幸せになれますか

よしたけ たけこ

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side A ジュリアの物語

第26話 side 王太子

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「パトリシア、今日の君は一段と美しいね。」


デビュタントパーティーのために作ったドレスを身に纏った彼女は、本当に美しい。
そして、私が贈った賛辞の言葉に、照れたように頬をうっすらと赤く染める彼女をみて、ほっとしていた。


この頃の彼女は、すっかり落ち着きを取り戻していた。
一時期は彼女らしくない振る舞いに、どうしたよいのか分からずに困り果てていた。
そんな私の精神状態に、彼女は敏感に反応してしまって悪循環に陥っていたのだと、分かったのはあとになってから。


「さぁ、行こうか。」


彼女をエスコートして、デビュタントの会場へと足を踏み入れる。
既に今年デビュタントを迎える貴族の子息・令嬢達は入場を終えていて、私達は最後に入場した。


「本当に美しいわ、パトリシア様。」
「なんてお似合いのお二人なのかしら。」


そんな言葉を耳にしながら、ゆっくりと会場を進む。
国王陛下と王妃陛下のもとまで辿り着き、その隣に並ぶ。


「めでたくデビュタントの日を迎えた君たちを心から祝福する。本日をもって、君たちが成人を迎えたことをここに宣言しよう。おめでとう。」


国王陛下のその言葉を受けて、参列している親族が拍手と歓声を送っている。
こうして華やかなデビュタントパーティーが始まった。


「パトリシア、ファーストダンスを願えますか?」


そう言って手を差し出す。


「もちろん、よろこんで。」


女神のような笑みでその手をとった彼女とホールの中央へと進む。
そして踊り始めた私達に続いて、他の子息・令嬢達もダンスを始める。


踊り終えた所で、ふと視線を感じて見てみると、そこにはハワード公爵とジュリア嬢がいた。
目が合ったと思った途端に、彼女は眼をそらしてしまった。
どうしたのかと気になったが、今はパトリシアと共に居ることを思いだし、パトリシアへと意識を戻す。


「疲れただろう?飲み物でも飲んで、一休みしよう。」


そう言って彼女をテーブルの方へとエスコートする。
どうやら、一瞬ジュリア嬢へと気を取られた事には気付かれていないようでホッとした。


果実水をのみながら一息ついていると、パトリシアが何かをじっと見ている事に気付く。
どうかしたのかと、そちらに眼を向けて驚いた。


そこには、ハワード公爵とその嫡男である小公爵、そしてジュリア嬢が笑い合いながら楽しげに話している姿があったのだ。
噂には聞いていたが、あのハワード公爵と小公爵が笑う姿など、想像すら出来なかった。


「パトリシア、大丈夫かい?」


心配になって、パトリシアの手をそっと握った。


「大丈夫です。」


そう言って笑顔を見せたけれど、握り返された手は、少し震えていた。
やはり、一度部屋へ下がって休むべきだろうかと思案していた所で、握る力が強くなって驚く。


パトリシアを見ると、わずかに彼女の顔が強張っている。


何事かと彼女の視線の先を見ると、ハワード小公爵がこちらへと向かってきていた。


「どうして・・・。」


聞き取れないほど小さく彼女が呟いた。
その声からは恐怖の感情がみえるような気がした。


「パトリシア・・・久しぶりだな。少し話さないか?」


彼女を心配しているうちに、小公爵はすぐ傍まで来て、そう言った。
こんな事は初めてのことで、どう対応すべきなのか分からない。


「殿下、ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません。少しの間、妹を貸して頂けませんか?」


『妹』という言葉に、パトリシアがびくりと体を震わせたのが分かった。
私にも彼女のその気持ちは分かる。
彼がパトリシアのことを『妹』と言ったのは、おそらくこれが初めてだ。


その言動には、いったいどんな思惑が隠されているのかと、言葉の裏を考えてしまう。
彼の表情からは、どこか申し訳なさげな、悲しげな雰囲気を感じるが、果たしてそれは本当なのか。


「パトリシア、どうしたい?」


私では判断が付かず、彼女に確認をとる。


「・・・申し訳ありませんが、体調が優れませんので、これで失礼します。」


そう言うなり、彼女は足早にその場を去ってしまった。


その姿を悲しそうに見送る小公爵は、その手を握りしめていた。


「申し訳ないが、私もこれで失礼するよ。」


そんな小公爵を残し、侍従に陛下への言付けを頼み、足早にパトリシアの後を追う。
彼女は大丈夫だろうか。

もっと早くに彼女を連れて立ち去れば良かった。
そう後悔しながら、彼女のもとへと急いだ。


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