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16.山森の狩人~ユマ~
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私たちは関所を避け、迂回しながら間道へ進み、道なき道を進んでいた。
先頭のパージ団長代行が、短剣で木々や雑草を払って、できるだけ歩きやすいようにしてくれる。
続いて私とレオナール。
後方のビリーさんとポンプさんが、追手を警戒してくれていた。
「雨と落雷があるかもしれません」
「そうですか。雨をしのげる集落まで、急ぎましょう。お前ら遅れるなよ」
「「「了解!」」」
私の言葉をすぐみんなが信じてくれて、先を急ぐ。
見上げた空は白い雲が流れる青空だったが、早歩きする内にも、空に灰色の雲が覆い広がった。
遠くの空で雷鳴が聞こえる。
昨夜から休憩以外は、ずっと歩き続け披露が溜まっていた。雨が降り雷が鳴るので高い木の下で野宿すらできない。
ローブも下の衣服も、じっとり雨で濡れてきている。
(あぁ、遠く離れた故郷が恋しい⋯⋯)
脳天気な父の笑顔と、心配そうな母の顔が浮かぶ。
警戒された故郷には行けない。
もう、恐らく追手がかかっているので、どこに隠れようが長居すらできずに逃げ回るしかない。
それに安息の時間も失っていた──
カサカサ⋯⋯。
私の物思いを吹き飛ばす葉擦れ音──ほぼ、真正面から背高な草をかき分けるような音がした。
いち早くパージ団長代行が歩みを止める。
後ろの私たちには、しゃがむように指示し、自らは短剣を構え右に回り込んだ。
(追手なの? 一人? 動物?)
バクバク!
心臓が大きく鳴り響く。
明らかに気配を隠すことなく何かが、こちらに進んで来る足音が聞こえてきた。
「おおおおお!」
お互いの姿が見えない、茂みの中ギリギリの位置まで引きつけると、パージ団長代行が吠えて立ち上がった。
「きゃあああああああっ!!」
辺りに甲高い悲鳴が響く。
大きな籠を背負った少女が、大股を開いてドスンと尻もちをついた。チュニックの裾がめくれる。ショートパンツが露わになり、ぷりっと丸い美尻がバウンドした。
「ひいいぃ、命ばかりは、お許しください! 戦禍で山菜しかありませんが、全部あげますからっ!」
涙目の少女は両手を広げて大きく振り、命乞いをする。私たちを山賊か何かと勘違いしたのか、背負った籠を震えながら下ろすと斜めにして山菜を見せた。
パージ団長代行が何を言っても震えている。
「驚かせて、ごめんなさい」
「ふええっ!?」
私が慌てて頭を下げると、フードが外れてしまう。
目があってキョトンとした少女。
一応、顔をよく見られないようにすぐフードをかぶった。
「ああっ! 聖女様っっ!!」
「え!? あ、あの⋯⋯」
深い青の髪色でミディアムショートの少女は、大きく口を開けて驚き、クリクリッとした瞳を余計に見開いた可愛い娘だった。
「聖女様が覚えてないの当たり前ですけど、ユマです。うちの命の恩人です。いえ、この一帯の救世主様だよ」
「そんな、ユマさん。大げさです」
「えぇーやだ、ユマって呼んでたじゃないですか。もう」
「そぉ、だったかな?」
何だか久し振りに、近所の子に会った感を醸し出す。
興奮気味に少女はユマと名乗ると、瞳をキラキラさせて両手を合わせ祈った。
「さぁ、さぁ、家へどうぞ。ごはん一緒に食べましょ」
ボーッとする私の背中を押し、ユマは家に連れて行く。
やれやれ的な表情ながら、パージ団長代行やビリーさんもポンプさんもレオナールも、お腹の虫が合唱のように鳴っていた。
ユマの家では山の幸がお出迎え。
私たちのために地元で採れた野菜やキノコや山菜などが中心のメニュー。
それに猪鍋をご馳走になった。
三角屋根のニ階建てログハウス。
大きな丸太が組んであり頑丈で、室内は木のいい香りがする暖かい家。
大きな暖炉は、小雨に濡れた服をすぐに乾かした。
ユマの家は、おじいさんがほぼ一人で建てたという。
狩人であり山での生活を孫娘ユマに伝授した山男。
しかし、ロンダル王国の弓兵として召集され、帰ってこなかったと、ユマは涙ながらに語ってくれた──。
──その夜。
なかなか寝つけず、廊下に出ると、ばったりレオナールに会った。
「やっぱり、眠れないの?」
私の言葉にレオナールはそっぽを向いたまま首を振る。
必死で誤魔化しているようだったけど、私と目が合うと、彼は無言で頷いた。
「心配だよね、妹さんも国のことも⋯⋯」
「ナディア⋯⋯君がユマや俺の分まで泣くなよ。抱え過ぎだ。君の兄も、それにご両親も⋯⋯」
彼は苦笑して、私の瞳から溢れている涙を手で拭う。低くて柔らかな声が、ますます涙腺を刺激する。
「⋯⋯⋯⋯うん」
レオナールの言う通り、ユマのおじいさんの話を聞いて、私の家族のことを思った。
それからレオナールの異母兄を失った悲しみ。同じお母様から生まれたという、やんちゃな妹姫を心配になっていた。
「優しいのも、ほどがある」
「ごめんなさい。ユマの辛いのも、レオナールの辛いのも分かるから」
彼の整った顔が困った表情になる。
念入りに頭を撫でられた。
(レオナールこそ、優しいな)
今まで我慢してた物が、どっと溢れた。留まることのない涙。
外では屋根に雨が当たる音がし、雷鳴が響きはじめた。
お互い無言のまま、窓ガラスをゆっくりと濡らす雨雫を見つめた。
「お、おやすみなさい」
「あ、おやすみ。ナディア」
しばらくして雨音に慣れ、落ち着いてきた私の胸に安堵感が広がった。
ぎこちない就寝の挨拶の後、彼と扉の前でわかれる。隣の部屋だけど、今夜は何だか名残惜しい。
(⋯⋯何だろう⋯⋯熱い)
部屋に戻ると、また落ち着かなくなる。テーブルに置いてあった、コップの果実水を一気に飲み込む。
冷たい爽快感と潤いが満ちる中、身体が火照るのが不思議だった。
いい答えがでないまま、私はベッドに潜り込んだ。
先頭のパージ団長代行が、短剣で木々や雑草を払って、できるだけ歩きやすいようにしてくれる。
続いて私とレオナール。
後方のビリーさんとポンプさんが、追手を警戒してくれていた。
「雨と落雷があるかもしれません」
「そうですか。雨をしのげる集落まで、急ぎましょう。お前ら遅れるなよ」
「「「了解!」」」
私の言葉をすぐみんなが信じてくれて、先を急ぐ。
見上げた空は白い雲が流れる青空だったが、早歩きする内にも、空に灰色の雲が覆い広がった。
遠くの空で雷鳴が聞こえる。
昨夜から休憩以外は、ずっと歩き続け披露が溜まっていた。雨が降り雷が鳴るので高い木の下で野宿すらできない。
ローブも下の衣服も、じっとり雨で濡れてきている。
(あぁ、遠く離れた故郷が恋しい⋯⋯)
脳天気な父の笑顔と、心配そうな母の顔が浮かぶ。
警戒された故郷には行けない。
もう、恐らく追手がかかっているので、どこに隠れようが長居すらできずに逃げ回るしかない。
それに安息の時間も失っていた──
カサカサ⋯⋯。
私の物思いを吹き飛ばす葉擦れ音──ほぼ、真正面から背高な草をかき分けるような音がした。
いち早くパージ団長代行が歩みを止める。
後ろの私たちには、しゃがむように指示し、自らは短剣を構え右に回り込んだ。
(追手なの? 一人? 動物?)
バクバク!
心臓が大きく鳴り響く。
明らかに気配を隠すことなく何かが、こちらに進んで来る足音が聞こえてきた。
「おおおおお!」
お互いの姿が見えない、茂みの中ギリギリの位置まで引きつけると、パージ団長代行が吠えて立ち上がった。
「きゃあああああああっ!!」
辺りに甲高い悲鳴が響く。
大きな籠を背負った少女が、大股を開いてドスンと尻もちをついた。チュニックの裾がめくれる。ショートパンツが露わになり、ぷりっと丸い美尻がバウンドした。
「ひいいぃ、命ばかりは、お許しください! 戦禍で山菜しかありませんが、全部あげますからっ!」
涙目の少女は両手を広げて大きく振り、命乞いをする。私たちを山賊か何かと勘違いしたのか、背負った籠を震えながら下ろすと斜めにして山菜を見せた。
パージ団長代行が何を言っても震えている。
「驚かせて、ごめんなさい」
「ふええっ!?」
私が慌てて頭を下げると、フードが外れてしまう。
目があってキョトンとした少女。
一応、顔をよく見られないようにすぐフードをかぶった。
「ああっ! 聖女様っっ!!」
「え!? あ、あの⋯⋯」
深い青の髪色でミディアムショートの少女は、大きく口を開けて驚き、クリクリッとした瞳を余計に見開いた可愛い娘だった。
「聖女様が覚えてないの当たり前ですけど、ユマです。うちの命の恩人です。いえ、この一帯の救世主様だよ」
「そんな、ユマさん。大げさです」
「えぇーやだ、ユマって呼んでたじゃないですか。もう」
「そぉ、だったかな?」
何だか久し振りに、近所の子に会った感を醸し出す。
興奮気味に少女はユマと名乗ると、瞳をキラキラさせて両手を合わせ祈った。
「さぁ、さぁ、家へどうぞ。ごはん一緒に食べましょ」
ボーッとする私の背中を押し、ユマは家に連れて行く。
やれやれ的な表情ながら、パージ団長代行やビリーさんもポンプさんもレオナールも、お腹の虫が合唱のように鳴っていた。
ユマの家では山の幸がお出迎え。
私たちのために地元で採れた野菜やキノコや山菜などが中心のメニュー。
それに猪鍋をご馳走になった。
三角屋根のニ階建てログハウス。
大きな丸太が組んであり頑丈で、室内は木のいい香りがする暖かい家。
大きな暖炉は、小雨に濡れた服をすぐに乾かした。
ユマの家は、おじいさんがほぼ一人で建てたという。
狩人であり山での生活を孫娘ユマに伝授した山男。
しかし、ロンダル王国の弓兵として召集され、帰ってこなかったと、ユマは涙ながらに語ってくれた──。
──その夜。
なかなか寝つけず、廊下に出ると、ばったりレオナールに会った。
「やっぱり、眠れないの?」
私の言葉にレオナールはそっぽを向いたまま首を振る。
必死で誤魔化しているようだったけど、私と目が合うと、彼は無言で頷いた。
「心配だよね、妹さんも国のことも⋯⋯」
「ナディア⋯⋯君がユマや俺の分まで泣くなよ。抱え過ぎだ。君の兄も、それにご両親も⋯⋯」
彼は苦笑して、私の瞳から溢れている涙を手で拭う。低くて柔らかな声が、ますます涙腺を刺激する。
「⋯⋯⋯⋯うん」
レオナールの言う通り、ユマのおじいさんの話を聞いて、私の家族のことを思った。
それからレオナールの異母兄を失った悲しみ。同じお母様から生まれたという、やんちゃな妹姫を心配になっていた。
「優しいのも、ほどがある」
「ごめんなさい。ユマの辛いのも、レオナールの辛いのも分かるから」
彼の整った顔が困った表情になる。
念入りに頭を撫でられた。
(レオナールこそ、優しいな)
今まで我慢してた物が、どっと溢れた。留まることのない涙。
外では屋根に雨が当たる音がし、雷鳴が響きはじめた。
お互い無言のまま、窓ガラスをゆっくりと濡らす雨雫を見つめた。
「お、おやすみなさい」
「あ、おやすみ。ナディア」
しばらくして雨音に慣れ、落ち着いてきた私の胸に安堵感が広がった。
ぎこちない就寝の挨拶の後、彼と扉の前でわかれる。隣の部屋だけど、今夜は何だか名残惜しい。
(⋯⋯何だろう⋯⋯熱い)
部屋に戻ると、また落ち着かなくなる。テーブルに置いてあった、コップの果実水を一気に飲み込む。
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