を返し、レオナールは真っ直ぐ私を見つめてくる。
「大丈夫よ」
「そろそろ、アレが近いのでは? 我慢するのは身体に悪いですよ」
「我慢って⋯⋯」
なんとなく彼が何を言いたいのか分かった。
気を利かせているつもりなのか、小声なのでか、余計に意識してしまい内股気味になってしまう。
「ほら、もじもじしてる」
「し、してない」
自分に妹がいるからと、女の子を分かった気になる兄男。
(いい場合もあるけど、今は過剰な心配です)
それにお節介と過保護を混ぜた、得意げあるあるは自分の兄で知っていた。
「俺が見張りするから、どうぞ」
「ち、ち、違うし、聖女はしないのよっ」
顔が火のように火照り、ついつい大声になってしまった。
背中の汗がショーツに伝う。
恥ずかしくて地面を踏みしめていた右足が、小石を蹴ってしまう。
「はふっ、流石、聖女様じゃ」
どこか抜けてるポンプさんの言葉に、空気は和んだ。
けれど、この先への不安感は、自然の針葉樹さえも邪悪な木に感じてしまう。
すでに私たちは王都から離れていた。
陰に陰へと野良猫のように警戒し、小さな物音に怯えながら夜通し歩いた。
東の空が白みを増し、郊外に出てからは、なるべく大きな街道を避けた。
もちろん警備の厳しい大きな街も迂回する。
聖女の白を基調とした衣服はリュックに詰め込み、私は真逆の黒いローブを纏い旅人を装う──
「ナディア様。これをお使いください」
同じ黒いローブを纏う大柄な男が、私に薄青色のハンカチを差し出す。
背中に大剣を担ぎ、冒険者を装うパージ団長代行だ。歩みを私に合わせてくれる。
「う⋯⋯ううっ⋯⋯ごめんなさい」
瞳にたまった涙が頰を流れた。
「いえ、悲しまないでください。我ら聖女を護衛する騎士として当然です。それに奴らはしぶといから、無事ですよ」
「はい。ハラルさんとナルチカさんの無事を祈ります」
門の見張りを足止めした騎士たちの安否と、慣れない逃亡など、極度の緊張で凝り固まっていた私の心と身体。
それを解きほぐすように、パージ団長代行は優しい言葉をかけてくれる。
「お、帰ってきたな」
ちょうどY字に別れる道に差し掛かると──
辺りを偵察していたビリーさんとポンプさんが戻ってきた。
レオナールを含め灰色のローブを纏い、旅の神官戦士を装っている。
さらに、ザルコさんはマートン伯爵の別邸への早急連絡と、安全を確認するために先行していた。
「どうだった?」
パージ団長代行がポンプさんに尋ねる。
「この先は簡易ながら、関所があったぞい」
ポンプさんは空を恨めしそうに見上げ、近道なのに残念だと首を振る。
「やっぱり、左側の間道は行けそうな感じだった。でさぁ、オレ右側は罠くさいって言ったろ?」
ビリーさんがポンプさんを意味ありげにチラ見し、自信満々に胸を張った。
「うむ、仕方ない。遠回りだが、左に進む」
「はい」
パージ団長代行の判断に私は頷き、左の道に向かう。
「あろ? 最初に左側と、わし言ったろ。ビリーは右側と言ってたろ。だから互いに逆方向を偵察したのを忘れたんか?」
「オレぇ、そうだったっけかな?」
ポンプさんがビリーさんの言葉に食って掛かった。彼のおどけて惚けた態度に、不穏な空気が漂う。
「おいこら、もうやめろ」
パージ団長代行が止める。
黙って見ていたレオナールはフードの奥で溜息をついていた。
「レオナール。疲れた?」
「いいえ。聖女様こそ大丈夫ですか?」
隣から従者の模範のような言葉を返し、レオナールは真っ直ぐ私を見つめてくる。
「大丈夫よ」
「そろそろ、アレが近いのでは? 我慢するのは身体に悪いですよ」
「我慢って⋯⋯」
なんとなく彼が何を言いたいのか分かった。
気を利かせているつもりなのか、小声なのでか、余計に意識してしまい内股気味になってしまう。
「ほら、もじもじしてる」
「し、してない」
自分に妹がいるからと、女の子を分かった気になる兄男。
(いい場合もあるけど、今は過剰な心配です)
それにお節介と過保護を混ぜた、得意げあるあるは自分の兄で知っていた。
「俺が見張りするから、どうぞ」
「ち、ち、違うし、聖女はしないのよっ」
顔が火のように火照り、ついつい大声になってしまった。
背中の汗がショーツに伝う。
恥ずかしくて地面を踏みしめていた右足が、小石を蹴ってしまう。
「はふっ、流石、聖女様じゃ」
どこか抜けてるポンプさんの言葉に、空気は和んだ。
けれど、この先への不安感は、自然の針葉樹さえも邪悪な木に感じてしまう。
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